- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1618CD027
- 開始/終了年度
- 2016~2018年
- キーワード(日本語)
- 里山里海,エコツーリズム,生物多様性
- キーワード(英語)
- Satoyama and Satoumi,Ecotourism,Biodiversity
研究概要
国内各地で進められている、生物多様性と食の安全に配慮した「生物共生農業」は、農作物の収穫量が安定しづらいため、農業の持続性に課題を抱えている。本研究の目的は、「生物共生農業」に「エコツーリズム」と「循環システム」の視点を加え、循環型生物共生農業の地域モデルを提示することである。これにより、農業収益の安定化と安全・安心な米の安定生産を図る。本研究では、水稲の生物共生栽培のなかでも生物多様性向上効果の高い自然栽培(無農薬・無肥料・不耕起栽培)に着目し、モデル地域において、水田の生物多様性や米の品質の情報が、エコツーリズムと生物共生栽培米の潜在的需要・経済効果に与える影響を明らかにする。次に、数理モデルを構築し、要因間の相乗効果やトレードオフ効果を考慮して生物共生農業の振興策の導出と当該農業の持続可能性の検討を行う。各サブテーマのアウトプットを統合して、循環型生物共生農業の地域モデルを提示する。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
?平成28年度の計画
(1)生物共生栽培田の生物多様性と米の品質評価—羽咋市の農地の地理情報システム(GIS)のデータに、一般公開されている環境省の1/25,000植生図GISデータを重ね、航空写真を参照しながらポリゴンの隙間や重複などを修正する。ここに、生物共生栽培田(自然栽培田)の位置情報を入力する。
(2)里山里海を観光資源としたエコツーリズムの市場調査—エコツーリズムは、能登地域全域と羽咋市の2つのスケールで研究を進める。最初に、能登地域の9市町において聞き取り調査を実施し、エコツーリズムの取り組み状況を把握する。次に、生物共生農法に取り組む農家に対する、米の購入に次ぐ有力な支援法と期待される、農業体験や里山の生物とのふれあいを観光資源としたエコツーリズムについて市場調査を行う。潜在的なツアー参加者である全国の一般市民を対象として、能登地域を訪問する様々なツアーへの選好を尋ねるアンケート調査を実施する。能登地域の代表的な観光資源に加え、棚田の景観、農業体験、里山や里海の生物とのふれあいなどをツアーの目的に含めてコンジョイント分析を行うことで、それらの観光資源としての価値を明らかにするとともに、様々なツアーに対する需要を予測する。
(3)生物共生栽培米の市場調査と消費者行動分析—環境配慮型農産物に対する消費者評価について、国内外において蓄積されている研究結果を網羅的に収集し、研究動向を把握する。さらに、各論文で報告されている支払意志額などの結果をデータベース化し、メタ解析を用いて、消費者評価への影響要因に関する日本の消費者の特徴を明らかにする。能登地域での実態調査も行い、次年度以降の研究で重視すべき消費者意識の決定要因を抽出する。関連する公表統計を入手する。
(4)生物共生農業の振興策と持続可能性の検討—生物共生農業の振興による生物多様性の向上が、農産物の販売やエコツーリズムにもたらす影響と、当該農業による収穫量低減と労働力増加による経済的コストを組み込んだ数理モデルを構築する。生物共生農業の振興により地域社会に経済的利益がもたらされる条件を導出するための予備的解析を行う。
?平成29年度の計画
(1)生物共生栽培田の生物多様性と米の品質評価—生物共生栽培への取り組みが、水田の生物多様性と米の品質に与える影響を明らかにするため、野外調査を行う。前年度に構築したGISデータベースをもとに、生物共生栽培田(自然栽培田)と慣行栽培田を対で選定し、各水田の生物多様性と米の生産特性を明らかにする。次に、マイクロコスム実験を通じて、水田の定性無脊椎動物が米生産・品質に及ぼす影響を明らかにする。
(2)里山里海を観光資源としたエコツーリズムの市場調査—人々がどのような農業体験や生物とのふれあいを望んでいるかをより詳細に把握するためのアンケート調査を行う。また、潜在クラスモデルなどを用いて、年齢、性別、居住地といった回答者の特徴や、エコツアーや農業体験への参加経験の有無による選好の違いを分析することで、どのような人がどのようなツアーを望んでいるかを明らかにする。さらに、エコツアーへの参加意欲や参加経験とその地域の農産物の購入経験や購入意欲の関係を分析することで、その地域の農産物を購入することがエコツアーに参加するきっかけになったり、エコツアーへの参加がその地域の農産物を購入するきっかけになったりするかを検証する。
(3)生物共生栽培米の市場調査と消費者行動分析—日本における生物共生栽培米市場の潜在規模を推定する。あわせてサブテーマ(2)と連携しながら、エコツアーへの参加意欲や経験による当該地産農産物の評価への影響についても評価する。次に、サブテーマ(1)から得られる、生物共生栽培による水田の生物多様性の向上や、生物のはたらき、米の品質に関する情報が、消費者の意思決定にどのような影響を与えるかについて、オークション実験により評価する。これらより、消費者による生物共生栽培米の自発的な消費による環境再生支援の可能性を評価する。
(4)生物共生農業の振興策と持続可能性の検討—各サブテーマの知見を統合し、生物共生栽培田の生物多様性や、米の品質特性、生物共生栽培田の好適配置、エコツーリズムの潜在的市場・経済効果、生物共生栽培米の潜在的市場・経済効果を取り入れた数理モデルを精緻化する。
?平成30年度の計画
(1)生物共生栽培田の生物多様性と米の品質評価—前年に引き続き、野外調査とマイクロコスム実験を実施する。生物共生栽培の好適配置を明らかにするため、前年度に構築したGISデータベースを用いて、周囲の森林面積や、森林からの距離、ため池密度、斜面勾配などを調査水田ごとに算出し、一般化線形モデルに基づいて、底生無脊椎動物の多様性を従属変数とした予測モデルをつくる。羽咋市の全水田からランダムに抽出した水田に結果を外挿して予測値を出し、それらを地図上で面的につなげることにより、生物共生栽培の潜在的好適地(多様性向上効果の高い水田群・区域)を抽出する。
(2)里山里海を観光資源としたエコツーリズムの市場調査—データのとりまとめと解析を行う。
(3)生物共生栽培米の市場調査と消費者行動分析—データのとりまとめと解析を行う。
(4)循環型生物共生農業の地域モデルの構築—水田の生物多様性向上と地域経済活性化のために有効な生物共生農業の振興策(生物共生農業への補助金、米の販売戦略、エコツーリズム振興策など)により地域にもたらされる経済効果を算出し、生物共生農業が経済的利益を生み出し持続可能となるための条件を明らかにする。水田の生物多様性、米の品質、エコツーリズムの需要、生物共生栽培米の需要には不確実性が伴うため、生物共生農業の持続可能性がこれらの不確実性にどの程度依存するのかを解析する。これらより、生物共生農業を持続的に推進するための振興策を提案する。
循環型生物共生農業の枠組みは、生物共生栽培田の好適配置、里山里海を観光資源としたエコツーリズムのモデルプラン、生物共生栽培米の販売戦略、生物共生農業の振興策といった、各サブテーマから得られるアウトプットを統合することにより構築される。最終年度に羽咋市で公開シンポジウムを開催し、地域への成果還元を進めるとともに、農業者や、行政、地域住民との意見交換を通じて評価シナリオとモデルプランを洗練させ、循環型生物共生農業の地域モデルを提示する。
今年度の研究概要
(1)生物共生栽培田の生物多様性と米の品質評価—羽咋市の農地の地理情報システム(GIS)のデータに、一般公開されている環境省の1/25,000植生図GISデータを重ね、航空写真を参照しながらポリゴンの隙間や重複などを修正する。ここに、生物共生栽培田(自然栽培田)の位置情報を入力する。
(2)里山里海を観光資源としたエコツーリズムの市場調査—エコツーリズムは、能登地域全域と羽咋市の2つのスケールで研究を進める。最初に、能登地域の9市町において聞き取り調査を実施し、エコツーリズムの取り組み状況を把握する。次に、生物共生農法に取り組む農家に対する、米の購入に次ぐ有力な支援法と期待される、農業体験や里山の生物とのふれあいを観光資源としたエコツーリズムについて市場調査を行う。潜在的なツアー参加者である全国の一般市民を対象として、能登地域を訪問する様々なツアーへの選好を尋ねるアンケート調査を実施する。能登地域の代表的な観光資源に加え、棚田の景観、農業体験、里山や里海の生物とのふれあいなどをツアーの目的に含めてコンジョイント分析を行うことで、それらの観光資源としての価値を明らかにするとともに、様々なツアーに対する需要を予測する。
(3)生物共生栽培米の市場調査と消費者行動分析—環境配慮型農産物に対する消費者評価について、国内外において蓄積されている研究結果を網羅的に収集し、研究動向を把握する。さらに、各論文で報告されている支払意志額などの結果をデータベース化し、メタ解析を用いて、消費者評価への影響要因に関する日本の消費者の特徴を明らかにする。能登地域での実態調査も行い、次年度以降の研究で重視すべき消費者意識の決定要因を抽出する。関連する公表統計を入手する。
(4)生物共生農業の振興策と持続可能性の検討—生物共生農業の振興による生物多様性の向上が、農産物の販売やエコツーリズムにもたらす影響と、当該農業による収穫量低減と労働力増加による経済的コストを組み込んだ数理モデルを構築する。生物共生農業の振興により地域社会に経済的利益がもたらされる条件を導出するための予備的解析を行う。
外部との連携
本研究課題は、金沢大学環日本海域環境研究センターの西川潮准教授が研究代表者である、科学研究費補助金基盤研究(B)(特設分野研究)「里山里海の生物多様性資源を活かした循環型生物共生農業の構築」の一環として行われる。
課題代表者
横溝 裕行
- 環境リスク・健康領域
リスク管理戦略研究室 - 主幹研究員
- 博士 (理学)
- 生物学