表彰
受賞者氏名:増冨祐司
受賞年月日:平成19年8月2日
賞の名称:地球環境講演論文賞(土木学会地球環境委員会)
受賞対象:優れた論文に対して「世界流域データベースの開発」
受賞者からひとこと:
このたびは栄誉ある地球環境講演論文賞を賜りましたことを著者一同,誠に光栄に存じます。受賞講演論文「世界流域データベースの開発」は,著者らが開発した世界流域データベース(Global Drainage Basin Database:以下GDBDと呼ぶ)の概要と開発手法,精度検証についてまとめた講演論文であります。現在,地球上では人口増加,産業発展,生活様式の変化,灌漑農業の拡大等に伴い,水に関連した様々な問題が顕在化し,これに加え今後予測される気候変動は地球規模の水循環を変化させ,現在問題のない地域に新たに問題を生じさせる可能性があります。このような背景の下,GDBDは水問題の解決に向けた流域から地球規模の統合的な研究や解析とそれに基づく管理や対策の実施を行うための基礎情報の提供を目的として開発をしました。GDBDの特徴は以下の3点です。第1に,地理的に整合性を持った6つのGISデータ(流域データ,河道位置データ,流量観測所データ,自然湖データ,人工湖データ,表面流向データ)から構成され,それらに地形や人口,土地利用/被覆など自然科学から社会科学にわたる幅広い情報が格納されている点,第2に,様々な精度検証を行い,高精度であることが検証されている点,第3に,ArcGIS Geodatabaseフォーマットを用いて開発され,ArcGISだけでなMicrosoft Accessを用いてデータの閲覧,編集が可能であり,水問題に関わる多くの利害関係者,政策決定者,研究者がデータベースを利用できる点であります。今後も今回の受賞を励みに,水問題の解決に向けた更なる研究を進めて行きたいと思います。
GDBDは下記のURLよりダウンロードできます。
http://www-cger.nies.go.jp/cger-j/db/enterprise/gdbd/gdbd_index_j.html
受賞者氏名:日置 正(京都府保健環境研究所),中西貞博(同),向井人史,村野健太郎
受賞年月日:平成19年8月10日
賞の名称:日本エアロゾル学会論文賞(日本エアロゾル学会)
受賞対象:優れた論文に対して「日本海沿岸で粒径別連続採取したエアロゾル中の水可溶性イオン種および微量金属成分による長 距離輸送現象の解析-2002年春の黄砂イベントを中心に-」
受賞者からひとこと:
近年,エアロゾル中の成分分析に関する研究はあまり華やかさが見られなくなっていますが,まだすべてが解明されているわけではなく,筆者たちは,粒径を分けて高頻度でサンプリグできる新しいサンプラーを用いて,長距離輸送されるエアロゾルの細かい成分分析を行いました。場所として京都の日本海側に位置する弥栄において,12時間ごとのサンプリングを黄砂時期などを含めて行い,これまで通常測定されてこなかった金属類(Bi,Tl,Th,U)などもターゲットにしつつ,分析を試みました。このような,時間分解能の高い粒径ごとの金属分析は,かなり労力を要するものであり,これまでリモートサイトでのデータはほとんどありません。本論文では,輸送される人為起源物質(例えば硫酸イオンや鉛濃度)の輸送経路の特徴や黄砂との対応を示したほか,長距離輸送の指標となりそうな元素比をいくつか提案しました(Bi/Pb,Cd/Pb,Th/Uなど)。アジアにおいては,中国,日本などの大きなエアロゾル発生源による寄与の他に,桜島など火山による発生源も存在すると考えられ,硫酸イオンのほかBiなどが火山の指標になるのではないかと推定しました。また,Th/U比は,土壌の地域性を表す指標になる可能性を示すことができました。
アジアでのエアロゾルの発生量やその特徴は有鉛ガソリンの禁止などの対策や一方では発展する経済事情によって,ここ10年で大きく変化してきています。それらの変化が長距離輸送されるエアロゾルにも現れてくるであろうことを今後さらに追いかけてゆく予定です。
目次
- 計算論的アプローチによる社会問題への取組み巻頭言
- 国際河川メコン河の環境影響評価手法の開発 −中核プロジェクト・流域生態系における環境影響評価手法の開発の概要紹介−【シリーズ重点研究プログラム : 「アジア自然共生研究プログラム」から】
- 地球の変化に敏感に反応する日本海の姿【研究ノート】
- マングローブと環境問題【環境問題基礎知識】
- 南極レポート(第3回:「昭和基地でのミッドウィンター」)【海外調査研究日誌】
- 『サマー・サイエンスキャンプ』実施報告【研究所行事紹介】
- 『ミニ博士』開催報告【研究所行事紹介】
- 新刊紹介
- 人事異動
- ツルボの花【木漏れ日便り】
- 編集後記
- 国立環境研究所ニュース26巻4号