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2011年12月28日

化学物質リスク管理の戦略的アプローチに関する研究

【シリーズ重点研究プログラムの紹介: 「化学物質評価・管理イノベーション研究プログラム」 から】

鈴木 規之

 少し聞き慣れない研究タイトルかも知れません。国立環境研究所環境リスク研究センターでは、課題対応型研究「化学物質評価・管理イノベーション研究プログラム」を今期より開始しました。本稿では、上記研究プログラムを構成する3プロジェクトのうちの一つ「化学物質リスク管理の戦略的アプローチに関する研究」プロジェクトについて紹介します。

 化学物質をはじめとする人や環境へのリスクを正しく評価し、的確な管理に結びつけることが化学物質リスク管理の大きな目標と言えると思います。ここで、化学物質と一言で言っても、その影響や特性はきわめて多様です。例えば人に対する影響はさまざまな臓器や機能に対して、一つあるいは複数の化学物質が様々に異なる影響を及ぼします。同様にさまざまな物質が生物や生態系に対して多様な影響を与えると考えられます。一方、農薬のように散布時期に集中的に水環境に流入して変動の大きい影響を示す物質もあり、地球規模で拡散して極域や深海まで到達する物質もあります。製品中に使われる物質は製造から使用、廃棄の過程で異なる影響の側面を持ち、これら全体への管理のアプローチにもまた、多様な可能性があると思われます。

 このような多様な影響や特性を持つ化学物質に対して、効果的かつ効率的な管理を行うためのアプローチが求められています。そこで本プロジェクトでは、物質や環境の特性に基づく動態や曝露の時空間分布の詳細な評価手法の開発、また、物質ライフサイクル上の曝露の特性把握の検討を行います。また、人や生物へのさまざまなリスクの特性や科学的知見の確からしさなどを考慮する戦略的なリスク管理のあり方について考察を行います。これらの研究成果から、多様な影響や特性を持つ化学物質の新たな戦略的アプローチの構築に資することを目的として研究を行います(図参照)。戦略的という言葉には、自然科学的なリスク判断に受動的に対処する管理にとどまらず、社会におけるさまざまなリスク管理のあり方との相互考察に基づき、より能動的なリスク管理まで視野に入れていきたいという思いがあります。

化学物質リスク管理の戦略的アプローチに関する研究イメージの図 クッリクで拡大画像がポップアップします
図 化学物質リスク管理の戦略的アプローチに関する研究 : 研究イメージ

 このため、(1)化学物質動態と曝露の時空間分布の評価手法の研究、および(2)化学物質リスクに対する社会における管理のあり方に関する研究、の2サブテーマ構成での研究を進めることにしました。具体的に、以下のような検討を進めています。

(1) 化学物質動態と曝露の時空間分布の評価手法の研究

 (1-1) 農薬の環境排出・動態と水生生物へのリスク予測手法を事例として、時空間変動を持つリスク要因への評価手法について検討します。この課題では、時間変動を考慮した農薬類の排出・環境濃度の予測手法と水生生物へのリスク予測手法の方法について検討し、このような時空間変動をもつリスク評価の新たな手法として確立することを目指します。

 (1-2) 化学物質は例えば合成樹脂や繊維など様々な目的で使用されますが、それぞれの物質の製造から廃棄までのライフサイクルを通じた排出・曝露特性を把握することが近年重視されています。本課題では、難燃剤、PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)等を事例として、物質ライフサイクル上の排出・曝露特性の新たな評価手法を確立します。

 (1-3) POPs(難分解性有機汚染物質)は、地球上の一地域で排出された物質でも全球に拡散し、また、大気・海洋や生物などさまざまな媒体に広がることが懸念されています。本課題ではPOPs等の全球多媒体モデル、排出量の再推定モデル、不確実性解析モデルの構築を行い、地球規模の汚染を評価する新たな評価手法を考察します。

(2) 化学物質リスクに対する社会における管理のあり方に関する研究

 化学物質汚染やリスクの時空間の分布、物質ライフサイクル上の排出・曝露特性、人や生物へのさまざまな影響などの多様なリスク要因とその科学的知見の確からしさ、リスクに関わる社会の諸主体の特性などを総合して、社会におけるリスク管理戦略のあり方について考察します。

 これらの課題をとりまとめて、化学物質動態と曝露の時空間分布、また物質ライフサイクル上の排出・曝露特性の新たな評価手法をそれぞれに提供すること、さらにこれら新たな評価手法に基づく社会におけるリスク管理の新たな戦略的アプローチのあり方の構築に資することが研究プロジェクトの目標です。研究目標には、これまでの研究を基礎とする発展的研究と、これまで経験の少ない新たな課題の両方が混じっていますが、化学物質リスクの効果的な管理に結びつけることが出来るよう、研究を進めていきたいと考えています。

(すずき のりゆき、環境リスク研究センター
リスク管理戦略研究室長)

執筆者プロフィール:

鈴木 規之

いろいろな先達や機会を得て分析、モデル、リスクとあれこれ手を広げてきたつもりですが、さて気づくとやっぱり工学系か?と思う最近ではあります。工学系らしく総合力と言われるよう努力したいと思います。

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