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2016年4月30日

国立環境研究所が第4期中長期計画で目指すもの
~繋ぐ・束ねる・結ぶ・引っ張る~

中島 大介

1.国立研究開発法人として

 独立行政法人通則法の改正により、国立環境研究所(以下国環研とします)は平成27 年4 月から国立研究開発法人となりました。今回の通則法改正では、従来の独立行政法人が中期目標管理法人、行政執行法人及び国立研究開発法人に分類されました。国立研究開発法人とは、研究開発に係るものを主要な業務として、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とするものとされています。国環研はこれまでも、研究開発成果の最大化を目指してきたところですが、研究所が自ら実施する研究開発成果のみならず、他機関との連携・協力を通じて国全体での研究開発成果を最大化する使命が明示されました。

2.今後5年間に向けた新たな出発

 このような状況の中、平成28年度から、国環研では第4期中長期計画が始まりました。これは環境大臣が国環研に指示した中長期目標を受けて実施されるもので、目標の設定が5年間であることから、計画期間も5年間に設定されています。なお、我が国における環境研究の方向性を示す「環境研究・環境技術開発の推進戦略」が平成27年8月に示されたことを受け、この中長期目標・計画も最新の推進戦略に即したものとしています。

 国環研では、東日本大震災以降の災害環境研究を、環境回復研究、環境創生研究及び災害環境マネジメント研究という、三本柱で推進してきました。これらの研究を更に強力に推進するため、福島県が三春町に整備した環境創造センター内に、本年4月新たに国立環境研究所福島支部を設置し、更なる災害環境研究の継続・発展の拠点とします。

 そのほか、国全体での研究開発成果の最大化に向け連携機能を強化する目的で、研究事業連携部門を設立しました。

2-1 第4期中長期計画の理念

 第4期中長期計画の作成に当たって、国環研の目指すべき姿を所内で議論し、【繋ぐ・束ねる・結ぶ・引っ張る(NIES)】の4つのキーワードでまとめました。

【繋ぐ=Integrate】様々な研究フェーズを繋ぎ、現象解明(入口)から環境問題解決(出口)まで切れ目ない研究を目指します。
【束ねる=Synthesize】多様な分野における研究力を束ね、個別の環境問題に対して多面的・統合的なソリユーションを目指します
【結ぶ=Network】国内外の研究者と社会を結ぶネットワークのハブ機能を発揮し、環境研究分野における人材育成に貢献します
【引っ張る=Evolve】国内外の研究を繋ぎ、束ね、結ぶためのハブやノードとなるべき研究者と共に研究水準を磨き、目指すべき社会像の実現に向けた環境研究の方向性を示し、自ら引っ張ります

 これらのキーワードに基づいて、第4期の研究業務を次項のように構成しました。

2-2 研究・事業構成

 第4期の研究構成は前項で示した4つのキーワードに従い、図1のように設定しました。

図 1:第4期中長期計画における研究構成図

(1)課題解決型プログラム(束ねる)

 国立環境研究所の主要な研究として、推進戦略で示されている5つの研究領域に対応した低炭素、資源循環、自然共生、安全確保及び統合の5つの研究プログラムを課題解決型プログラムとして展開します。ここでは、実行可能・有効な課題解決に繋がる研究を、従来の研究分野を超えた統合的アプローチと、国内外の関連機関・研究者・ステークホルダー等との連携体制のもと実施します。

ア.低炭素研究プログラム(低炭素で気候レジリエントな社会の実現に向けた地球規模研究プログラム)
イ.資源循環研究プログラム(持続可能な資源利用と循環型社会実現のための研究プログラム)
ウ.自然共生研究プログラム(自然共生社会構築のための生物多様性・生態系の保全と持続的利用研究プログラム
エ.安全確保研究プログラム(安全確保社会実現のためのリスク科学の体系的構築研究プログラム)
オ.統合研究プログラム(持続可能社会を実現する統合的アプローチに関する研究プログラム)

(2)災害環境研究プログラム(束ねる)

 もう一つの主要な研究として、以下の3つの研究プログラムからなる災害環境研究プログラムに取り組みます。これらは新たに設立した福島支部を中心とし、本部(つくば市)とも連携して展開します。

 ア.環境回復研究プログラム
 イ.環境創生研究プログラム
 ウ.災害環境マネジメント研究プログラム

(3)基盤的・調査研究(繋ぐ・引っ張る)

 環境問題の解決に資する源泉となるべき基盤的調査・研究も、長期的な視点において国立環境研究所の重要な使命であり、着実な実施が求められます。また、社会動向に応じて随時生じる喫緊の行政課題の解決も求められます。これらに対しては、9つの研究分野(地球環境研究分野、資源循環・廃棄物研究分野、環境リスク研究分野、地域環境研究分野、生物・生態系環境研究分野、環境健康研究分野、社会環境システム研究分野、環境計測研究分野及び災害環境研究分野)を設定し、着実に実施していきます。

(4)環境研究の基盤整備(繋ぐ)

 我が国全体の研究開発成果の最大化に貢献するため、国環研では以下の基盤整備に取り組みます。

ア.地球環境の戦略的モニタリングの実施、地球環境データベースの整備、地球環境研究支援
イ.資源循環・廃棄物に係る情報研究基盤の戦略的整備
ウ.環境標準物質及び分析用標準物質の作製、並びに環境測定等に関する標準機関(レファレンス・ラボラトリー)
エ.環境試料の長期保存(スペシメンバンキング)
オ.環境微生物及び絶滅危惧藻類の収集・系統保存・提供
カ.稀少な野生動物を対象とする遺伝資源保存
キ.生物多様性・生態系情報の基盤整備
ク.地域環境変動の長期モニタリングの実施、共同観測拠点の基盤整備
ケ.湖沼長期モニタリングの実施と国内外観測ネットワークへの観測データ提供

 以上の取組みによって整備される利用可能なデータ、試料及び情報等は、多くの環境研究での活用を通じて環境研究全体を下支えします。

(5) 研究事業(結ぶ)

 国環研で実施する業務の中には、国環研が国内外で中核的役割を担うべきもの、したがって組織的・継続的に実施すべき業務があります。これらについては「研究事業」として位置付けて体制を整備し、主導的に進めます。研究事業には、以下の5つを設定し、カッコ内に示すオフィス等を設置して推進していきます。

ア.衛星観測に関する研究事業(衛星観測センター)
イ.子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に関する研究事業(エコチル調査コアセンター)
ウ.リスク評価に関する研究事業(リスク評価科学事業連携オフィス)
エ.気候変動に関する研究事業(気候変動戦略連携オフィス)
オ.災害環境マネジメントに関する研究事業(災害環境マネジメント戦略推進オフィス)
カ.社会対話に関する事業(社会対話・協働推進オフィス)

 これらの研究事業に対して、組織的な連携のプラットフォームとしての機能を持つ「研究事業連携部門」を新たに設置しました。この機能を利用し、キャパシティ・ビルディングの場の、成果の集積、情報基盤の構築等を含めた双方向性を持つ情報の発信、交換等を強化していきます。

2-3 環境情報の収集、整理及び提供に関する業務

 自ら実施する研究業務に加え、国環研では様々な環境の状況等に関する情報、環境研究・技術等に関する情報について収集・整理し、総合的なウェブサイトである「環境展望台」を通じてわかりやすく提供する業務も引き続き実施していきます。

3.おわりに

 国環研の憲章には、「国立環境研究所は 今も未来も人びとが 健やかに暮らせる環境を まもりはぐくむための研究によって 広く社会に貢献します」と謳われています。私たちは第4期も、この高い理想と気概をもって研究に取り組み、国環研に対する国民・行政の期待に応えていきたいと思います。忌憚ないご意見、ご提案を引き続きいただければ幸いです。

(なかじま だいすけ、企画部主席研究企画主幹)

執筆者プロフィール

中島大介の写真

先の「憲章」には続きがあり、「私たちは この研究所に働くことを誇りとし その責任を自覚して・・・」と書かれています。3年前から中長期計画の策定に関わりながら、この研究所で働く全ての人が、それを誇りとできる計画になっただろうか、と自問自答しています。