- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 0911CD007
- 開始/終了年度
- 2009~2011年
- キーワード(日本語)
- インポセックス,有機スズ化合物,レチノイドX受容体,神経ペプチド,ステロイド
- キーワード(英語)
- IMPOSEX, ORGANOTIN COMPOUNDS, RETINOID X RECEPTOR, NEUROPEPTIDES, STEROIDS
研究概要
ごく低濃度の有機スズ(TBT及びTPT)化合物によって腹足類(特に、前鰓類)に特異的に惹起されるインポセックス現象の誘導機構について、アロマターゼ阻害説等の4つの仮説が提起されてきた。しかし、これら既存の4仮説には、野外での観察結果や室内実験の結果にいくつもの矛盾がある。研究代表者らがイボニシを用いて得た知見から、インポセックス現象の誘導及び増進には核内受容体の一種・RXRが深く関与している可能性がきわめて高いことが明らかとなり、既に論文を公表してきた。
本研究では、RXRを中心に据えた、より詳細なインポセックス誘導機構の解析を進める。同時に、いくつもの矛盾点があるにもかかわらず、前鰓類の種差ゆえであるとの主張が欧米で根強くなされている既存の4仮説の妥当性の検証も行う。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
ごく低濃度の有機スズ(TBT及びTPT)化合物によって腹足類(特に、前鰓類)に特異的に惹起されるインポセックスは、有機スズによる海洋汚染が原因で世界中の腹足類が被った“被害”として広く知られている。一方、インポセックスは生物学的にきわめて興味深い現象である。現在までに、有機スズによる腹足類のインポセックス誘導機構について、世界の研究者から4つの仮説が提起されてきたが、研究代表者らがイボニシを用いてこれまでに得た知見から、インポセックス現象の誘導及び増進には核内受容体の一種・RXRが深く関与している可能性がきわめて高いことが明らかとなったため、2004年に第5の仮説・RXR関与説を提起した。それゆえ、RXRを中心に据えて、より詳細なインポセックス誘導機構の解析が必要である。これは、腹足類、とりわけ前鰓類の性分化や生殖器官形成などに関するRXRを介したメカニズムの解明に有用であるとともに、前鰓類における性ホルモンが何であるかなどの基礎生物学の知見の充実にも貢献するであろう。
一方、既存のインポセックス誘導機構仮説(アンドロゲンや神経ペプチドが関与するとしたアロマターゼ阻害説、APGWamide関与説など)は、野外での観察結果や室内実験の結果にいくつもの矛盾を有しているにも拘らず、前鰓類の種差ゆえであると欧米では今なお主張されており、それらの妥当性の検証も必要である。
したがって、本研究では前鰓類におけるRXRを介したインポセックスの誘導、すなわち、ペニスと輸精管の分化、形成及び発達に関する詳細な機構解析を中心としつつ、神経ペプチドとステロイドのインポセックス誘導機構への関与についての検証も進めることとし、以下の諸課題に取り組む。
1.イボニシRXRに関する生物学的特徴と、ペニス及び輸精管の分化・成長・形態形成との関係解析
2.神経ペプチドがインポセックスに及ぼす影響と、神経細胞の成長・増殖へのRXRの関与に関する検討
3.前鰓類におけるステロイドの存在とその機能に関する検討
今年度の研究概要
今年度は、昨年度に引き続き、以下の研究を実施する。
1.前鰓類のRXRに関する生理・生化学的特徴の解析
1.1 イボニシのレチノイン酸受容体(RAR)及びレチノイドX受容体(RXR)の相互作用の解析
1.2 ヒトRXRアゴニスト及びアンタゴニストによるイボニシのインポセックス誘導・増進に及ぼす影響の解析
1.3 イボニシ以外の前鰓類のRXRのクローニングと転写活性能の解析
2.前鰓類のペニス神経の同定、及び有機スズ曝露の影響解析
2.1 イボニシにおけるペニス神経の同定
2.2 有機スズ曝露の影響解析
2.3 神経ペプチド遺伝子の構造解析、及び複数の前駆体形成メカニズムの解析
3.前鰓類におけるステロイドの存在とその機能に関する検討
3.1 イボニシのインポセックスに及ぼすアンドロゲンの影響解析
備考
太田康彦(鳥取大学農学部)、井口泰泉(自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター)、森下文浩(広島大学理学部)
- 関連する研究課題
課題代表者
堀口 敏宏
- 環境リスク・健康領域
生態系影響評価研究室 - 特命研究員
- 博士(農学)
- 水産学,生物学,解剖学
担当者
-
白石 寛明
-
漆谷 博志