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2016年4月30日

内閣府における「第5期科学技術基本計画」の策定

中島 英彰

 1995年11月に「科学技術基本法」が制定され、科学技術の重要性が国としても認識されました。この法律に基づき、1996年から5年ごとに策定されてきているのが、国の科学技術政策の方向性を示した「科学技術基本計画」です。科学技術基本法には、科学技術基本計画の内容に関して、次に挙げる事項について定めることとしています。

一、研究開発(基礎研究、応用研究及び開発研究)の推進に関する総合的な方針。
二、研究施設及び研究設備の整備、研究開発に係る情報化の促進その他の研究開発の推進のための環境の整備に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策。
三、その他科学技術の振興に関し必要な事項。

 今から20年前の第1期科学技術基本計画(1996~2000年度)に始まり、5年ごとに計4回の基本計画策定がなされ、今回2016年1月22日に閣議決定されたのが、2016年度から5年間の国の科学技術政策の方向性を示した「第5期科学技術基本計画」です。基本計画は、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)事務局での半年間にわたる有識者による議論を経て策定されました。総合科学技術会議事務局(当時)は、2001年1月に新たに内閣府に設置された組織で、国の科学技術行政の司令塔機能を担っております。国立環境研究所からは、この組織が出来た時から研究者が参事官として出向し、主に環境やエネルギー関連の科学技術行政に関連した事務局作業を推進してきております。私は2014年12月から第8代目参事官としてCSTIに出向してきたので、その策定の作業をすべて経験することが出来ました。以下に、その内容についてご紹介したいと思います。

 第1期基本計画では、政府の研究開発投資の拡充がうたわれ、期間中の科学技術関係経費総額の規模を17兆円にするという目標が立てられ、実現されました。また競争的研究資金の拡充や、いわゆる「ポスドク1万人計画」、産官学の人的交流の促進等が進められました。それを引き継いだ第2期・第3期基本計画では、新しい知の創造、知による活力の創出、知による豊かな社会の創出の3つの基本理念のもと、基礎研究の推進と政策課題対応ということで、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料という重点4分野への科学技術予算の拡充が図られました。2011~2015年度の第4期基本計画では、それまでの分野別重点化から課題達成型の重点化へと転換がなされ、グリーンイノベーションの推進、ライフイノベーションの推進、震災からの復興・再生に重きが置かれました。また基礎研究と人材育成の強化のほか、PDCAサイクルの確立やアクションプラン等の改革の徹底も図られました。また、民主党から自民党政権に変わった2013年5月にはそれまでの「総合科学技術会議(CSTP)」から「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」へと名称が変更され、イノベーションの創出による経済・社会的課題の解決により重きを置いた政策立案への役割が期待されるようになりました。

 2016年度から始まる第5期基本計画の特徴として言えるのは、それまでの科学技術の振興だけにとどまらず、科学技術をベースにしたイノベーションを創出し、研究開発の成果を産業や社会に生かし、産業競争力の強化や豊かな社会の構築に貢献するという出口戦略をより明確に記述した、ということが挙げられます。政策の柱として、「未来の産業創造と社会変革(世界に先駆けた「超スマート社会」実現)」、「経済・社会的な課題への対応」、「基盤的な力の強化(若手・女性活躍、基礎研究推進、大学改革)」、「人材、知、資金の好循環システムの構築(オープンイノベーションの推進、ベンチャー創出)」の4本柱が打ち立てられました。また、以下のような(1)~(8)の計画進捗把握のための目標値と主要指標が設定されました。(1)40歳未満の大学教員の数を1割増加させるとともに、将来的に我が国全体の大学教員に占める割合が3割以上となることを目指す。(2)女性研究者の採用割合が3割以上となることを目指す。(3)総論文数を増やしつつ、その中に占める被引用回数トップ10%論文数の割合が10%以上となることを目指す。(4)国内セクター間の研究者移動数を2割増加させることを目指す。(5)大学及び国立研究開発法人における民間企業からの共同研究の受入額を5割増加させることを目指す。(6)研究開発型ベンチャー企業の新規上場数(IPO等)を倍増することを目指す。(7)内国人の特許出願件数に占める中小企業の割合について15%を目指す。(8)大学の特許の実施許諾契約件数を5割増加させることを目指す。このような、具体的な数値目標値が基本計画の策定時に示されたのは初めてです。また同時に、基本計画期間中の政府投資の総額規模は、対GDP比1%を前提とした26兆円を目標にするとうたっています。

 第5期基本計画の章立ては、以下のようになっています。

 第1章 基本的考え方(現状認識と、科学技術基本計画の20年間の実績と課題、目指すべき国の姿、第5期基本計画の4本柱)
 第2章 未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組(未来に果敢に挑戦する研究開発と人材の強化、世界に先駆けた「超スマート社会の実現」(Society 5.0)、競争力向上と基盤技術の戦略的強化)
 第3章 経済・社会的課題への対応(13の重要政策課題ごとに、研究開発から社会実装までの取組を一体的に推進)
 第4章 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化(人材力の強化、知の基盤の強化、資金改革の強化)
 第5章 イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築(オープンイノベーション、知財戦略・標準化、地方創世等)
 第6章 科学技術イノベーションと社会との関係進化
 第7章 科学技術イノベーションの推進機能の強化(大学及び国立研究開発法人の改革・機能強化と研究開発投資の確保)

 この中で特筆すべきは、第2章で記述された「超スマート社会」と「Society 5.0」という新しい2つの概念です。「超スマート社会」とは、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことの出来る社会」であり、人々に豊かさをもたらすことが出来る社会と定義されています。また「Society 5.0」には、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会の4つの社会に続くような新たな社会を生み出す変革を、科学技術イノベーションが先導していって形成する、というメッセージが込められております。今後第5期基本計画の実施期間中に、これらの概念を研究開発コミュニティーに広げていきたいという意図が含まれております。また我々のグループが執筆を担当した第3章の経済・社会的課題への対応の中では、「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」の中で、特に「地球規模の気候変動への対応」と「生物多様性への対応」、また「海洋や宇宙など、国家戦略上重要なフロンティアの開拓」をあげております。

 第5期基本計画の中ではその他に、「オープンイノベーション」や「大学改革」、「研究開発法人改革」、「年俸制」、「クロスアポイントメント制度」、「インクルーシブ・イノベーション」、「ベンチャーへの挑戦」、「知的財産」、「国際標準化」、「司令塔機能の強化」といったキーワードも出てきております。国立研究開発法人改革と機能強化の中では、技術シーズの事業化、国際展開や人材交流、研究開発成果の最大化が期待されております。このように、基本計画は中長期的な視点に立ち、10年程度を見越しつつ5年間の科学技術イノベーション政策の姿を示すものとして策定されました。また、平成25年度からはそれとは別に「総合戦略」を毎年度策定し、政策推進の原動力として機能させてきました。今後は、中長期的な政策の方向性については基本計画において示し、その年度に特に重点を置くべき施策については、毎年の状況変化を踏まえ、総合戦略において示すこととなっております。実際、この原稿の執筆時(2016年3月)、5月の閣議決定を目指して、「総合戦略2016」の執筆・策定作業が佳境に入っております。

 なお、第5期科学技術基本計画については内閣府総合科学技術・イノベーション会議の以下のページから取得することが出来ますので、参考にしてください。
  http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html

 今回私は、環境分野の基本計画の内容を執筆する事務局として、関係の専門家や各省庁、研究機関等の意見取りまとめ・調整を行って、基本計画の策定に従事しました。国環研での研究中心の仕事とは全く内容の異なる業務であり、約半年間にわたる難しい作業ではありましたが、多くの方々の協力を得ることにより、今後5年間の国の科学技術研究開発の方向性を示すことが出来たと思っています。研究者の皆様も、国の今後の研究の方向性がよく判る内容ですので、ぜひご一読されることをお勧めいたします。本計画策定に関係された皆様の協力に感謝するとともに、本計画が着実に実行されて成果を上げることを期待しつつ筆をおくことにいたします。皆様どうもありがとうございました。

(なかじま ひであき、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官)

執筆者プロフィール

中島 英彰

2014年4月~9月まで、ドイツ・ポツダムにあるAlfred-Wegener研究所へ半年間のサバティカル研修に出かけ、彼の地での夢のような研究生活を体験。かと思いきや、帰国後2ヶ月後から2年間のお役所勤めを仰せつかり、ようやく折り返し点を通過。これぞ世に言う、「2倍返し」ならぬ「4倍返し」!!?