- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1719CD013
- 開始/終了年度
- 2017~2019年
- キーワード(日本語)
- 個体群管理
- キーワード(英語)
- Population management
研究概要
近年日本各地でシカやイノシシなどの野生生物が増加し、その個体群管理が重要課題となっている。本研究では、近年野外でも実証研究が進んでいる食物連鎖の3 栄養段階系における行動を介した間接効果を応用し、「人間活動に起因する動物の行動変化とそれがもたらす個体群レベルの影響を組み込んだ管理戦略」を構築する。すなわち、捕獲やそれ以外の人間活動がもたらす行動介在間接効果を考慮に入れて、シカやイノシシの個体群成長率や農作物被害を空間明示的に予測し、最適な管理戦略を導きだすことを目的とする。こうした成果は、人口減少社会を迎えた日本など先進諸国における野生動物の管理戦略にブレークスルーをもたらすであろう。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
研究は、以下の4つのサブテーマから構成される。
サブテーマ1:人間活動が野生動物の行動と個体群増加率にもたらす影響調査
房総半島においてフィールド調査を行い、以下の3つのパラメータを推定する。(i)農地における動物の警戒行動の頻度と(ii)農地利用頻度、(iii)狩猟もしくは有害駆除された捕獲個体の妊娠率および栄養状態を推定する。
サブテーマ2:個体数と個体群動態パラメータの推定
サブテーマ1の調査結果と、生息地の環境データや捕獲個体数の空間分布を用いてベイズ推定により、個体群の密度と増加率、移動率を推定する。具体的には、図3で示す状態空間モデルを用いて個体群パラメータの推定をおこない、行動介在間接効果を定量化する。
サブテーマ3:農作物被害量の予測モデルの開発
景観構造と農地利用区分・作物名をもとに、各種作物の被害率を予測するモデルを開発する。ここでは、サブテーマ2で得られた動物の密度分布に加え、密度と被害率の関係性、さらに詳細な農地利用区分、の3者を統合し、各種農作物の被害の予測モデルを作成する。また、行動介在間接効果による農作物被害の変化量を定量化する。
サブテーマ4:最適管理戦略の探索
サブテーマ2と3で得られた個体数や個体群パラメータ、農作物の被害予測モデルをもとに、将来の人口や土地利用シナリオごとに駆除努力に投資できる予算や人的資源に制約がある中で、シカとイノシシの捕獲努力の最適な空間配分を導出する。
今年度の研究概要
人間活動が野生動物の行動と個体群増加率に与える影響調査
(i)シカおよびイノシシの警戒行動頻度に与える影響の推定
シカやイノシシによる被害発生場所周辺に自動撮影カメラを5台程度設置し、動物の行動データを取得する。自動撮影カメラは、動画撮影機能が付いたものを用いる。撮影された動画から、動物が農地に出現する時間帯と、その際の動物の警戒行動の頻度を推定する。警戒行動は、時間当たりのビジランス(ほかの活動を停止し周囲を見渡す行動)回数を指標とする。
(ii)シカおよびイノシシによる農地利用頻度の推定
さまざまな景観を含む君津市内の24カ所の大字において聞き取り調査を行い、とくに水稲の被害量と被害地点を特定する。水稲は、とくにシカやイノシシによる被害が出やすい作物であるだけなく、被害量が面積とほぼ一致するため被害の定量化が容易であるという利点をもつ。また一様に作付けされるため被害地点の詳細(例えば、被害が森林に隣接した部分のみで発生しているのかそうでないのか)の特定も可能である。イノシシによる被害の場合は、乳熟期以降の穂の食害であるか、踏み荒らしとヌタウチによる被害であるかを分けて情報を集める。
(iii)捕獲個体の妊娠率および栄養状態の推定
地元の猟友会と連携し、捕獲地点を記録したうえで、個体の栄養・繁殖状態を調べる。栄養状態は、腎臓の脂肪部分とそれ以外の重量比を100倍したライニー式腎脂肪指数(RKFI、Riney 1955)に基づいて評価する。繁殖率は、冬季に捕獲されたメス成獣を対象に妊娠の有無を調べることで推定する。さらに、上記の自動撮影カメラのデータから、春季のメスの個体数に対する新生児数(シカ)もしくはメス一頭当たりの新生児数(イノシシ)を推定する。
以上の調査により、人間活動がシカとイノシシの警戒行動や農地利用頻度に与える効果と、これらが妊娠率や栄養状態に及ぼす影響の大きさを明らかにするために統計解析を行う。
外部との連携
分担者: 宮下直教授、中島啓裕助教(日本大学)
研究協力者: 長田穣氏(地球研)
課題代表者
横溝 裕行
- 環境リスク・健康領域
リスク管理戦略研究室 - 主幹研究員
- 博士 (理学)
- 生物学