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2011年8月25日

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東京電力福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気中での挙動に関するシミュレーションの結果について(お知らせ)

(環境省記者クラブ、筑波研究学園都市 記者会同時発表)

平成23年8月25日(木)
独立行政法人国立環境研究所 
地域環境研究センター
 センター長 : 大原 利眞(029-850-2491)
 研究員 : 森野 悠 (029-850-2544)

 国立環境研究所の研究グループは、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴う事故によって東京電力福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気中の挙動を明らかにするために、日本中央域を対象とした大気中での移流・拡散・沈着過程のシミュレーション(大気輸送沈着シミュレーション)を実施しました。その結果、放射性物質の影響は福島県以外に、宮城県や山形県、岩手県、関東1都6県、静岡県、山梨県、長野県、新潟県など広域に及んでいることが明らかになりました。また、モデル解析から、福島第一原発で放出されたヨウ素131の13%、セシウム137の22%が日本の陸地に沈着して、残りは海洋に沈着するか、モデル計算領域外に輸送されると推計されました。本研究成果は、Geophysical Research Letters(アメリカ地球物理学連合発行)誌の学会員向け電子版に8月11日付けで掲載されました(*1)。

内容

 国立環境研究所の研究グループは、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴う事故によって東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)から放出された放射性物質(ヨウ素131とセシウム137)の大気中における輸送沈着シミュレーションを実施した。シミュレーションには、米国環境保護庁で開発された三次元化学輸送モデル(CMAQ)を改良して利用し、図1の領域(水平分解能6km)において放射性物質の放出・移流・拡散・乾性沈着・湿性沈着(*2)の過程を計算した。放射性物質の性状や物理化学特性は沈着速度を決定する重要な要素だが、本研究ではヨウ素131はガス態と粒子態の割合が8:2で、セシウム137は全て粒子態と仮定した。放射性物質の放出量とその時間変化は日本原子力研究開発機構による推計結果(*3)を用いた。

 計算された沈着量と、文部科学省による定時降下物の観測データとの比較結果を図2に示した。この定時降下物の採取には、バルクサンプラー(*4)を利用しているため、モデルで計算された沈着量と厳密な比較はできないが、ほとんどの観測地点で、モデルで推計された湿性沈着量・総沈着量(=乾性沈着+湿性沈着量)は観測値と一桁程度の範囲で一致していた。

 モデル収支解析(表1)から、福島第一原発で放出されたヨウ素131の13%、セシウム137の22%が日本の陸地に沈着して、残りは海洋に沈着するか、モデル計算領域外に輸送されると推計された。主にガス態で存在するヨウ素131は、大気から地表面へ直接沈着する乾性沈着が主要であるのに対して、粒子態として存在するセシウム137は雨や雲へ取り込まれた後の湿性沈着が支配的と推計された。

 ヨウ素131 の積算沈着量は大気濃度と同様に福島第一原発を中心に放射状に分布していたが、それに対してセシウム137の積算沈着量は、大気濃度と異なりホットスポット的に分布すると推計された(図3)。これは沈着過程の違いを反映しており、乾性沈着が主要な沈着過程であるヨウ素131は大気濃度と類似した沈着分布を示すのに対して、湿性沈着が主要な沈着過程であるセシウム137は、大気濃度に加えて降水の分布・タイミングが空間分布の重要な決定要因であるためである。

 今後は、放出過程・沈着過程などを精緻化することによってシミュレーション精度を向上するとともに、実測データがない地域での汚染実態の把握や放射性物質の環境動態を解明する研究に活用する予定である。

図1.計算領域(塗りつぶし部)と定時降下物の測定地点(赤丸)
図1.計算領域(塗りつぶし部)と定時降下物の測定地点(赤丸)。また、図中のカラーは標高、FDNPPは福島第一原発の位置を示す。
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図2.平成23年3月18日から30日における、観測された定時降下物沈着量(横軸)とモデル計算結果(縦軸)の比較
図2.平成23年3月18日から30日における、観測された定時降下物沈着量(横軸)とモデル計算結果(縦軸)の比較。黒字が湿性沈着量、青字が総沈着量(乾性+湿性)。数字は、図1の観測地点に対応。
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表1
表1.平成23年3月11日から30日における、モデルで推計された放射性物質の収支(単位はBq)。放出された放射性物質が計算領域内の大気に残存しているため、寄与率の収支は完全に一致していない。
*符号が正の場合には計算領域での放出、負の場合には計算領域からの流出・除去を意味する。
**福島第一原発からの放出量で標準化
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図3.平成23年3月11日から29日における、モデルで計算されたヨウ素131とセシウム137の積算沈着量(上図)と平均濃度(下図)
図3.平成23年3月11日から29日における、モデルで計算されたヨウ素131とセシウム137の積算沈着量(上図)と平均濃度(下図)
(画像をクリックすると拡大表示されます。)

注記説明

(*1) Morino, Y., T. Ohara, and M. Nishizawa: Atmospheric behavior, deposition, and budget of radioactive materials from the Fukushima Daiichi nuclear power plant in March 2011, Geophys. Res. Lett., doi:10.1029/2011GL048689, in press.

(*2) 乾性沈着・湿性沈着:前者は、大気中のガスや粒子が、拡散や重力、化学的な力などによって地面や海面に降下すること。後者は、ガスや粒子が雨や雪に取りこまれて地面や海面に降下すること。

(*3) Chino, M., H. Nakayama, H. Nagai, H. Terada, G. Katata, and H. Yamazawa (2011), Preliminary Estimation of Release Amounts of 131I and 137Cs Accidentally Discharged from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant into the Atmosphere, J Nucl Sci Technol, 48(7), 1129-1134.

(*4) バルクサンプラー:大気降下物を採取する装置。湿性沈着物は100%の効率で採取しているが、乾性沈着物の採取効率は不明であることに注意が必要。

関連データのリンク先

  • 国立環境研究所 東日本大震災関連ページ

  ・研究結果の解説記事
  ・ヨウ素131とセシウム137の大気濃度、沈着量、沈着積算量の空間分布(動画)

問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所 地域環境研究センター
              大原利眞 TEL: 029-850-2491
              森野 悠 TEL: 029-850-2544

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