AIMを用いた最新研究成果から
Simulation
アジア太平洋地域において地球温暖化による大きな被害が予想されていますが,一方で,この地域からの温室効果ガスの排出量が急激に伸びており,その対策が緊急の課題となっています。ここでは,アジア太平洋地域での対策の可能性,温暖化による被害,さらに米国が京都議定書から離脱したときの経済影響の3つについて紹介します。
1. アジア太平洋地域の温室効果ガスの排出量予測
京都議定書では,発展途上国の温室効果ガス削減は義務付けられませんでしたが,発展途上国の対策の必要性は認識され,今後の排出見通しと削減可能性に大きな関心が集まっています。AIMモデルを用いて,アジア太平洋各国における温室効果ガス排出量の伸びと,事前に対策を講じた場合の効果を予測しています。将来の予測は社会がどのような方向に進んでいくかによって違ってきますが,今後世界が高成長を持続すると想定した場合,アジア太平洋地域の経済発展のポテンシャルは著しく大きく,また石炭から他のエネルギーへの燃料転換が進まないことから,この地域での二酸化炭素(CO2)排出量の伸びは圧倒的に大きいものと推定されます。
中国においては,急速な経済発展によってエネルギー消費量は大きく伸び,2030年には世界第1位の温室効果ガス排出国になることが予想されます。この伸びが,省エネ技術導入などの温暖化防止対策によってどこまで削減できるかを推計しました。このまま高成長が続けば,2030年には2000年に比較して2.3倍のCO2を排出すると予想されますが,たとえば省エネ技術がスムーズに導入される場合には2倍程度になると推計されました。この削減量は,日本の1990年におけるCO2排出量の約80%に相当します。
2. 温暖化による影響
温暖化により引き起こされる重大な影響の一つとして,平均気温上昇とそれに起因する蒸発散変化,降水分布変化などを反映して,農作物の生産適地が変化することが考えられます。
将来の気候予測にはいまだ大きな不確実性があるため,どの地域がどのような影響を受けるかについて正確に予測することはできません。しかし,現状で寒冷な気候が原因で農作物栽培にあまり適さないロシアやカナダといった高緯度地域で農作物生産性が向上すること,逆に現状で穀物栽培に適した気温の上限に近いところで農作物生産を行っている低緯度地域では現在栽培されている作物は生産に向かなくなり,高温に耐性を持つ品種や他の作物への変更が必要になることなどが,定量的にわかってきました。
また,温暖化の影響は必ずしも気温上昇に応じて比例して増加するものではなく,ある程度の気温上昇までは大きな影響がないにもかかわらず,ある温度を境目に急激に影響が増加する場合があります。これは,温暖化を野放しにせずに,排出削減対策を通じて抑制していく必要があることを示します。AIMでは,将来の気候予測に基づく農作物の生産性変化を推計し,さらにその推計結果に基づき,世界各国の農作物生産量・輸出入量の変化についても将来見通しを行っています。
3. 京都議定書から米国が離脱したときの経済影響
地球温暖化防止のための京都議定書の批准問題が大詰めを迎えています。離脱を表明している米国抜きでも批准すべきだとの意見は,欧州だけでなく日本国内でも少なくありません。しかし,米国抜きで議定書が発効した場合,日本や欧州は国際競争力において米国より不利となり,それぞれが被るマクロ経済的損失が心配されます。たとえば,石油化学製品や鉄鋼などはエネルギーを大量に使って生産するので,日本の企業が温暖化対策を実施した場合,対策を先延ばしにする米国企業より競争力が落ちる可能性があります。どうすれば,この経済的悪影響を回避できるのでしょうか。AIMモデルを使って検討してみました。
まず,米国も参加して京都議定書を達成する場合,2010年時点のGDPは,日本が0.28%,米国,0.47%,EUが0.41%,ロシアが0.23%下がると推定されます。これに対して,米国が不参加の場合,日本,EUのGDP損失が大きくなり,0.33%,0.43%下がると推定されます。米国に比べて国際競争力が落ちることが主な原因です。逆に米国のGDPは0.01%ほど増加します。
このような事態を避けるためには,京都議定書で認められている国際排出量取引を導入するのがもっとも効果的です。米国が参加しない場合は,排出枠の需要が減って取引価格が下がり,日欧は安い排出枠を購入することができます。これにより,日本および欧州のGDP損失は0.04〜0.06%にまで軽減されます。