- 予算区分
- AA
- 研究課題コード
- 0610AA302
- 開始/終了年度
- 2006~2010年
- キーワード(日本語)
- 感受性,高次機能,発生,免疫系,神経系,内分泌系
- キーワード(英語)
- SENSITIVITY, HIGHER BIOLOGICAL FUNCTION, DEVELOPMENT, IMMUNE SYSTEM, NERVOUS SYSTEM, ENDOCRINE SYSTEM
研究概要
環境化学物質による内分泌系・免疫系・神経系などの高次生命機能のかく乱による生殖・発生・免疫・神経行動・遺伝的安定性などへの影響の解明が求められている。本研究では、先端技術を活用したバイオマーカーやスクリーニング手法の開発などにより、化学物質に対する感受性要因に注目して健康影響を評価する。特に、胎児・小児・高齢者や遺伝的素因保持者などの化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性要因の解明を進め、高感受性の程度を把握し、感受性の個人差を包含したリスク評価、環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供することを目的とする。
全体計画
本研究では、まず、環境化学物質に対し高い感受性を示す集団の候補、環境化学物質に対し高感受性を示す高次機能指標、高感度・高精度に影響評価することが可能な評価法について、これまでの疫学研究、臨床研究、実験動物研究から割り出し、動物モデルを用いて実際の化学物質曝露を行い想定される高感受性要因を同定・検出する。さらに、評価期間の短期化や簡便化を図れる新たな高次機能影響評価モデルを開発し、総合的な評価を可能にする。また、これに並行し、複数の環境化学物質を対象とし、環境化学物質の高次機能影響を評価する。次に、同定・検出された因子を、ヒトにおける高感受性集団曝露による影響評価に適用できる指標として応用し、適切な評価法の確立をめざす。化学物質による高次生命機能の撹乱による、生体恒常性維持機構に及ぼす影響の解明を通して、環境中に存在する化学物質に対する感受性を修飾する生体側の要因を明らかにし、感受性要因を考慮した化学物質の健康影響評価手法を提案する。具体的には、
(1) 低用量の環境化学物質曝露により引き起こされる神経系、免疫系などの生体高次機能への新たな有害性を同定し評価するモデルを開発する。
(2) 胎児・小児・高齢者など感受性の時間的変動の程度を把握し、発達段階に応じた影響を包含したリスク評価、環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供する。
(3) 化学物質曝露に脆弱な集団にみられる高感受性を呈する要因の解明や様々な要因の複合影響を評価するスクリーニングシステムを開発する。
今年度の研究概要
(1) 低用量の環境化学物質曝露により引き起こされる神経系、免疫系、およびその相互作用における有害性を嗅覚閾値の検出、シナプスでの情報伝達遺伝子の発現について検討する。具体的には、神経系では、認知可能なレベルの嗅覚刺激にともなう生体反応を動物実験で検証する。まず嗅覚閾値を調べるための実験系を作製し、それを用いて実験対象の生物学的属性(性、年齢、など)を変えて計測をくり返し、嗅覚閾値を左右する生物学的要因を探索する。免疫系では、トルエンの曝露を行い、系統間での免疫情報処理の違いを検討することにより、感受性に関る因子の解明を行う。さらに、トルエン曝露と抗原感作による神経−免疫のクロストークについて神経伝達物質の遺伝子発現での変化を追跡する。
(2) 胎児、小児、高齢者等感受性の時間的変動の程度を把握し、発達段階に応じた影響解明のため、脳形成におけるアポトーシスの変動、感染低抗性獲得における細菌クリアランスとToll様受容体の発現、甲状腺ホルモン受容体応答の変化に関する検討を行う。また、環境化学物質による脳の発達障害を検索するための神経変性疾患モデル動物の作成を行う。具体的には、雌雄ラット・マウスを用い、発達段階にある大脳辺縁領域を採取して、各種アポトーシス制御分子のmRNAおよびタンパク発現を解析する。引き続き、アポトーシス制御分子を指標として、大脳辺縁系の発達に及ぼす胎児期・新生期の化学物質曝露の影響を検討する。自然免疫系については、幼若マウス(又は妊娠マウス)に低濃度のトルエンの亜慢性曝露を行い、肺や胸腺、脾臓等における自然免疫系への影響を組織・細胞・分子・遺伝子レベルで検討し、化学物質に対する感受性モデルの影響評価を行う。特に感染低抗性獲得における細菌クリアランスとToll様受容体の発現についてグラム陽性細菌(又はその細胞壁成分)を用いて検討する。核内受容体の研究では、出産後1日目の母獣マウスにTCDDの単回経口投与を行い、母乳経由でTCDD曝露した新生仔マウスの臓器における核内レセプターの遺伝子発現に対するダイオキシンの影響を検討する。核内レセプターを介する生体影響の病理組織学的検索を併せておこない、時間的感受性要因を追及する。環境化学物質による神経変性疾患モデル動物の開発と病態解析では、環境化学物質の曝露により神経変性疾患モデルラットを作製し、その影響を遺伝子レベル及び蛋白質レベルで検討する。
(3) 化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性を呈する要因の解明のため、in vivoアトピー性皮膚炎モデルによる化学物質のアレルギー増悪影響の有無を検討する。また、アレルギー増悪影響のより簡易なスクリーニング手法の開発を行う。さらに、水環境中での変異原性のアッセイを可能にし、発生過程での感受性の違いを評価する。具体的に、In vivoスクリーニングによる化学物質のアレルギー増悪影響評価として、アトピー性皮膚炎モデルを用いたin vivoスクリーニング系を用い、DINP、MEHP、TBTCが皮膚炎に及ぼす影響について評価する。また、DNAマイクロアレイを用いた短期スクリーニング手法の開発では、平成16年度終了特別研究において確立したin vivoスクリーニングモデルにおける遺伝子発現の変化を、病態の進行とともに、経時的、網羅的に解析する。変異原性の研究では、発癌性があり、かつ水環境中に存在する物質の変異原性を、Tg魚(「24時間胚(未孵化)」と「成魚(whole fish、エラ、膵肝臓)」)を用いて検出可能か検証する。また、発生・成長途上で特に高い感受性を示すと考えられる孵化直後の稚魚(孵化稚魚)の時期での変異原性のアッセイを確立し、発生過程での感受性の違いを評価する。