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資源循環の最適化による農地由来の温室効果ガスの排出削減(令和 4年度)
Reduction of greenhouse gas emissions from agricultural land through optimization of resource circulation

研究課題コード
2022KA001
開始/終了年度
2020~2022年
キーワード(日本語)
温室効果ガス,一酸化二窒素,メタン,作物モデル
キーワード(英語)
GHG,Nitrous oxide,methane,Crop model

研究概要

N2OはCO2の265倍もの地球温暖化係数(GWP)をもつと同時に、オゾン層破壊物質でもある。農業活動はN2Oの最大の排出源であり、人為的排出源の59%が農業由来と推定されている。農業由来のN2O排出源は農耕地土壌と畜産廃棄物処理過程であるが、90%が土壌由来と推定されている3)。農耕地土壌における主なN2Oの排出源は窒素肥料(化学肥料および有機肥料)である。窒素肥料は農作物の安定的な生産に必要不可欠であり、世界的な人口の増加や食生活の向上に伴いその使用量は今後も増加し続けると予想されている4)。現在、自然循環量に匹敵する量の窒素が工業的窒素固定(ハーバーボッシュ法)により生産され、農地に化学肥料として施用されている。この化学肥料として農地に施用される窒素のうち作物による吸収は一般に40%以下であり、作物に吸収されなかった窒素は環境中に拡散し、N2O発生による地球温暖化および環境汚染(硝酸流亡による水質汚染等)を引き起こしている。一方、水田はCH4の主要な排出源であり、世界の人為的CH4排出源の11%が水田由来と推定されている(図1右)。水田の90%はアジアに偏在しており、世界人口の約半数に主食のコメを提供している。増え続ける人口を考えれば水田稲作の縮減は想定し得ないため、単位面積(あるいは単位コメ生産)あたりのCH4排出量を大幅に低減する技術開発が必要である。CH4はCO2の34倍のGWPをもっている強力な温室効果ガスであるが、大気中の滞留時間が10年以下とCO2と比べて格段に短いためCH4削減の効果は早期に現れる。したがってCH4の排出削減により、今世紀前半~中頃のように近い将来の温暖化を遅らせることで気候の急激な変化を防ぐことが期待されている。本研究課題は、ムーンショット目標4のうち、地球温暖化問題の解決(クールアース)への貢献を目指すものであり、2030年までに、農地における温室効果ガスに係る循環技術を開発・実証し、ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点からも有効であることをパイロット規模で確認する。さらに、2050年までに農地由来温室効果ガスの80%削減を実現する。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

N2OおよびCH4の無害化および資源化を可能とする2つの微生物利用技術を開発する。一つは、N2OまたはCH4を無害化する微生物を製剤化し環境に添加して(バイオオーグメンテーション)、土壌あるいは大気に拡散されたN2O、CH4を無害化および資源化する。もう一つは、植物を改変する技術を開発し、その技術により作成した植物を栽培することで、土壌のCH4無害化微生物を活性化し(バイオスティミュレーション)、土壌や大気に拡散されたCH4を無害化および資源化する。

「課題I: 土壌微生物完全解明による土壌生態系デザイン」において、土壌構造解析と全土壌微生物ゲノム解析により、微生物が土壌で安定的に存在・機能するメカニズムを明らかにし、その知見を微生物の資材化技術の開発(課題III)に活用する。これにより、外部から接種した有用微生物はその機能を発揮することなく排除されという最大のボトルネックを解決する(図9)。さらに全土壌微生物ゲノム解析により、新規な窒素代謝微生物を網羅的に探索し、強力な窒素代謝能力を有する微生物を分離して課題IIで利用する。微生物と植物もまた強固な関連性を持ちながら生存している。この関係性を「課題IIN2O無害化・資源化微生物の開発」で打破し、より強力なN2O無害化微生物を育成して植物と共生的に機能させ、N2Oを無害化・資源化する技術を開発する。「課題IIIゲノム・メタゲノム情報に基づくN2O無害化微生物最適利用技術の開発」では、課題IIで開発するN2O無害化微生物のN2O還元酵素の活性を高め、その活性を最大限に引き出すように土壌中におけるN2O生成速度を制御し、さらに課題Iの成果に基づきN2O無害化微生物が安定的に土壌中に生存しその機能を発現する資材化技術を開発する。「課題IV微生物-イネ共生系の最適化による水田CH4排出削減」では、植物を改変することで、微生物を接種することなくその場に存在するCH4無害化微生物を活性化する技術を開発する。I~IV課題で提案する技術の有効性の検証・評価、LCA等実用化技術への指針の策定を担当する「課題V温室効果ガス発生削減技術のパイロットスケール実証および評価」を設定し、実用化を促進する。以上により、農地からの温室効果ガス発生量を80%削減する技術を開発し、LCAの観点からも有効であることをパイロット規模で確認する。

今年度の研究概要

今年度は、昨年度開発した複数の衛星搭載センサーを用いた水田の作物暦の推定アルゴリズムを用いた
全球での水田作物暦の作成および公開を目指す。また大豆作物暦データベースを利用して、機械学習を用いて、全球大豆作物暦の作成を目指す。開発した作物暦を用いて、全球からの農地CH4・N2O放出量を推計する。

外部との連携

東北大学、農研機構、東京大学、他

課題代表者

仁科 一哉

  • 地球システム領域
    物質循環モデリング・解析研究室
  • 主任研究員
  • 博士(農学)
  • 林学,農学,コンピュータ科学
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担当者