- 予算区分
- BB 環境-地球一括
- 研究課題コード
- 1216BB003
- 開始/終了年度
- 2012~2016年
- キーワード(日本語)
- シベリア,二酸化炭素,メタン,タワー観測
- キーワード(英語)
- Siberia, Carbon dioxide, Methane, Tower measurement
研究概要
ロシア共和国のシベリア域の陸上生態系は気候変動の影響を顕著にうけるため、この地域のCO2吸収・放出およびCH4放出の応答の解析はグローバルな温室効果ガスの長期変動を評価する上で不可欠である。しかし世界の温室効果ガス観測網の中でシベリア域は観測の空白域であった。気候変動に対して脆弱な地域でもあるため、「地球観測の推進戦略」で述べられている温室効果ガスの観測が必要とされる地域である。
シベリア域には世界最大のタイガが存在し、木々の呼吸・光合成によりCO2濃度を顕著に変化させる。また西シベリア域には世界最大の湿地帯が存在し、自然起源としては世界最大のCH4の放出源となっている。地球温暖化に伴い永久凍土の融解やタイガ植生の遷移が起こっていることも報告され、グローバルな温室効果ガスの循環にとって重要な放出源・吸収源が分布している。
23年度完了予定の地球環境保全試験研究費による研究では、シベリア域に9ヶ所のタワー観測ネットワークを構築し温室効果ガス(CO2、CH4)濃度の連続測定が行えるようになった。しかし全サイトでシステムが稼働し始めたのは2008年以降であり、季節変動の特徴を捉えられるようになったばかりである。「平成23年度の我が国における地球観測の実施方針」には、地上観測網は長期継続的に維持されるべきプラットフォームと述べられており、このタワー観測ネットワークも今後少なくとも5年は維持することで10年規模の長期変動を捉えられるようになり、そこで初めて経年変動の議論も行うことができるようになる。例えば、温暖化に伴うCO2の季節振幅の変化や、西シベリア湿地帯からのCH4放出量の全球規模のCH4収支への寄与率は、長期観測によって明らかになることである。また現在タワー観測システムで使用しているCH4センサーの一部は、劣化により測定が難しいものもあり、長期観測を行うためにはより安定した装置に置き換える必要がある。
研究の性格
- 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
(1)タワー観測システムの維持と改良
地球環境保全試験研究費による研究で23年度までに構築されたタワー観測ネットワークを利用してCO2およびCH4濃度の連続観測を継続して行う。CO2測定に関しては、全9サイトで現有の非分散型赤外分光計を用いて実施する。CH4センサーに関しては、精度も信頼度も高いキャビィティリングダウン分光分析装置(CRDS)と順次置き換える。初年度は国立環境研究所に設置されている同タイプの観測システムにCRDSを組み込んで長期的に安定して稼働させ、データを確実に取得する手法を確立し、分析精度の確認実験を行う。2年目以降は現地のシステムにCRDSを導入し、データ取得を開始する。
(2)長期蓄積データの解析
2008年からシベリア域の9サイトで連続してデータが取得されているが、本研究では2016年までの観測を予定しているので10年規模の温室効果ガスの変動を捉えることができる。この長期モニタリングにより、温暖化によって植生の育成期間が伸びることによるCO2季節振幅の増加、森林火災面積の変動によるCO2およびCH4濃度の変動、2007年以降の全球規模でのCH4上昇へのシベリア湿地帯の寄与率に焦点を当ててデータ解析を行う。観測した大気の履歴(フットプリント)をLagrange型大気輸送モデル(STILT: Stochastic Time-Inverted Lagrangian Transport)によって計算し、輸送の差異も考察する。
(3)陸域生態系モデル
プロセスベースの陸域生態系モデル(VISIT)により各観測地点における温室効果ガスのフラックスを計算する。観測値との相違からモデル内で扱われているCO2、CH4の生成・消滅プロセスの評価を行う。観測値の再現性が高くなった段階で解析を面的に拡大し、シベリアの多様な地表面(タイガ・ステップ域・湿地帯)からの温室効果ガスの収支を見積もる。
今年度の研究概要
引き続き西シベリア8ヶ所、東シベリア1ヶ所における既存タワーを利用したCO2およびCH4濃度の連続観測を行う。
CRDSを国立環境研究所に設置された観測システムに組み込んで長期的に安定して稼働させ、データを確実に取得する手法を確立した後シベリアへ輸送する。既存のシステムとの比較実験を行う。