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2013年10月7日

水環境保全と省エネルギーに貢献する有機性排水の無加温メタン発酵排水処理技術の開発について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ 同時配布)

平成25年10月7日(月)
独立行政法人国立環境研究所
地域環境研究センター
地域環境技術システム研究室長
   珠坪 一晃
 

   国立環境研究所では、住友重機械工業株式会社との共同研究により、新規のメタン発酵排水処理技術(グラニュール汚泥床法)を開発しました。

   一般的なメタン発酵排水処理法は、エネルギー消費を大幅に削減する技術ですが、メタン生成細菌の増殖・至適温度の特性から中・高有機物濃度(2~20 gCODCr/L)排水の中温(35~37℃)での処理にのみ適用可能でした。

   開発した新規のメタン発酵排水処理技術(グラニュール汚泥床法)では、より低有機物濃度の排水(0.3~1.0 gCODCr/L)を無加温(10~25℃)かつ短時間(2〜4時間)で処理することに成功しました。 本技術により、メタン発酵排水処理が未適用であった低有機物濃度排水の常温での省エネルギー処理(75%程度の省エネルギー率、無曝気動力+余剰汚泥の大幅削減)が可能になります。加えて、回収したメタンガスの利用による創エネルギー化も期待できます。

   今後は、技術の実用化を目指した実証性能評価に移行していく予定であり、本技術が実現化されれば、有機性排水の高速無加温メタン発酵処理技術として世界初の事例となります。
 

1.開発技術の概要

1)嫌気性排水処理技術の適用下限を大幅に拡大

 国内における産業活動の結果、多量の産業排水(約111億トン/年)が発生しています。大部分の排水は0.3~1.0 gCODCr/L程度の有機物を含み、常温(13~25℃)で排出されています。

 通常これらの排水は、好気性微生物処理(活性汚泥法)で処理されていますが、曝気(水中への酸素供給)に必要な電力消費は莫大であり(国内総電力消費の1%以上と推計)、また処理の結果多量の余剰汚泥が発生しています。

 従来のメタン発酵による嫌気性排水処理はエネルギー消費を大幅に削減する技術ですが、最も多く排出される有機物濃度が比較的低く(CODCr(注1)濃度 0.3〜1 g/L)常温(10〜25℃)の排水には、メタン生成細菌が不活性化してしまうため技術の適用が出来ませんでした。

 本研究で開発したグラニュール汚泥床法(図1)は、こうした排水にも適用が可能となりました。

2)高効率処理

 生物膜(注2)の活用によるメタン生成細菌の効率的な集積化と保持、加えて運転方法の最適化(間欠処理水循環法)によるメタン生成細菌の活性維持手法の開発により、従来メタン発酵処理に不適な条件下(低有機物濃度、無加温)でも効率的かつ短時間での排水処理を実現しました。

3)省エネルギー

 曝気(注3)が不要で余剰汚泥(注4)の発生量が少ないメタン発酵処理の適用および無加温での処理により、従来の好気性処理と比較して75%程度の省エネルギーが期待できます。加えて、回収したメタンガスの利用による創エネルギー化も期待できます。

図1
               図1 開発したグラニュール汚泥床法の概要

表-1
                     表-1 従来の排水処理法との性能比較

2.ブレークスルーのポイント

 技術開発の中で生物膜(グラニュール汚泥)をメタン生成細菌の増殖場として利用するグラニュール汚泥床の適用を考案し、今まで利用が困難であった増殖の遅い低温耐性メタン生成細菌を利用する事(効率的に生物膜に集積化する事)に成功しました。

 また、装置の運転法の最適化、具体的には処理水の循環(循環モード)による排水と生物膜の接触性向上・ガス分離促進、処理水循環停止(ワンパスモード)による、汚泥床における有機物濃度増加(=メタン生成細菌の活性化)を繰り返しながら運転する間欠処理水循環法(特許権第4982789号, 2012年)を開発し、これまで処理が困難であった低有機物濃度の排水を無加温条件で高効率に処理できるメタン発酵処理技術の基礎を確立しました。

3.性能実証とその省エネ効果

 開発した無加温メタン発酵の性能評価のため、無曝気型の後段処理 (注6)と組み合わせたシステム(図1右)を用いた実排水(精糖排水)の20℃での無加温試験を実施しました。その結果、開発したシステムは既存の好気性処理(活性汚泥)と同等の水質を安定的に発揮しました。本処理システムでは、無加温処理(加熱不要)で、曝気動力を使用せず、余剰汚泥の発生量も少なかった事から、既存の好気排水処理に対して75%の運転エネルギー削減を達成しました。

 また、排水の処理時間も2〜4時間と短いことから、処理装置の設置スペースを半減する事が出来ます。

 有機物組成が異なる飲料製造排水の17〜19℃でのメタン発酵処理試験においても、良好な排水処理性能とメタン回収性能を発揮し、今後は実機化の前段階でありますパイロット規模試験を実工場において実施していく予定です。

 これらの試験の結果から、本システムは曝気電力が不要で、余剰汚泥の発生量も少なく、かつ排水の加温が不必要な事から、技術の導入により、排水処理に関わる運転エネルギー(コスト, 温室効果ガス)の大幅削減の可能性が示されました。また、本技術の実現化は、今まで技術導入先(排水種)が限定的であったメタン発酵排水処理技術の展開に大きく寄与するものと期待されます。

4.関連する成果

  • 特許権:第4982789号, メタン発酵による排水処理方法及び装置, 2012年
  • 受賞:精糖技術研究会賞(2011年), 精糖排水処理の省エネルギー化

論文・文書

  • 1) 藤本典之, 稲葉英樹, 窪田恵一, 珠坪一晃 (2013) EGSB法による飲料系工場排水の無加温メタン発酵処理技術の開発, 土木学会論文集G(環境), 受理・印刷中
  • 2) 珠坪一晃 (2011) 低濃度有機性排水の無加温メタン発酵処理システム. 倉根隆一郎監修, バイオ活用による汚染・廃水の新処理法, シーエムシー出版, 143-152
  • 3) Syutsubo K., Yoochatchaval W., Tsushima I., Araki N., Kubota K., Onodera T., Takahashi M., Yamaguchi T., Yoneyama Y. (2011) Evaluation of sludge properties in a pilot scale UASB reactor for sewage treatment in temperate region. Water Sci.Technol. 64(10), 1959-1966
  • 4) Tsushima I., Yoochatchaval W., Yoshida H., Araki N., Syutsubo K. (2010) Microbial community structure and population dynamics of granules developed in Expanded Granular Sludge Bed (EGSB) reactors for the anaerobic treatment of low-strength wastewater at low temperature. J. Environ. Sci. Health A, 45 (6), 754-766
  • 5) Yoochatchaval W., Tsushima I., Yamaguchi T., Araki N., Sumino H., Ohashi A., Harada H., Syutsubo K. (2009) Influence of sugar content of wastewater on the microbial characteristics of granular sludge developed at 20℃ in the anaerobic granular sludge bed reactor. J.Environ.Sci.Health A, 44 (9), 921-927

5.その他

 関連情報は、国立環境研究所のホームページで閲覧することが出来ます。

 また、国立環境研究所において実施した研究の一部は、国立環境研究所特別研究(所内公募研究資金)、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構産業技術研究助成事業(若手研究グラント)の支援を受けて実施しました。

6.用語の説明

  • 注1) CODは、Chemical Oxygen Demandの略で、化学的酸素要求量ともいう。水中の有機物を酸化剤で酸化するときに消費される酸素量を表す。水環境の汚染を示す数値で、排水基準や環境基準としても使われる。そのうちCODCrは、酸化剤として重クロム酸カリウム(K2Cr2O7)を使う方法、ほかに過マンガン酸カリウム(KMnO4)を用いる方法がある。
  • 注2) 生物膜は、嫌気性細菌(メタン生成細菌を含む)により構成される直径数mm の顆粒状に生長した膜状の物質。グラニュール汚泥(顆粒状に増殖した汚泥)と呼ばれる。1つのグラニュール汚泥は、1億個以上の嫌気性細菌細胞により構成される。
  • 注3) 曝気(aeration)は、ポンプなどを用いて排水に酸素(空気)を供給すること。好気性排水処理では、酸素供給により汚濁物質が分解される。曝気に必要な電力消費が比較的大きい事が問題となっている。
  • 注4) 余剰汚泥は、有機物や窒素を含む排水を微生物(細菌)で処理することにより生じる(増殖する)余剰菌体のこと。特に好気性処理において発生量が多い(0.3〜0.4 g菌体/gCOD程度)。
  • 注5) BODは、Biochemical Oxygen Demandの略で、生物化学的酸素要求量のこと。有機物による汚濁の程度を示す数値で、微生物が好気的生物化学反応によって、水中の有機物を分解する際に消費する酸素の量。下水・排水の汚濁の程度を示す際に、20°Cで5日間に消費される酸素の量をmg/Lかppmで表現する。排水の環境中への排出基準値(排水基準)として用いられている。
  • 注6) 無曝気型の後段処理は、位置エネルギーを利用し人為的な曝気(電力消費)無しで酸素供給を行う“ろ床型”の好気性処理。

7.お問い合せ先

地域環境技術システム研究室長
担当:珠坪 一晃 (しゅつぼ かずあき)
電話:029-850-2058
E-mail:stubo@nies.go.jp

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