- 予算区分
- 基盤研究A
- 研究課題コード
- 2528CD002
- 開始/終了年度
- 2025~2028年
- キーワード(日本語)
- 気候変動影響,植物生理生態学,落葉広葉樹林,炭素循環
- キーワード(英語)
- Effects of Climate Change,Plant Ecophysiology,Deciduous Broadleaf Forest,Carbon Cycle
研究概要
地球の気温は2023年から記録上最も高い状態が続いている。気候変動による高温・乾燥化は大陸の森林炭素吸収機能を減少させ,その影響はアジアモンスーン地帯でも懸念されている。湿潤な日本の落葉広葉樹林では温暖化は林冠の展葉・黄葉フェノロジーの変化を介して炭素吸収量を増加させる可能性が予測されてきた。しかし申請者らによる30年に及ぶ冷温帯林での長期観測から,炭素吸収はダイナミックに変動すること,また,最近約10年間の日射量の増加や夏期の高温・乾燥が光合成生産を低下させている可能性が示された。本研究では全国規模の日射量の増加や気候変動が冷温帯落葉広葉樹林の光合成・水利用・炭素蓄積機能に及ぼす影響の生理生態学的メカニズムの解明,光合成能の衛星観測指標の地上検証,森林炭素・水循環予測モデルの精緻化を進める。これにより,これまでの日本の森林では十分に予測されてこなかった新たな環境変動ストレス影響の評価と予測手法の構築を推進する。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:モニタリング・研究基盤整備
全体計画
I. 気温や湿度,大気CO2などの環境変動が個葉の光合成・気孔応答を介して個体の物質生産・成長に及ぼす影響を主要樹種に着目して解明する。フィールドでの個葉生理生態学的特性,樹木の年輪解析(肥大成長とδ13C),CO2フラックス(特に総一次生産GPP)などを観測・分析し,過去に得られたデータも活用する。個葉の光合成生産の季節・年変動や高温・乾燥ストレス反応を,年輪の肥大成長やδ13C(気孔コンダクタンスが制限する葉内CO2濃度/大気CO2濃度比=Ci/Caと相関)と照合して環境ストレスの影響を解析することに方法上の特徴がある。CO2フラックス観測によるGPPの日〜季節〜年スケールでの環境応答を分析し,個葉〜個体〜森林スケールの関係性を明らかにする。
II. 衛星リモートセンシングによる環境変動が森林生態系の葉群構造と機能に与える影響の生理生態学的な観測・解明を目的として,主要構成種の個葉および森林葉群の分光反射特性,および葉群構造を森林フィールドにおいて季節を通じて測定し,さらに個葉レベルと林冠レベルの分光反射特性を群落放射伝達モデルによる物理学的な解析を通じて,GPPの季節変化について植物生理生態学的な要因を検討する。従来の森林フェノロジーの衛星観測では森林地上部を一つの葉群として捉えていたが,本研究方法により,森林各層(林床,低木,林冠)の段階的な展葉とそれに応じたGPPのフェノロジーの観測・検出が初めて可能になる。
III. 生態系炭素・水循環モデルを用いて,環境変動,強光や高温,乾燥ストレスが森林レベルの光合成活性にもたらす影響を日〜数十年の広範な時間スケールで解明する。このために《?》で得られる光合成生化学理論パラメータおよび強光阻害・気孔閉鎖など環境ストレス反応に基づいて個葉光合成・気孔の環境応答アルゴリズムの更新を行う。樹木個体や森林各層での年単位での光合成生産の予測値は?で得られる年輪成長やδ13Cから推定される光合成量とその気孔制限値,水利用効率で検証する。
今年度の研究概要
高山試験地(岐阜県高山市)冷温帯落葉広葉樹林において、光学リモートセンシングデータとともにフラックスデータの解析を進め、長期のフェノロジー変化とフラックス変化との関係についての解析を行う。
外部との連携
研究代表者:村岡裕由教授(東京大学)
課題代表者
野田 響
- 地球システム領域
衛星観測研究室 - 主任研究員