オキシダント生成に関連する
水素酸化物ラジカルの多相反応に関する研究
(令和3年度~令和5年度)
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-149-2024
本報告書は、令和3~5年度の3年間にわたって実施した所内公募型提案研究「オキシダント生成に関連する水素酸化物ラジカルの多相反応に関する研究」の研究成果をとりまとめたものです。
オゾンを主成分とする光化学オキシダントは、健康影響や植物影響のほか高い温室効果を持つことから低減が望まれています。国内ではオゾンの前駆物質である揮発性有機化合物の4割削減が実現したにもかかわらずオゾンは高止まりしており、国内環境基準はほとんど達成されておりません。近年中国でも、PM2.5等の大気汚染物質の排出削減に反してオゾンが増加したことが問題となっており、2018 年に中国と米国の研究機関が共同で、PM2.5 の減少がオゾンの増加を説明するという仮説を発表しています。しかし、オゾンとPM2.5 の相互作用の詳細の理解は不十分であり、新たな仮説による日本国内におけるオゾンの押上げ効果は定量化されていませんでした。このような背景のもと、国立環境研究所では、京都大学と共同でオゾン生成とPM2.5 の相互作用を研究するための手法開発に取り組んできました。
本研究では、オゾンとPM2.5 の相互作用に係る素過程のうち、オゾン生成の反応を担う水素酸化物ラジカルの取り込み過程に着目し、取り込み速度を実験的に定量化するとともに、水素酸化物ラジカルの取り込み過程の導入により国内のオゾン濃度の長期変化を説明する大気モデルを構築しました。本研究によって、将来の国内オゾン低減にPM2.5 の削減が悪影響を及ぼさないことが明らかになりました。この結果を踏まえ、将来の国内オゾンの低減には、国内での揮発性有機化合物の削減余地を理解してオゾン前駆物質の削減をさらに進めつつ、東アジア諸国によるオゾン低減の国際協力も同時に進めることが必要です。オキシダント問題は今後長期にわたって取り組むべき課題です。本研究の成果は、オキシダント問題の解決に向けて、オゾンの長期変化を理解するための科学的基盤になることを確信しています。
(国立環境研究所 地域環境保全領域 佐藤 圭)