第4期中長期計画を巡って
住 明正
平成28年度から、国立研究開発法人国立環境研究所の第4期中長期計画が始まりました。この計画の策定にあたっては、昨年4月より研究所一丸となって検討を尽くしてきました。そこに込められた思いについて少し、述べてさせていただきます。
まず、計画の名称が「中期」計画から「中長期」計画と変わったことです。これは、国立研究開発法人となった際に、研究計画の期間が5年から7年というように変更されたことによります。このときの理由は、「研究によっては、短期間で終了するものではなく、長い時間を必要とするものがある」という当研究所を含む多くの研究機関の意見を受けたものです。従って、当研究所についても「計画期間を何年にするか?」という議論が行われました。「環境研究には長期間を必要とする」という立場からは当然7年ということになりますが、その一方、環境行政を取り巻く枠組みは、たとえば、中央環境審議会(中環審)での計画などが5年ごとに改定されるというように5年で動いています。従って、このような外部状況の変化を反映させるには、5年の方が都合がよい、という意見も存在しました。議論の結果、当研究所の次期中長期計画は5年ということになりました。いわば、長期的な計画で研究を続けるより、時代の変化に応じた研究に積極的に挑戦してゆこうというわけです。
次に、研究の目標ですが、科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)では、従来の「経費の効率的な使用」等に加え、「研究成果の最大化」が掲げられました。しかも、当研究所の研究だけの最大化ではなく、「日本国内全体の研究の最大化を目指す」とされました。これを受けて、どのように目標を定めるかが、議論の焦点となりました。
当研究所は、日本における環境研究の中核的研究機関として、日本国内の環境研究を発展させてゆくとともに、次代につながる基盤的な研究を行うという責任を持っています。第4期においても、従来の立場と基本的に変わるところはないといってよいのですが、今後はより積極的に全体の環境研究を進展させるため、環境科学分野全体を俯瞰した広範囲な研究を行い(束ねる)、基礎から社会実装を目指した総合研究を推進し(繋ぐ)、研究ネットワークを更に発展・充実させ(結ぶ)、広く環境問題の理解と解決に資する高い水準の研究を実施し(引っ張る)、蓄積された科学的知見を適切に発信することを目標としました。これらの研究を行うため、時代が要求する課題に対応してゆく「プログラム研究」と、「基盤的な研究」を並行して発展させることとしました。
プログラム研究は、中環審の答申である「環境研究・環境技術の推進戦略」に従い、課題解決型研究プログラムとして、低炭素研究プログラム、資源循環研究プログラム、自然共生研究プログラム、安全確保研究プログラム、統合研究プログラムの5つのプログラム及び福島支部を中核として行われる災害環境研究プログラムとしました。第4期は、この6つのプログラムを軸に、研究が展開される予定です。
また、本研究所の行っている事業の中には、単なる研究のみならず、研究の基盤となる諸々の仕事が存在します。それらを研究事業とてして計画の中に位置づけることとしました。これらの研究事業の中には、国内外の研究機関との連携を図るものがあることから、研究事業連携部門として充実させ、連携研究を担うプラットフォーム機能を強化することにしました。これらの例としては、GOSATに代表される衛星観測センター、エコチル調査コアセンターなどです。
第4期において新たに発足させる試みとしては、研究事業連携部門におく、気候変動戦略連携オフィス、災害環境マネジメント戦略推進オフィス、社会対話・協働推進オフィスがあります。また、研究事業として再編したものに、リスク評価科学事業連携オフィス、研究室として、ゲノム科学研究推進室があります。いずれも時代の要請を受けて始めたものです。
時代は大きく変化しています。平成28年度の運営費交付金の状況をみると、従来のようなやり方では今後は通用しないことを示唆しています。また、現在の我々を取り巻く科学研究システムは短期的な成果を求められる傾向にあり、長期的な視点でも取り組む必要がある環境研究の遂行にはそぐわない場合があるように思われますが、どのようなシステムがよいのか、手探りの状況です。このような時代の変化を乗り越えるのは、個人の強化しかあり得ないと思います。すべての人が、今ある組織の中でしか生きることができない、という状況を脱し、どんな場所や状況でも活躍できる気力と意欲と能力を維持することが必要なのでしょう。
我々は、上述した4つのキーワード(繋ぐ・束ねる・結ぶ・引っ張る)を念頭に環境研究を推進するとともに、我が国全体の研究開発成果の最大化を図り、社会との橋渡しに努め、国内外の環境政策の進展に貢献していきます。皆さまのご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
執筆者プロフィール
研究所に来て、はや、3年余が過ぎた。時の流れは速いものである。周りを見ると同級生はほとんどがリタイアした。しかし、悠々自適している人は少なく、ほとんどの人が何かをやっている。結局、実社会が持っている出来事ほど刺激的な物事はないということであろう。