- 予算区分
- AT H25公募型
- 研究課題コード
- 1416AT001
- 開始/終了年度
- 2014~2016年
- キーワード(日本語)
- ハウスダスト,発達神経毒性,脳,バイオマーカー
- キーワード(英語)
- House dust, Developmental neurotoxicity, Brain, Biomarker
研究概要
【背景】文科省調査で普通学級の小中学生の6.5%が発達障害に罹患している可能性が指摘されるなど、子供の脳の発達異常の急増に国民の不安が高まっている。発達障害急増傾向は世界中で確認されており、原因として環境要因の関与が疑われている。そのため、国際的な動向として、 生活環境中の化学物質が発達期の脳に及ぼす有害性を鋭敏に検出する評価法を構築し、原因を特定する研究の必要性が叫ばれている。
【目的】ほ乳類(マウス)、鳥類(ニワトリ・ウズラ)を用いて、それぞれの動物種の優位性を最大限に生かした複数の発達神経毒性評価法を構築し、ハウスダストなど生活環境中に含まれる有害化学物質の発達期の脳への影響を多面的に評価できる体制作りを推進する。また、現時点で発達神経毒性を誘導することが懸念されている化学物質に関する評価を行い、有害性のメカニズムを明らかにするとともに、ヒトの予防・治療に役立つバイオマーカー同定の可能性を探る。
【目標】
① 主に遺伝子改変技術を用いて脆弱性や鋭敏性を考慮にいれた動物モデルづくりを行うことで、発達障害研究に資する研究基盤の整備をすすめる。
② 発達神経毒性を多面的に評価する手法を確立することで化学物質の有害性をより正確に、かつ軽微な異常も見逃さずに評価できる仕組みを構築する。
③ 毒性機構解明・バイオマーカー同定を行い、ヒト疫学調査や医療への応用を目指す。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:技術開発・評価
全体計画
【サブ1】発達神経毒性検出基盤の整備 、【サブ2】発達神経毒性評価法の構築 、 【サブ3】毒性機構の解明と診断・予防に役立つバイオマーカーの同定、の3つのサブテーマを遂行する。
【サブ1】ではマウスおよびニワトリ・ウズラ胚を用いて発達神経毒性をより迅速かつ鋭敏に評価できる基盤を整備する。
1-a. マウスを用いた遺伝的脆弱性に着目した鋭敏評価モデルの整備:有害化学物質に対する脆弱性が高くなった遺伝子改変マウスを導入し、遺伝子発現・脳形成・行動、を定量的に解析して高感度評価系としての有効性を検討する。
1-b. 遺伝子改変マウスを用いた高感度可視化検出モデルの整備: 遺伝子組換えマウスを用いて化学物質の発達期曝露影響をより鋭敏に検出できるシステムを無機ヒ素を標準有害化学物質として利用して開発する。またa.で整備した脆弱動物モデルとこれらの可視化検出モデルとをかけ合わせることで、「脆弱かつ可視化可能」な新規遺伝子改変マウスを作出する。
1-c. ニワトリ・ウズラ初期胚を用いた発達神経毒性検出モデルの整備: 胚培養法の高度化と特定の発生段階に化学物質を定量的に曝露するための手法を開発する。また遺伝子改変技術の開発を行うことで、発達毒性評価に有効利用が可能な標準動物モデルとして確立する道筋をつくる。
【サブ2】ではサブ1で整備した研究基盤を元に発達神経毒性評価を試みる。評価する化学物質はハウスダストに含まれ、かつ、ヒト発達期における一定の曝露が見込まれる化学物質を主な対象とする。
2-a. 脆弱性を考慮したin vitro評価法の確立:脳内に存在する細胞を単離分散培養し、評価対象候補となる化学物質および室内で採取したハウスダスト濃縮液を培養液中に加えることで、化学物質の毒性影響の最初期スクリーニングモデルとして利用する。指標としては、神経突起伸張、シナプス形成等神経間の連絡に必要な微細構造への影響や、細胞増殖、細胞周期への影響を評価する。また、遺伝子組換え脆弱モデルおよび高感度検出モデルの脳から作製した初代培養細胞で、化学物質に対する影響が鋭敏に評価できるか検討する。さらに、ハイスループット化を試み、多数存在する化学物質の中から行動毒性試験(2-b)に用いる研究対象候補になる物質の絞り込みに活用する。
2-b. 新規行動試験法の確立:発達障害は環境適応力低下や個体間の社会的なコミュニケーション障害が主な症状である。我々は既に全自動行動記憶学習記録装置IntelliCageを用いて環境適応力を鋭敏に検出できるシステムを構築している(①)。【サブ2】ではそれに加えて、マウスにおいて個体同士の関係をビデオ撮影し、マウスでコミュニケーション障害を検出できる評価法(②)を新たに構築する。また鳥類雛を用いた親子間の認識・学習評価法(③)を完成させる。さらに①〜③の試験法を用いて、化学物質の発達期曝露の影響を検討する。
2-c. ニワトリ・ウズラ初期胚を用いた神経発生試験法の確立:ニワトリ・ウズラ胚を用いて、初期の胚発生を「卵外培養」により、化学物質曝露の結果起こる神経発生への影響を評価する。また【サブ1】1-cで遺伝子改変蛍光可視化ウズラが開発できれば、蛍光顕微鏡による観察でより精緻に脳形成を観察する手法の確立を目指す。
【サブ3】では、化学物質曝露により発達障害様の行動異常が生じた動物モデルを用いて、発達神経毒性機構を解明する。また、その動物モデルで疫学調査に使えるバイオマーカーの同定を目指す。
3-a. 毒性機構の解明:標準動物モデルおよび脆弱動物モデルにおいて、難燃剤の体内動態と脳における 蓄積量を検討するとともに、脳の構造・形態学的異常、遺伝子発現異常、エピジェネティック変化、代謝物質動態一斉分析を検討することで、難燃剤の毒性機構を明らかにする。
3-b. 血中バイオマーカーの創出: 脳内で生じるエピジェネティック変化や代謝物質動態変化は血中成分にも反映されることが知られている。発達障害様行動異常を示した動物個体の血中成分が脳内の分子生物学的・生化学的変化に対応した変化を示すかを明らかにし、血中バイオマーカーとして利用できる可能性を検討する。
年次計画:
H26年度
【サブ1】マウス遺伝子改変モデルの導入・鳥類胚培養法の高度化と可視化
【サブ2】
・in vitroでの神経細胞・グリア細胞への毒性評価
・マウス・鳥類雛を用いた新規行動試験法の確立
・可視化技術を用いたウズラ初期胚発生試験法の確立
【サブ3】毒性機構の解明
H27年度
【サブ1】マウス遺伝子改変モデルの整備・鳥類胚培養法の高度化と可視化
【サブ2】
・脆弱・可視化モデルでの神経細胞・グリア細胞への毒性評価
・標準モデルおよび脆弱・可視化モデルへの行動試験法の適用
・可視化技術を用いたウズラ初期胚での毒性評価
【サブ3】毒性機構の解明・血中バイオマーカー同定
H28年度
【サブ1】遺伝子改変動物モデルの整備・鳥類遺伝子改変技術開発
【サブ2】
・in vitroハイスループット化評価系の確立
・脆弱・可視化モデルへの行動試験法の適用
・遺伝子改変モデルを用いたウズラ初期胚での毒性評価
【サブ3】 毒性機構の解明・血中バイオマーカー同定
今年度の研究概要
【サブ1】マウス遺伝子改変モデルの導入・鳥類胚培養法の高度化と可視化:脳内の神経伝達物質の含有量を制御する遺伝子を操作し発達障害になりやすく有害化学物質に対する脆弱性が高くなった遺伝子改変マウスを導入する。また、 胚発生中の神経発達段階の可視化を可能にする胚培養法の高度化と特定の発生段階に化学物質を定量的に曝露するための手法を開発する。
【サブ2】
・in vitroでの神経細胞・グリア細胞への毒性評価:脳内に存在する細胞を単離分散培養し、評価対象候補となる化学物質を培養液中に加えることで、化学物質の毒性影響の最初期スクリーニングモデルとして利用する。
・マウス・鳥類雛を用いた新規行動試験法の確立:マウスにおいて個体同士の関係(成獣vs成獣)をビデオ撮影し、その関係性を明らかにすることで、マウスでコミュニケーション障害を検出できる評価法を新たに構築する。また、鳥類雛を用いた親子間の認識・学習評価法を構築する。
・可視化技術を用いたウズラ初期胚発生試験法の確立:ウズラ胚を用いて、初期の胚発生を「卵外培養」により可視化することにより、化学物質曝露の結果起こる神経発生への影響を評価する。
【サブ3】毒性機構の解明:化学物質の体内動態と脳における蓄積量を検討するとともに、脳の構造・形態学的異常、遺伝子発現異常を検討する。
外部との連携
【サブ1】 東京医科歯科大学難治疾患研究所 田中光一 教授
【サブ2】 北里大学一般教育部・大学院医療研究科 浜崎浩子 教授、埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門 塚原伸治 准教授
【サブ3】 独立行政法人 国立成育医療研究センター研究所 薬剤治療研究部実験薬理研究室 中村和昭 室長
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