- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1719CD029
- 開始/終了年度
- 2017~2019年
- キーワード(日本語)
- 放射性セシウム,再飛散
- キーワード(英語)
- radiocesium, resuspension
研究概要
福島第一原子力発電所事故によって、環境中に多量に放出された放射性セシウムの一部は、再飛散と地表面・植生への沈着を繰り返し、原発事故後5年を経過した現在も大気中を浮遊している。高汚染のため帰宅困難区域となった浪江町津島地区での観測により、5月〜9月の夏季に大気中の放射能濃度が増加し、その原因は森林生態系からの放出であると推定されている。
本研究では、夏季に盛んになる森林生態系からの放射性セシウムの放出形態の解明とフラックスの測定等を通じ、そのメカニズムを定量的に理解し、モデル化することで、現状大半が除染対象とならない森林生態系から除染済み地区を含む周辺への放射性セシウムの移行の推定を行うことを目的とする。また、大気に放出されたセシウムの農作物を含む生物への再吸収による、大気-生態系循環についても明らかにする。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
本研究の目的を達成するために、以下の方法で研究を実施する。
1) 福島県の高放射線量域において大気エアロゾル及び降水の連続サンプリングを実施し、大気放射能濃度および沈着量の定量、サンプリング試料の化学・生物学的分析による大気再飛散をもたらす有機成分・生物粒子・土壌ダストの同定とその割合の定量化
2) 渦集積法装置の開発とそれを用いた平地及び森林内での放射性セシウム放出フラックスの測定
3) 大気再飛散を考慮した、大気放射性セシウムの化学輸送モデルの構築
4) 大気エアロゾル試料抽出液による植物培養実験による、放射性セシウム循環の推定
今年度の研究概要
1)高放射線量域での大気エアロゾル及び降水のサンプリングを行い、含まれる粒子の化学・生物学的成分と放射性セシウムの濃度間の相関を調べ、大気再飛散担体となる有機・生物粒子の同定を行うとともに、それらの粒子及び土壌ダストの大気再飛散への寄与の定量化を行う:平成30年度は、キノコ(担子菌)胞子だけでなく、カビ(子嚢菌)分生子や細菌類など他の種類のバイオエアロゾルについても、分離する手法を開発し、個々に寄与を推定していく。特に、キノコ発生がまだ少ない春季における放射性セシウム飛散にかかわる各プロセスの寄与を、強化サンプリングにより推定していく。
2)緩和渦集積法測定装置を開発し、放射性セシウム飛散フラックスとその変化を定量化する:平成29年度に開発した緩和渦集積法測定装置を用い、何回かの集中観測を実施し、バイオエアロゾルの放出フラックスの定量化を行うとともに、放射性セシウムフラックス推定に拡張する。また集中観測以外の機関については、経度法による推定も併用する。高速度カメラでキノコからの胞子の大気飛散を撮影し、放出フラックスを推定する手法についても、画像解析により定量化する手法を確立し、フィールドでの撮影も試みる。
3)大気エアロゾル試料抽出液による植物培養実験による、放射性セシウム大気-植生循環の解明:1年を通しての大気粒子サンプルの純水抽出液およびキノコ胞子抽出液による植物培養実験を実施し、大気から植物への放射性セシウム移行可能性を明確にする。
4)大気再飛散過程を取り入れた化学輸送モデルの構築による大気放射性セシウムの移行量の推定:アプローチ2によるフラックス推定結果をもとに、気象要素などとの関係を調べ、大気再飛散フラックスをモデル化するためのパラメタリゼーションを考案し、モデルに試験的に組み込む。
外部との連携
研究代表者:茨城大学・北和之教授
参画機関:茨城大学、福島県立医科大学、筑波大学、香川大学、金沢大学、早稲田大学、大阪大学
- 関連する研究課題
課題代表者
森野 悠
- 地域環境保全領域
大気モデリング研究室 - 室長(研究)
- 博士(理学)
- 地学