- 研究課題コード
- 2224CD010
- 開始/終了年度
- 2022~2024年
- キーワード(日本語)
- 卵子,環境化学物質,ミトコンドリア
- キーワード(英語)
- oocyte,environmental chemicals,mitochondria
研究概要
採卵数に余裕があれば、しばしばオルガネラクラスター(細胞小器官が群がって大きな塊の様に目視される構造体)が生じていない卵子に妊孕
性が期待される。近年マウス卵子を用いた研究から、ミトコンドリア融合-分裂バランスの不調がオルガネラクラスターの発生に関与すること
が明らかになってきた。ミトコンドリア融合-分裂の制御因子は、胎児期に卵子が形成されてから成人後の排卵に至るまで環境中の化学物質か
ら撹乱を受け続ける。しかしながら、どのような環境化学物質が影響を及ぼすのかこれまで全くわかっていない。本研究では、ミトコンドリア
分裂因子のタンパク表面において、ミトコンドリア分裂阻害活性を示す候補物質を探索する。培養卵子とマウス個体を用いた検証を経て、ヒト
卵子の低妊孕性指標であるオルガネラクラスターを喚起する環境化学物質として特定する。使用量・排出量などの削減により、卵子の健康につ
ながる事が期待される。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
ミトコンドリアの融合-分裂バランスの撹乱を介してオルガネラクラスター(ヒト卵子の低妊孕性指標)を喚起する環境化学物質を同定するため、以下のように進める。(1) Dynamin related protein 1(Drp1)との親和性を基にした候補物質の選抜:ダイナミン様GTP加水分解酵素であるDrp1はミトコンドリア分裂に必須の因子である。Drp1タンパク質の表面において、環境化学物質との相互作用で活性が大きく撹乱されうるポケットのような場所を定める。そこでまずは、mitochondrial division inhibitor-1 (mdivi-1)と呼ばれるDrp1の阻害剤に関する他の研究グループの文献情報(Dev Cell 14: 193-204 (2008))を利用する。mdivi-1が最も安定にフィットし(自由エネルギーΔG値によって安定性が算出される)、活性のない構造類似化合物では全くフィットしないようなDrp1表面のポケットをMolDesk Screeningソフトウェアを用いて選定する。続いて、選定したポケットにフィットする環境化学物質を200万物質からスクリーニングし、安定な順に順位付けを行う。ミトコンドリアへDrp1を引き寄せるタンパク質との相互作用が生じる部位やGTPの結合部位との位置関係などを条件検討では考慮する。(2) 卵子培養系を用いた候補物質の妥当性の検証:採卵数の確保に適した4週齢のC57BL/6系統マウスの卵巣から卵核胞(Germinal Vesicle, GV)期卵子を採取し用いる。 裸化した状態で採取できオルガネラクラスターの視認に適していることに加え、蛍光観察によってオルガネラ形態を詳細に把握できるためである。候補物質を(第一極体が放出され精子との受精が可能となる)20時間曝露させ、ミトコンドリア分裂阻害活性を起点とした候補物質のオルガネラクラスター喚起性を評価する。まずは小胞体を可視化するER トラッカーを培養液に加え卵子に取り込ませたのち、卵子をパラホルムアルデヒドで固定する。免疫蛍光抗体法を用いてミトコンドリア外膜タンパクTom20の染色を行い、共焦点顕微鏡で観察する。濃度検討を踏まえ上位3候補物質まで絞りこむ。(3) マウス個体を用いた候補物質の妥当性の検証:まずは3つの候補物質ごとに、性成熟が済み排卵周期の安定した9週齢雌15匹に対し、1週間(2周期程度に相当)腹腔内投与を行う。卵巣からGV卵を採取し卵子培養系で用いた染色法を用いて候補物質のオルガネラクラスター喚起性を評価する。濃度条件の再検討の判断を経て濃度を決定後、候補物質ごとに新たに10匹について同様に投与を行い、雄との交配期間を2週間設ける。妊娠が確認されれば個別飼育に戻す。妊孕性については、産仔数・仔体重の測定によって評価する。
今年度の研究概要
ミトコンドリアの分裂阻害活性の高いmdivi-1が最も安定にフィットし(自由エネルギーΔG値によって安定性が算出される)、活性のない構造類似化合物では全くフィットしないようなDrp1表面のポケットをMolDesk Screeningソフトウェアを用いて選定する。続いて、選定したポケットにフィットする環境化学物質を200万物質からスクリーニングし、安定な順に順位付けを行う。Drp1は通常細胞質に局在するが、ミトコンドリア分裂の際にはGTPが結合した状態でミトコンドリア外膜表面に局在化する。GTP加水分解のエネルギーをミトコンドリアに対するくびり斬る力へ変換し利用すると考えられている。ミトコンドリアへDrp1を引き寄せるタンパク質との相互作用が生じる部位やGTPの結合部位との位置関係などを条件検討では考慮する。Drp1の結晶構造はこれらの先行研究より報告されている情報(日本蛋白質構造データバンク:4BEJ, 5WP9)をMolDesk Screeningに入力して用いる。上位10候補物質を選定する一方で、ネガコンのため下位10候補物質も選定する。
- 関連する研究課題
- : 環境リスク・健康分野(ア先見的・先端的な基礎研究)
課題代表者
宇田川 理
- 環境リスク・健康領域
統合化健康リスク研究室 - 主任研究員
- 薬学博士
- 生物学