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適正な国際資源循環の推進に向けて −中核研究プロジェクト4 「国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築」から−

【シリーズ重点研究プログラム: 「循環型社会研究プログラム」 から】

寺園 淳

 循環型社会研究プログラムにおいて,中核研究プロジェクト4(以下,中核P4と記す)は,適正な国際資源循環の推進を目標としています。国際資源循環とは慣れない用語ですが,「(石油や鉄のような一次資源と同様に)国境を越えて移動しながら国際的な規模で行われている資源循環」と「海外,特に開発途上国で発生した廃棄物やそこから回収した資源の管理」の2種類の視点があります。私たちは,日本を由来とする前者の国際資源循環に重点を置きながら,後者を含めた,アジア地域での適正な国際資源循環の推進を目指しています。

 国際的な規模で循環している資源の例として,使用済み電気電子機器,ペットボトルを含む廃プラスチック,様々な金属スクラップなどがあり,これらに関して,サブテーマ1「アジア地域における資源循環システムの解析と評価手法開発による適正管理ネットワークの設計・評価」とサブテーマ2「アジア諸国における資源循環過程での環境影響把握」で研究しています。

 また,開発途上国で発生する固形と液状の廃棄物の適正処理と温暖化対策を両立する技術システムについて,サブテーマ3「途上国における適正処理・温暖化対策両立型技術システムの開発・評価」で研究しています。

 図1に中核P4の主たる研究対象である,循環資源の越境移動のイメージを示します。本稿では,使用済み電気電子機器を中心とした物質フローと環境影響の把握,適正な管理方策について,ご紹介いたします。

イメージ図(クリックで拡大表示)
図1 循環資源の越境移動のイメージ

 家電製品やパソコンは,日本で使用済みとなっても,中古品やスクラップとして輸出され,海外で引き続きリユース・リサイクルされることが多くなっています。これは,国内の家電リサイクル法や,資源有効利用促進法で定められたパソコンの回収・リサイクルシステムとも大きく関係します。家電の場合はリサイクル料金を引き渡すときに支払い,2003年10月以降販売の家庭系パソコンの場合は販売時にリサイクル料金が含まれているため国内の無料回収業者などによって回収されたり,小売業者から適切にリサイクルプラントに引き渡されなかったりしたものが輸出される場合が多いようです。規定のリサイクルシステムで把握されない「見えないフロー」は,家電の場合は推定排出台数の半数程度,パソコンの場合は9割以上となっています。この「見えないフロー」を含む国内の全体の物質フローを,業界団体や行政が行った推計を活用・修正したり,計算方法の改良などを行って把握してきました。その結果,家電4品目(ブラウン管(CRT)式テレビ,エアコン,冷蔵庫・冷凍庫,洗濯機)は2005年度で460万台程度,パソコンは2004年度で200万台程度がリユース目的で輸出されていると考えられました。家電の場合はブラウン管(CRT)式テレビの輸出が半数の223万台程度と大きくなっており,2011年の地上デジタル放送完全移行を控えて薄型テレビの普及が進み,国内で不要となったCRTテレビが海外へ輸出されている実態がわかります。こうした使用済みの家電やパソコンの輸出にあたっては,有害廃棄物の場合はバーゼル条約等で厳しく制限されていますし,中古品でなく廃棄物とみなされる場合は廃棄物処理法の国内処理原則に反するため,まずは国内法の順守を徹底させることが基本です。しかし,中古品としての輸出でも廃棄物とみなされる事例が続く場合は,中古品の輸出基準設定を含む制度の見直しの必要もあると考えられます。

 さて,日本からの輸出を中心とする東アジアの物質フローは,貿易統計や現地調査によって分析を進めています。図2には,例として2006年のCRTテレビの物質フローを紹介しています。日本においては,2001年以降,新品のCRTテレビの輸入は激減しましたが,中古品の輸出は大きな変化がなく,2006年の香港向けは154万台となっています。しかしながら,2006年4月における香港の輸入規制強化が日本国内で翌年6月に通知されてからは,香港向けの輸出量が減少して,結果的にベトナムやフィリピンなどへ輸出が分散するようになりました。すなわち,相手国の環境保全と輸入規制にも十分配慮したアジア規模での中古品貿易の管理体制が必要となっています。また,資源価格の高騰が進む近年において,有価金属の国外への流出防止や,国外の技術でどの程度効率的な貴金属や希少金属の回収ができているかといった視点も必要です。

フロー図
図2 日本からの中古CRT式テレビの輸出フロー(単位:台)

 実際に中古品として日本から輸出されたテレビが,輸入国でどのように輸入・取引されているか,環境汚染などの問題点がないかを把握するために,フィリピン向けの中古テレビについて,梱包・積載・輸送状況や,輸送による破損率,現地の取扱いなどを日本の輸出業者の協力を得て追跡調査しました。中古テレビを積載した40フィートコンテナ1本分の事例ですが,フィリピン到着時の外装の破損率は3%程度と考えられました。すべての輸入中古テレビは,変圧器の取り付けなどの調整を行った上で,修理を行う場合がありますが,最終的には中古品として販売されていました。日本から輸出された中では残渣として埋め立てられるものは非常に少ないと考えられましたが,現地で発生する使用済み製品の解体と廃棄には,CRTの投棄など環境保全上問題があるケースが確認されました。

 さらに,アジアでの電気・電子機器の解体と部品・素材の流通状況を把握する一例として,ベトナムのハイフォン市のある解体工場で,実際に解体される家電製品などの回収部品・素材の種類・重量・価格,販売先などの情報を調査しました。テレビやパソコンモニタなどの例では,鉄,銅,アルミ,プラスチックなどはベトナム国内のリサイクル村(小規模なリサイクル業者が集まった地域)か中国へ運ばれてリサイクルされているようでした。お金を支払って処分してもらう残渣は出ないとの回答を得ましたが,リサイクル先が確認できなかった鉛を含むCRTなどの最終利用先の調査が課題として残っています。また,鉛などの重金属を含む基板は直接中国南部に輸出されている可能性が高く,そこでの取扱いの把握が課題です。ベトナムと中国の国境地域での中古電気電子機器の流通状況について現地調査したところ,基板以外にも,中古のパソコンモニタとテレビがベトナムから中国に多数流入していることが確認されています。(写真)

中古家電が運び込まれる写真
写真 ベトナムと中国の国境で中国に流入する中古のパソコンモニタとテレビ
(2007年9月,筆者撮影)

 このような使用済み電気・電子機器がアジア諸国で不適切な処理をされた場合に生ずる環境影響を,国内での模擬実験などで検討しています。廃基板を実験的に燃焼させると,不完全燃焼下ではBDE209(臭素原子が10個ついたポリ臭素化ジフェニルエーテル)やデカブロモジフェニルエタンなど難燃剤で使用される物質や臭素原子が4~9個ついたポリ臭素化ジフェニルエーテルは,投入量の30~99.999%が熱分解するのに対し,ダイオキシン類や上記以外のポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)及びポリ臭素化ベンゼン(PBBzs),ポリ臭素化フェノール(PBPhs)の異性体は投入量に対し,数桁多く生成することが明らかとなりました(図3)。以上のような実験で,適切な燃焼管理や排ガス処理を行うことが,臭素系難燃剤やダイオキシン類を含む副産物の環境放出を抑制するために必要であることがわかっています。また,廃基板の不適正処理処分により生じる金属類の環境汚染についても,溶出試験と燃焼試験により推定しました。溶出量から鉛が水系を汚染し,燃焼排ガスの分析結果から大気系へ銅,鉛,アンチモンの排出があるとともに,焼却残渣量より基板中金属の90%以上が土壌蓄積し,さらに焼却残渣の鉛は酸化鉛のためにアルカリ条件下で溶出しやすくなることがわかりました。

物質の挙動グラフ
図3 廃基板の燃焼試験における燃焼・排ガス処理過程におけるさまざまな物質の挙動
(括弧付きは,検出下限値)
DBDPE : 十臭素化ジフェニルエタン
DecaBDE : 十臭素化ジフェニルエーテル
HexaBBz : 六臭素化ベンゼン
OctaBDEs : 八臭素化ジフェニルエーテル
TBBPA : テトラブロモビスフェノールA
TrBPhs : 三臭素化フェノール
DiBDEs : 二臭素化ジフェニルエーテル
MonoBPhs : 一臭素化フェノール
DiBBzs : 二臭素化ベンゼン
PBDD/Fs : ポリ臭素化ダイオキシン
PXDD/Fs : ポリ塩素化・臭素化ダイオキシン
PCDD/Fs : ポリ塩素化ダイオキシン

 以上のほか,国内・国際資源循環政策の研究も行っています。国際的な循環型社会を形成するためには,それぞれの国で循環型社会を形成することと,また不法な輸出入を防止して国際的な循環を適切に管理することが必要です。このため,各国の既存のリサイクル制度が,拡大生産者責任の概念に基づいてどのように機能しているかといった,各国の制度の比較分析をしています。また,国際的な枠組みについても,海外との研究者ネットワークを構築・拡張したり,既存の行政のネットワークを活用しながら,アジア規模で調和のとれた輸出入管理方策を検討してゆく予定です。

(てらぞの あつし,循環型社会・廃棄物研究センター
国際資源循環研究室長)

執筆者プロフィール

 中古品を含む循環資源の越境移動には賛否両論があり,事業者・NGO・行政など異なる立場の考えに,しばしば考えさせられます。さらに,経済状況や価値観が多様なアジア諸国で合意形成は容易ではありませんが,将来や弱者に負担を強いない資源循環の在り方を議論できればと思います。
慌ただしい日々ですが,自分の移動はできるだけ鉄道を活用し,環境負荷が低く豊かな時間を少しでも楽しみたいと考えています。