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2009年2月15日

研究最前線第6回「国立環境研究所のアウトリーチ活動 ~研究成果をいかに一般市民に伝えるか」

 国立環境研究所が立地する茨城県つくば市の筑波研究学園都市には、多くの公的・民間研究機関が集積しており、近年、修学旅行の高校生や市民団体による研究所の見学が多くなっています。国立環境研究所にも全国から毎年約2,000人の見学者があります。さらに春と夏の研究所公開日には近隣市民を中心に合計5,000人以上が研究所を訪れています。

 このような状況の中、専門的知識を持たない市民に研究所の活動内容をわかりやすく説明することが重要になってきました。政府などが資金提供した公募型研究(競争的資金による研究)では、その成果を社会にわかりやすく還元すること、すなわちアウトリーチ活動が重視されています。

 さて、最先端の研究は難解な内容を必然的に含んでいます。それをそのまま専門家でない人に説明しても通常は理解されません。しかしながら、公的な研究機関の研究成果は、その研究資金を提供している市民に還元されるべきであり、研究の意味を理解する者がきちんと説明する責務を持つと考えられます。

 本稿では国立環境研究所が研究内容を多くの人に理解してもらうために取り組んできた内容の一端を紹介し、研究の意義やより良い研究所の在り方を考えてみたいと思います。

誰に伝えるか、どのように伝えるか

 研究の内容を説明するとき、相手のレベル(年齢、職業など)に合ったツールを用意することがポイントになります。小学生と理科系の大学生にまったく同じ説明をすることは適切ではありません。

 しかしながら、いろいろな人に研究内容の説明をしていると、相手のレベルにかかわらず、効果的な説明方法があることがわかります。一つは見学者と対話をしながら説明する方法、もう一つは見学者に研究に関連する体験をしてもらうことにより説明する方法です。前者はサイエンスカフェ、後者は体験型プログラムと近い方法です。

データを読み解くクイズで研究の意味を理解する

 地球温暖化の研究紹介を例として説明します。すでに多くの人が温暖化について何らかの知識を持っており、漠然ながらもこれは大変だと感じています。「温暖化とは何か」について説明する方法はいくつかありますが、国立環境研究所で説明する場合にはできるだけ研究所独自のデータを示しながら説明しています。図に示したデータは地球温暖化の主因と言われる二酸化炭素(CO2)濃度を研究所が測定した結果です。このデータを示したとき、多くの人は年々濃度が上がっているなと感じますが、それ以上の情報を読み取ることはなかなか難しいでしょう。例えば、このグラフは経年的には上昇傾向にありますが、1年の中では濃度が上がったり下がったりしています。この理由を皆さんにクイズ形式で質問するところから説明を始めています。質問は以下のようになります。

Q 日本の大気中のCO2濃度が季節的に変化するのはなぜか?
A 気温の変化
B 植物の光合成
C 測定の誤差
D 自動車交通量の変化

 この質問は有名なクイズ番組のような形で行うため、多くの人が興味を持って参加します。昼食後の時間帯は見学者が最も睡魔に襲われやすいのですが、クイズと解説を交えながら説明すると睡眠学習率が激減するようです。さて、この問題の正解はどれでしょうか? 実は四つとも正解です。でも一番影響があるのはBです。したがって正解はBとなります。

 このデータの解説により、CO2の観測は年1回だけ行っても意味がなく、連続的に行わないと傾向やデータの意味が把握できないことをきちんと理解してもらえます。すなわち長期的かつ正確な観測が不可欠であるという研究上の意義を理解してもらうことになります。さらに実感を持ってもらうためにもう一つのお話をします。

 夏休みの自由研究でCO2の濃度を1日1回3時間(7/20、8/10、8/31)測ったとします。特定のCO2排出源の影響がない場所で同じ時間に測れば濃度は7/20>8/10>8/31となるはずです。これを時間的に見るとCO2濃度は下がっているように見えるでしょう。でもこのデータからCO2濃度が今後も下がり続けると判断してはいけないことをこのクイズに答えた人は理解できるはずです。

 光合成の仕組みは小学校の理科で習ったことを多くの人が覚えています。相手が小学生であっても大学生であってもお互いの理解度を確認しながら説明すれば、難しい研究の内容や意義も理解してもらうことが可能です。

大気中CO2濃度の連続観測結果

「私たちにできることは何?」に答える方法

 地球温暖化の研究内容を説明した後に多く聞かれる質問が「では私たちには何ができるのか」というものです。これに答えるために研究所では独自の面白いツールを使います。写真にあるような自作の自転車発電機で見学者に電気を起こしてもらい、普段使用している家電製品を動かしてもらうのです。これを体験するとCO2排出と深い関係がある「エネルギー」が、いかに貴重なものかを実感できます。体験を終えた人に「これからは電気のスイッチは?」と聞いてみると「こまめに消します!」と即答します。これが「私たちにできること」の回答の一部になるわけです。この自転車発電システムは、地球温暖化の研究者がいろいろ調べて作った環境教育ツールですが、研究所の公開日などに大活躍しています。

 小学校の校庭の片隅に稲を育てるスペースがあります。日本の主食である米の栽培を経験することにより、農家に感謝し、食べ物を得ることの大変さを実感する教育的効果が期待できます。同じようにエネルギーについても、そのありがたさを実感し、大切に使い、ひいてはCO2を削減するモチベーションにつなげていかなければならないと思います。

伝えたいことを伝えるためのさまざまな取り組み

 研究所は見学対応以外にも、難しい研究内容を解説して市民に伝えるための取り組みを行っています。毎年東京と京都(昨年は札幌)で開催している公開シンポジウムや、季刊で発行している研究情報誌『環境儀』、最近始めたものとしてメイキングオブリサーチプロジェクト(写真で紹介する研究者の活動)などです。これらについては研究所のホームページ(www.nies.go.jp)で紹介していますので、是非お立ち寄りください。

自転車発電機をこぐ見学者

雑誌「グローバルネット」(地球・人間環境フォーラム発行)219号(2009年2月号)より引用
目次ページの写真は、国立環境研究所「夏の大公開」の様子

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