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二次有機エアロゾル中の低揮発性成分の生成過程に関する研究(平成 30年度)
Studies on the formation mechanisms of low-volatile compounds in secondary organic aerosols

予算区分
AO 所内公募A
研究課題コード
1820AO001
開始/終了年度
2018~2020年
キーワード(日本語)
二次有機エアロゾル,揮発特性,温度依存,酸性度,エアロゾル収率
キーワード(英語)
Secondary orgaic aerosol,Volatility,Temperature depencency,Acidity,Aerosol yield

研究概要

人為起源(自動車など)・自然起源(植物など)から放出される揮発性有機化合物(VOC)は大気中の光酸化反応によって二次生成粒子(二次有機エアロゾル、SOA)を生成する。SOAは、人への健康被害が特に懸念されている。これまでの知見では、計算で得られるSOA生成量は実際の観測の値に対して、過小評価していることが知られている。観測とモデルのギャップの要因の一つとして考えられるのは、SOA生成過程での低〜不揮発性成分(本研究では、低揮発性成分と呼ぶ)の生成機構の理解が不十分で、モデルに十分に取り入れられていないことが考えられている。大気化学輸送モデルのSOAモジュールには、最近の知見の低揮発性成分の生成過程が導入されているが、それを検証する実験的なデータが不足している。本研究では、実大気により近い環境下でチャンバー実験とエアロゾル表面反応実験を行い、低揮発性成分の生成過程の環境要因依存性について調べる。実大気エアロゾルとラボ実験結果を比較しながら、二次有機エアロゾル生成機構の正確な理解を目指し、モデルによるエアロゾル量の計算の精緻化に貢献する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

 本研究は、(1)二次有機エアロゾルの生成収率及び揮発性分布の温度依存性とシード粒子の酸性度依存性の研究、(2)液滴表面で起こる不均一反応の温度・酸性度依存性の研究、(3)実大気サンプル分析による低揮発性有機化合物の検出と生成機構の推定、の3つのサブテーマから構成される。
 サブテーマ1では、大気化学輸送モデルに組み込まれているSOA生成機構の検証ができるように、温度とシード粒子酸性度を変化させて、SOA収率と揮発性分布のデータを実験的に得る。具体的には、1m3のテフロンバッグを大型の恒温装置に入れて、温度を変えた(3点程度)反応実験を行えるように設備を整える。光照射実験も行えるように恒温装置内にランプシステムも導入する。反応実験にはシード粒子を入れて行い、中性の時と、酸性度を変化させて(2点程度)実験を行う。各条件で、エアロゾル収率を決定するのと、SOAをフィルター捕集してLC/MS分析して、揮発性分布を見積もる。反応系は、モノテルペンのオゾン酸化反応とOH酸化反応とする。
 サブテーマ2では、液滴表面で起こる反応が温度と酸性度にどのように依存するのかを調べる。反応系はサブテーマ1と共通のモノテルペンの酸化反応で行う。表面反応固有の生成物や液滴固有の表面反応生成物を検出し、その反応機構を考察する。
 サブテーマ3では、本研究で調べる低揮発性有機化合物が実大気ではどのように分布しているのか、実大気フィルター試料で調べる。分析は、LC/MSでエアロゾル有機成分を検出し、ラボ実験の生成物と比較する。実大気フィルター試料としては、都市域のもの、森林サイトのもの、リモート地域のものを所有しており、比較的乾燥地域のもの、あるいは湿潤地域にものに分かれるので、VOCのソース、雲過程における不均一反応の有無の違いを検出する。

今年度の研究概要

 サプテーマ1では、チャンバー実験において、温度を変えた反応実験ができるシステムを組み上げ、システムのキャラクタリゼーションを行う。温度を制御する装置として、内容積1.25m3の大型環境調整装置を購入し、その中に1m3の直方体のテフロンバッグを入れる。粒子計測の走査型移動度粒径測定器(SMPS)も反応実験温度と同じ温度で動作させる必要があるので、隣りに小型の恒温装置を置き、その中にSMPSを入れ、粒子の測定を行うようにする。システムが組みあがったところで、光照射実験時の光強度の決定(NO2の光分解反応実験で決定)、粒子の壁でのロス速度の決定など、システムのキャラクタリゼーションを行う。また、紫外可視分光光度計を用いた粒子内のH+濃度の決定手法を確立し、テスト実験を行う。
サブテーマ2では、液滴表面での反応を調べるための気液界面計測質量分析装置の不均一反応が起こるチャンバー内の温度をコントロールできるように装置を改造し(5℃〜35℃)、植物由来の二次生成エアロゾルに取り込まれているモノテルペン(ピネン、リモネン等)と気体オゾン(O3)との不均一反応でテスト実験を行う。
サブテーマ3では、実大気エアロゾルフィルター試料として、中国科学院大気物理研究所・Fu教授のグループとの共同研究として、2016年7月の1カ月間に中国の北京(都市、比較的乾燥)・成都(都市、比較的湿潤)・峨眉山(リモート、比較的湿潤)で同時期にサンプリングされたものを分析する。サンプリングは、昼と夜に分けて行われたもので、大気物理研究所では、炭素分析計(EC/OC計)での分析、ガスクロマトグラフィ/質量分析法(GC/MS)での分析を行い、国立環境研究所は、LC/MSでの分析、FTIRでの分析を行う。

外部との連携

FU, Pingqin(中国科学院大気物理研究所・教授)、宮雄三(北海道大学低温科学研究所・助教)、TAKAHAMA, Satoshi(スイス連邦工科大学ローザンヌ校・助教)、石塚紳之介(JSPS特別研究員)、IINUMA Yoshiteru(沖縄科学技術大学院大学)、熊谷貴美代(群馬県衛生環境研究所・独立研究員)と協力して推進

課題代表者

猪俣 敏

  • 地球システム領域
    地球大気化学研究室
  • 主席研究員
  • 博士(理学)
  • 理学 ,化学
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担当者