ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2021年4月30日

第5期中長期計画の概要

松橋 啓介

1.中長期計画とは

 中長期計画の正式な名前は、「国立研究開発法人国立環境研究所の中長期目標を達成するための計画」です。なお、中長期目標は、国が中長期的な期間について定める業務運営に関する目標を指します。国立研究開発法人は、中長期計画に基づいて研究開発業務を行うことで、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展、その他の公益に資する最大限の成果を確保することを目的としています。すなわち、国環研は、環境大臣が定める中長期目標を達成するための中長期計画に基づいて、「環境の保全に関する調査及び研究を行うことにより、環境の保全に関する科学的知見を得、及び環境の保全に関する知識の普及を図ること」を目的とする組織と位置づけられています。

2.第5期中長期計画

 令和3年度(2021年度)からの5年間は、第5期中長期計画に基づいて研究・業務を進めることになります。計画の全体は、「第1 研究開発の成果の最大化その他業務の質の向上に関する事項」と、業務運営や財務内容に関する事項等の計画を示す第2~第9に大きく分けられます。第1は、国立研究開発法人国立環境研究所法第11条に基づく3つの業務のまとまり-①環境研究に関する業務、②環境情報の収集、整理及び提供に関する業務、③気候変動適応に関する業務-に合わせて記載しています。本稿では、第5期中長期計画のうち、第4期からの変更点が多い第1にあたる研究・業務の構成について、図1に沿って概要を説明します。

 まず、「①環境研究に関する業務」を実施するために、環境省の政策体系との対応を踏まえつつ、環境研究の柱となる6つの分野(地球システム分野、資源循環分野、環境リスク・健康分野、地域環境保全分野、生物多様性分野、社会システム分野)と長期的に体系化を目指す2つの分野(災害環境分野、気候変動適応分野)を設定しました。

 次に、近い将来の環境や社会のあるべき姿及び課題を見越して、国環研が研究分野を横断して集中的・統合的に取り組むべき研究課題として、8つの戦略的研究プログラム(気候変動・大気質、物質フロー革新、包括環境リスク、自然共生、脱炭素・持続社会、持続可能地域共創、災害環境、気候変動適応)を設定しました。特に、気候危機問題については、関連する複数の関係プログラムからなる「気候危機対応研究イニシアティブ」の連携の下で一体的に推進することとしました。

 さらに、環境問題の解決に資する政策的・学術的な源泉となるべき科学的知見の創出のため、創造的・先端的な科学の探究を基礎とする研究から政策のニーズに対応した実践的研究、政策・学術を支援する知的基盤の整備、さらには社会実装に関わる事業的取組に至るまで、幅広い段階を含む基礎・基盤的取組を、各分野の下で連携も図りつつ体系的に実施することとしました。また、環境計測、観測手法の高度化等の先端的な計測研究は各分野での研究と一体的に推進し、環境計測の精度管理等に関する共通・基盤的な計測業務は分野横断的に推進することとしました。

 一方、衛星観測に関する事業とエコチル調査に関する事業は、国の計画に基づき中長期計画期間を超えて実施する事業として位置づけを見直し、着実に推進することとしました。

 また、国内外機関との連携及び政策貢献を含む社会実装の推進について記載しました。中核的研究機関としての連携を、リサーチアドミニストレーターを含め組織的に推進するとともに、国内外の連携・協働として、地方の関係主体との協働及び市民との対話型コミュニケーションの推進、国際機関や国際学術団体の活動への参画・貢献、他の法人や民間企業との連携・ネットワーク構築、環境研究の中核機関としての共同研究等、次世代の若手研究人材育成を挙げました。成果の社会実装としては、成果発表・シンポジウム開催、審議会等への参画、データベースや保存資料の提供、知的財産等の活用、民間の知見を生かした研究開発成果の普及・活用等を挙げました。

 2つめの業務のまとまりは、「②環境情報の収集、整理及び提供等に関する業務」です。これは、第4期では、環境情報の収集、整理及び提供だけだったものに、研究成果の普及を新たに追加したものです。前者は、国民の環境問題や環境保全に関する理解を深め、取組への参画等を促進するために行われる、環境展望台等の取組です。後者は、プレスリリースや多様なメディアを通じた情報発信、研究データのオープン化、一般公開等のイベントを通じた国民との対話等です。これらに一体として取り組むとともに、連携・対話を進めることで、発信力の強化と社会との信頼関係の向上を目指しています。

 3つめの業務のまとまりは、「③気候変動適応に関する業務」です。気候変動適応法に基づく業務としての技術的援助と、気候変動適応研究プログラム及び気候変動適応分野に関する基礎・基盤的取組について、一体的に推進するものです。

第5期中長期計画の研究と業務の構成図
図1 第5期中長期計画の研究と業務の構成

3.第5期中長期計画の特徴

 第4期中長期計画の策定時には、独立行政法人通則法の改正があり、国立研究開発法人としての中長期計画の構成が新たに定められました。ここでは、第5期中長期計画のとりまとめ作業に関わった立場から、主要な特徴と考えた点をいくつか示します。

 第5期中長期計画では、基本的に第4期中長期計画の構成や考え方を踏襲しています。第5期では、戦略的研究プログラムへの重点化が見直され、気候変動適応に関する業務の重要度及び困難度が(高)とされたことに加えて、基礎・基盤的取組の重要度が(高)とされたことが特徴です。また、基礎・基盤的取組の内容を再整理し、先見的・先端的な基礎研究だけでなく、政策対応型の研究や事業的取組、学術を支援する知的研究基盤整備を位置づけました。さらに、環境研究の柱となる分野を6つに再整理するとともに、第3期と第4期に取組を開始した災害環境研究、気候変動適応研究について、長期的に体系化を目指す分野として位置づけました。

 戦略的研究プログラムは、「Global Sustainability(地球規模の持続可能性)とLocal Prosperity(地域における繁栄)の両立」を目指して、環境研究・環境技術開発推進戦略に対応しつつ、5年間で明確なゴールに到達するように、第4期よりもシャープな内容とする観点から選定しました。

 第4期において研究事業連携部門が担ってきた事業や連携は、各分野や各研究プログラムで行うものと、位置づけを見直した衛星観測に関する事業とエコチル調査に関する事業とに分担し、新たに研究所として取り組むべき連携等については、連携推進部が窓口となって推進することとしました。

4.おわりに

 第5期中長期計画は国環研WEBページの研究所基本文書(https://www.nies.go.jp/kihon/chukikeikaku/index.html)から見ることができます。ぜひ読んでみていただきたいと思います。国環研の日常の研究・業務の中から、高い水準での目標達成につながる成果が得られることを目指しています。

(まつはし けいすけ、企画部 主席企画連携主幹)

執筆者プロフィール:

筆者の松橋啓介の写真

企画部兼務の仕事を通じて、各界を代表するステークホルダーや理事長、両理事の見解を直接聞く機会に恵まれ、新しい知的刺激を数多く受けることができました。ありがとうございました。

関連記事

関連研究報告書

表示する記事はありません