ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

関与物質総量のボトムアップ解析による資源デカップリング戦略(平成 27年度)
Bottom-up Analysis of Total Material Requirement towards Resource Decoupling

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1517CD006
開始/終了年度
2015~2017年
キーワード(日本語)
デカップリング,関与物質総量,資源,リサイクル
キーワード(英語)
Decoupling, Total material requirement, Resource, Recycle

研究概要

本研究課題「関与物質総量のボトムアップ解析による資源デカップリング戦略」では,世界で学術的議論が活発なマテリアルフロー分析を基盤とする関与物質総量(Total Material Requirement, TMR)を通じ,消費者が手元で扱う製品の重量(消費者端重量)の背後に隠れている資源採取に関わる重量(資源端重量)をボトムアップ的に計測し,その増減や国別分布の変化を分析することで,人間社会の資源への依存構造を解明することを目的とする.本研究を遂行することで,資源利用に付随する土地の改変を地域別,プロセス別,時系列に比較分析することが可能になり,表面上の資源デカップリングを脱却し,真の資源デカップリングに向けた具体的な施策につなげることが可能になる.

1. 人間の生産活動に関わる「関与物質総量」を素材,材料,製品を通じて計測し,それらをプロセス別,地域別,時系列ごとに分析することで資源端への依存構造を明らかにする.またリサイクルによる資源の外国依存性,コンフリクトメタル問題の回避効率を解析することで天然資源からの脱却メカニズムを明らかにし,都市資源利用のデカップリングに対する効率を定量化する.
2. 先進諸国だけでなく,発展途上国や新興国,特に東アジア諸国における事例研究を通じ,国家や都市の発展に伴う関与物質総量の変化とその要因を定量的に解析し,シナリオ分析やケーススタディを援用しながら資源端利用効率の高い社会のあり方を提言する.
3. 関与物質総量をGHG 排出量といった他指標の解析結果と有機的に結合し,それらの成果を国・都市レベルで地図上に可視化することで,資源デカップリングに向けた総合的な提案を行う.

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

本研究課題は,申請者が提案した関与物質総量の評価手法「自然鉱石TMR」および「都市鉱石TMR」をベースとし全体で4 つのパート(1. 関与物質総量(TMR) データの整備, 2. フレームワーク拡張, 3.資源端への依存度分析モデルの開発, 4. 関与物質総量の観点から見たデカップリング評価)から構成される(下図).1. では主にデータベースの整備を行い,2. では従来では評価されなかった天然鉱山の閉山や都市鉱山のリサイクル残渣の無害化処理を評価できるようにフレームワークを拡張する.3. では製品単位ではなく,人間活動単位,すなわちある単位期間における関与物質総量を評価できるようにするとともに,資源端依存度を定量的に評価するためのモデルを開発する.4. ではGHG 排出や経済活動との比較,あるいは4d-GIS を用いた可視化手法を用いて,ケーススタディや将来予測を行う.

1. 関与物質総量(TMR) の推算(主に京都大学(山末))
平成27 年度: 申請者が提案した2種類の関与物質総量の枠組み
 (1) 自然鉱石TMR:ある素材を自然鉱山から製錬して得るための関与物質総量,
 (2) 都市鉱石TMR:ある素材を都市鉱山からリサイクルして得るための関与物質総量
を用いて関与物質総量のデータベースを整備する.初年度は主に日本を対象地域とする.製品は「食料」,「材料(素材)」,「中間製品」,「工業製品」,「エネルギー」に分類し,基本的に原材料に近いものから推算を進める.特に酸やアルカリ,エネルギー資源は,種々の材料の製造プロセスで頻繁に使用される原材料であり優先度が高い.また肥料も作物の生産に必要不可欠であるため重要度が高い.鉱石品位などの情報は,元新日鉄の稲角忠広氏が所有している膨大なデータベースを参照する算段が整っている.都市鉱石TMR については,先述の自然鉱石TMR で対象とした素材,特にベースメタルを中心に推算を進める.
平成28 年度以降: 工業製品や食料など,消費者が直接使用するような製品に対象をシフトする.推算地域もアメリカ,中国,ベトナム,インド,EU などに拡張する.ベトナムについては,代表者の研究室OB でもあるハノイ工科大学のNguyen Duc Quang 講師など複数名と強い連携があり,他国についてもインド科学技術大学のS. Ranganathan 教授,ウィーン工科大学のPaul H Brunner 教授と研究協力を確約している.リサイクルについてはIn,Dy やNd といった需要が急増しているレアメタルに注目する.新規導入技術についてもシナリオ分析などを導入しながら柔軟に対応する予定である.リサイクル率や製品寿命は都市鉱石TMR の推算に直接関係ないが,後の分析で必要になるため併せて情報を収集する.

2. 関与物質総量のフレームワーク拡張(主に京都大学(山末・藤森))
平成27 年度: 関与物質総量の推算において鉱山の閉山処理やリサイクル残渣の無害化処理は,申請者だけでなく国内の他の研究者(国環研中島謙一,物材研原田幸明)あるいは国外(Wuppertal Institute)においてすら扱われていなかった.しかし,例えばリサイクル残渣中の鉛や,天然リン鉱石に含まれる資源起源放射性元素は,無害化の影響が無視できないことが申請者や連携研究者(東京大学 村上進亮)により明らかになってきた.ここではそのようなケースにを扱えるように関与物質総量のフレームワークを拡張する.これにより,見かけ上リサイクルが不利でも,埋立する場合より負荷が小さいケースを評価可能になる.平成28 年度以降: 途上国のリサイクル村における型家電リサイクルの実態とワーカーの鉛中毒の影響をケーススタディとしてフィールド調査し,その影響を拡張したフレームワークに基づき評価する.さらに近年使用量が急増しているインジウムが人間健康に与える影響を評価し,進捗次第でインドなど他の国々にも対象を広げる.ここでもインド工科大学のS.Ranganathan 教授のサポートを確約している.

3. 資源端への依存度分析モデルの構築(主に京都大学(山末),国立環境研究所(中島))
平成27 年度: 人間活動ベースの資源端依存度を分析できるモデルを構築する.関与物質総量が大きい素材でも,その使用量が小さければ環境に与えるインパクトは小さい.そこで推算済みの関与物質総量データに生産量データを乗じることで,人間活動をベースとした単位期間あたりの関与物質総量(年間関与物質総量)を推計する.
 また,資源端の地域別依存度を評価できるモデルも併せて構築する.すなわち,推算した関与物質総量を国別に分解し,そのシェアを評価する.データ整備が充実するまでは,「自国資源端利用率」という指標を導入し,対象製品がどの程度自国の資源端でまかなうことが可能であるのかを整理する.この結果を金額,重量ベースなど他の基準を用いた評価と比較し,関与物質総量を用いた分析手法で明らかにできるポイントの抽出を行う.
平成28 年度以降: 年間関与物質総量についてはさらに時間的・地域的な要素を追加し,国家や都市の発展に応じて人間社会がどのように資源端に依存してきたのかを解析する. 資源端の地域別依存度については,自国のみを見ていた前年の成果を基に,他国への依存を総合的に評価する.例えばハーフィンダール・ハーシュマン指数といった多様性評価指標を援用し,ワイブル分布(最弱リンクモデル)を加味して資源供給リスクを定量化する.

4. 関与物質総量を考慮したデカップリング評価(主に東北大学(松八重),名古屋大学(谷川))
平成27 年度: 真のデカップリングを目指すためには,経済活動やそれに関わるGHG 排出との関連を十分に検討する必要がある.そのためこれまでのパートで得られた成果を,経済活動やGHG排出量と比較する.初年度は,評価のための枠組み構築に専念し,モデルの挙動を確認するために日本のみを対にした近未来ケーススタディを実施する.モデルの構築に当たっては,ウィーン工科大学のPaul H Brunner の協力も仰ぎながら不確定性も加味できるようにし,将来的に国際共同研究へと発展させたい.また,2015 年に予定されているFinal Sinks(台湾)や産業エコロジー(英国)に関する国際会議でも意見交換を行う.評価結果は,4d-GIS システムを用いて可視化を行い面的な分析を行えるようにもする.
平成28 年度以降: 国レベルのモデルをベースとしながら,地域モデルを扱うことができるようにモデルを精緻化し4d-GIS システムに組み込む.地域モデルは国モデルの単なる縮小版とはせず,周辺地域の影響を受けるような相互作用モデルを構築する.システムには得られた結果を直接リンクできるようにし,リサイクル率や製品寿命といったパラメータ,スケールあるいはシナリオの変化をソフトウェア内部で動的に行えるようにし,視覚的な解析を行えるようにする.最終的には近い将来の資源端利用量の推移・特徴をグローバルスケールで行えるようにし,世界レベルでのデカップリングの実現に向けた提言を行う.

今年度の研究概要

1. 関与物質総量(TMR) の推算
申請者が提案した2種類の関与物質総量の枠組み,自然鉱石TMRと都市鉱石TMRを用いて関与物質総量のデータベースを整備する.初年度は主に日本を対象地域とする.製品は「食料」,「材料(素材)」,「中間製品」,「工業製品」,「エネルギー」に分類し,基本的に原材料に近いものから推算を進める.特に酸やアルカリ,エネルギー資源は,種々の材料の製造プロセスで頻繁に使用される原材料であり優先度が高い.また肥料も作物の生産に必要不可欠であるため重要度が高い.都市鉱石TMR については,先述の自然鉱石TMR で対象とした素材,特にベースメタルを中心に推算を進める.
2. 関与物質総量のフレームワーク拡張
関与物質総量の推算において鉱山の閉山処理やリサイクル残渣の無害化処理といったケースにを扱えるように関与物質総量のフレームワークを拡張する.これにより,見かけ上リサイクルが不利でも,埋立する場合より負荷が小さいケースを評価可能になる.
3. 資源端への依存度分析モデルの構築
人間活動ベースの資源端依存度を分析できるモデルを構築する.関与物質総量が大きい素材でも,その使用量が小さければ環境に与えるインパクトは小さい.そこで推算済みの関与物質総量データに生産量データを乗じることで,人間活動をベースとした単位期間あたりの関与物質総量(年間関与物質総量)を推計する. また,資源端の地域別依存度を評価できるモデルも併せて構築する.すなわち,推算した関与物質総量を国別に分解し,そのシェアを評価する.データ整備が充実するまでは,「自国資源端利用率」という指標を導入し,対象製品がどの程度自国の資源端でまかなうことが可能であるのかを整理する.この結果を金額,重量ベースなど他の基準を用いた評価と比較し,関与物質総量を用いた分析手法で明らかにできるポイントの抽出を行う.
4. 関与物質総量を考慮したデカップリング評価
真のデカップリングを目指すためには,経済活動やそれに関わるGHG 排出との関連を十分に検討する必要がある.そのためこれまでのパートで得られた成果を,経済活動やGHG排出量と比較する

外部との連携

【研究代表者】 山末英嗣(京都大学、助教)

【研究分担者】 藤森崇(京都大学、助教)

          松八重一代(東北大学、准教授)

          谷川寛樹(名古屋大学、教授)

備考

当課題は、重点プロジェクト1「国際資源循環に対応した製品中資源性・有害性物質の適正管理」および重点プロジェクト3「地域特性を活かした資源循環システムの構築」にも関連

課題代表者

中島 謙一

  • 資源循環領域
    国際資源持続性研究室
  • 上級主幹研究員
  • 博士(工学)
  • 工学,材料工学
portrait