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統合評価モデルの開発をめぐって

Simulation

世界では

 統合評価モデルは各国の政策決定に必要なものとの認識が定着してきました。米国では国立太平洋北西研究所,マサチューセッツ工科大学,エール大学,スタンフォード大学で開発された4つのモデル,欧州では,公衆衛生環境研究所(オランダ),国際応用システム分析研究所(オーストリア),チンダル気候変化研究センター(イギリス),ポツダム気候影響研究所(ドイツ)の4つのモデルが政策決定に適用されています。日本ではAIMが代表的なモデルで,アジアの途上国とも共同で開発しています。

 統合評価モデルは今まで主に地球温暖化問題に用いられてきましたが,途上国の環境問題,自然生態系の変化,さらに環境と経済の両立といった,より広い問題の分析に使われるようになってきました。

国立環境研究所では

 2010年前後における二酸化炭素削減の可能性やその経済影響の分析は,ここ1,2年における統合評価モデルに与えられた大きな課題でしたが,京都議定書以降,2020年から2030年をめざした対策のあり方,さらに今後1世紀にわたる長期的な対策のあり方が問われています。この新しい局面に対応するため,国立環境研究所では,2001年4月から重点特別研究プロジェクトの一つとして「地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト」を開始しました。その一環として新たに次のような統合評価モデルの開発に取り組んでいます。

1. 経済とマテリアルを統合した応用一般均衡モデル

 温室効果ガス排出量の削減効果の評価に加えて,廃棄物対策や環境投資等,総合的な環境政策の経済活動への影響を分析するために,日本におけるマテリアルフロー(モノの流れ)と経済を統合した応用一般均衡モデルの開発を行っています。

 温室効果ガスを削減するための対策はいろいろありますが,鉄鋼部門における電炉の導入や廃プラスチックをコークスに代えて投入するなど,廃棄物問題にも関連した対策が数多くみられます。廃棄物問題は,地球温暖化問題と並んで重要な環境問題の1つです。廃棄物処理やリサイクルは重要ですが,そのために非常に多くのエネルギーを消費すると地球温暖化を助長させることになります。

 こうした複数の環境問題を同時に解決するような施策の導入が求められています。また,深刻な不況からの脱却を図る日本経済においては,環境問題だけではなく経済活動の活性化も見据えた対策が求められています。

 そこで,さまざまな環境政策や環境保全に向けた環境投資により,モノの流れや種々の環境負荷がどのように改善され,経済活動はどのように変化するか,ということを開発中の応用一般均衡モデルを使って総合的に評価しています。また,このモデルを発展途上国に適用し,環境を保全しながら経済発展を実現させるために必要な対策とその影響を評価しています。(増井 利彦)

2. 適応策を考慮した温暖化影響評価モデル

 排出削減に並ぶ温暖化対策として,影響に対する適応の重要度が増えつつあります。そのためAIMでは,従来から進めてきた地球規模の直接的な温暖化影響(農作物の収量低下や河川流量変化等)評価のためのモデル開発に加えて,その直接影響が連鎖的に私たちの生活に与える影響(穀物市場価格の高騰や,それにより引き起こされる食糧不足等)を包括的に見積もるためのモデル開発を進めています。そのモデルの利用により,適応策を講じた場合の効果とそれにかかる費用を比較して,私たちが取り入れるべき適切な適応策を提案します。

 また,将来の気候変動による悪影響の低減を目的とした社会資本形成が早い時期に行われた場合,気候変動の悪影響が顕著になる前(21世紀前半)にも,自然災害の緩和を通じて経済発展に役立つ場合があることに注目し,予防的な適応策投資のあり方について検討します。

 影響・適応評価の入力データである気候モデルによる将来気候予測は,影響評価結果を大きく左右します。AIMでは気候モデリング研究チームが開発する将来気候シナリオを利用し,影響・適応策評価を行っています。(高橋 潔)

3. 中国のクリーン開発メカニズム導入の評価モデル

 今後,中国における温室効果ガス排出量は急速に増加すると予想されています。一方,京都議定書で提案されたクリーン開発メカニズム(CDM)に大きな関心が集まっています。それは議定書の中ではこの規定が南北格差を埋める唯一の方法であるとともに,今後の持続的発展を考えるうえでも有効な手法と考えられているからです。CDMの実施に当たっては,国内の環境対策や長期的な経済発展に貢献することが期待されています。このため,中国にCDMを導入した場合の二酸化炭素削減効果および二酸化硫黄削減効果を推計するモデルを開発しています。

 さらに,今後アジア地域において温室効果ガスの発生量削減対策だけでなく,廃棄物対策や水資源対策等を総合化した対策を実施していく必要があることから,国別排出モデルをさらに一般化して政策分析ができるようにするとともに,アジア各国へ適用していくことを予定しています。(Hongwei Yang,中国エネルギー研究所)

4. アジア太平洋地域の環境−経済統合評価モデル

 21世紀は「アジアの時代」といわれています。それは,成長を続けるアジアの経済活動が世界への影響力をさらに増していくことが予想されているためですが,それに伴う環境問題への懸念も増大しています。そこで,アジア太平洋地域における持続的発展の可能性を探るため,次のモデル開発を進めています。

 まず,アジア太平洋地域40数カ国の経済活動・エネルギー需給・水需給・環境汚染物質の排出等を予測するため,過去のトレンド分析に主眼を置いた計量経済モデルを開発しています。各国の政策担当者や研究者たちとモデルを通じたコミュニケーションを重ねることで,各国独自の将来シナリオをデザインすることが目的です。次に,アジア太平洋地域の経済活動・環境対策などがそれぞれの地域,さらには世界に及ぼす影響を評価するため,貿易を考慮した応用一般均衡モデルを開発することで,経済的な持続可能性の道筋を探索します。そして,アジア各国レベルでの生産技術の推移を評価するため,複数の技術オプションの中から生産技術を選択するボトムアップ型のモデルを開発し,技術開発・普及の推移を評価します。これらのモデルを有機的に結合させることで,アジア太平洋地域の持続的発展の可能性を環境と経済の両面から定量的に評価していきます。(藤野純一)

AIM研究のホープ達(左より増井,高橋,Yang,藤野)
AIMは国際共同研究として開発しています。(第6回AIM国際ワークショップより)