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廃棄物系バイオマスを自動車燃料にする技術

【環境問題基礎知識】

倉持 秀敏

 近年,バイオマスという言葉をよく耳にします。生物学でバイオマスというと,ある範囲に生存する生物の量という意味で用いられますが,リサイクルの分野でいうバイオマスとは,エネルギーやマテリアルへの利用ができる「再生可能」な生物由来の有機性資源のことです。「再生可能」とは,石油や石炭のような化石燃料とバイオマスとは違うことを意味します。バイオマスを燃焼させるなどして,エネルギー利用を行った場合にも化石燃料と同様に二酸化炭素(CO2)が必ず発生しますが,そのCO2を吸収して植物が生長することにより,バイオマスが再生されるので,トータルで見ると大気中のCO2の量は増加しません。これは「カーボンニュートラル」といわれ,バイオマスを化石燃料の代わりに用いることによって,地球温暖化ガスの一つであるCO2の発生量が抑制されることが期待されています。

 2005年2月に京都議定書が発効され,それを受けて同年4月に京都議定書目標達成計画が閣議決定されました。この計画では,太陽光や風力による発電やバイオマスのエネルギー利用などを導入することで,約4,690万トンのCO2排出削減を見込んでいます。この目標達成への寄与と,廃棄物や未利用資源の有効利用という観点から,最近,家畜排せつ物,食品廃棄物,建設発生木材(木くず),製材工場残材,黒液(パルプ工場廃液),下水汚泥(下水処理で生じる泥状の物質)などの廃棄物系バイオマスのエネルギー利用に注目が集まっています。このような取り組みの中で,身の回りに近いものでは,廃棄物系バイオマスを自動車の燃料に使うという技術があります。

 農作物や廃棄物等のバイオマスから作られる自動車燃料は「輸送用バイオ燃料」や「輸送用エコ燃料」と呼ばれています。図に示すように,食品残さ,汚泥,廃食物油などの様々な廃棄物系バイオマスから,ガスから液体まで様々な自動車燃料を作るには,いくつかの製造方法があります。

 最も多様な原料を受け入れられる方法は,廃棄物系バイオマスを発酵させて生成したメタンを水蒸気で改質するか,もしくは熱分解によりガス化させて改質することによって,水素と一酸化炭素から成る合成ガスに転換し,得られた合成ガスをメタノールや炭化水素混合物であるフィッシャー・トロップシュ(FT)油やジメチルエーテル(DME)などの燃料へ変換する方法です。このうち,合成ガスを燃料化する技術はGTL(Gas to Liquids)もしくは原料までを含んでBTL(Biomass to Liquids)と呼ばれています。近年,石油系代替燃料を製造する技術としてGTLは大変注目されていますが,一般に普及しているガソリン車とディーゼル車に対しては,FT油だけが,主にディーゼル車に適用可能です。このGTLによるFT油製造はまだ開発段階です。

 現時点では,エタノールと脂肪酸メチルエステル(FAME)を製造する方法が実用段階にあります。エタノールは,主に,木材を硫酸で加水分解して得られる糖類や,サトウキビの製糖過程から排出される廃糖蜜を微生物によって変換(発酵)して製造します。生物由来のエタノールはバイオエタノールと呼ばれ,ガソリン車の燃料として利用できます。FAMEは一般的に廃食用油(脂肪酸トリグリセリド)にメタノールとアルカリ水酸化物を混合させて生ずるエステル交換反応により得られます。このFAMEは,バイオディーゼル燃料(BDF)と呼ばれ,ディーゼル車の燃料として利用できます。

廃棄物系バイオマスからの自動車燃料化技術のフロー図(クリックで拡大表示)
図 廃棄物系バイオマスからの自動車燃料化技術

 これらのエコ燃料は,温暖化対策として有効なだけではなく,生分解性が高く,自動車排ガス中の大気汚染物質も低減することができることから,環境負荷が少ないクリーンな燃料でもあります。輸送用エコ燃料の国内における利用は,バイオエタノールはまだわずかですが,BDFは京都市を中心に始まっており,年間利用量は約0.5万kL程度です。しかし,この量は廃食用油をすべて燃料化した場合に得られる供給可能量約35万kLのわずか1~2%程度にすぎません。ちなみに,バイオエタノールについての供給可能量は約120万kL程度です。

 輸送用エコ燃料に対する海外の情勢を簡単に紹介します。2004年のEUでは,BDFが約217万kL,米国ではエタノールが約1290万kL,BDFが約9万5千kL生産され,日本とは桁違いに利用されています。EUや米国では,主に農作物からバイオエタノールやBDFを製造しています。日本では,農作物が高価であることや廃棄物の有効利用の観点から,廃棄物や未利用資源を原料とすることを基本としています。しかし,広く普及させるには,廃棄物ゆえに生ずる製造妨害物質への対策,副生成物の有効利用,コスト削減などの技術課題や税制・規格・安定供給体制などの制度・利用面の課題があります。また,バイオエタノールについては,エタノールではなくそれを原料として合成されるエチル・ターシャリー・ブチル・エーテルを利用するという案もあり,利用形態が必ずしも定まっていません。

 バイオエタノールやBDFのような輸送用エコ燃料の導入は上述の達成目標計画において,2010年に原油換算で50万kLという高い目標が掲げられています。この目標を達成するために,海外からサトウキビ由来のエタノールやBDFの原料となるパーム油を輸入するという話もありますが,まずは国内で解決を目指すべきでしょう。国環研では,現中期計画の循環型社会研究プログラム(本巻2号参照)の中核PJ3「廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発」において,廃棄物系バイオマスから,発酵技術による水素およびメタンガスの製造,熱分解ガス化・改質による水素および合成ガスの製造,さらにバイオディーゼルなどの燃料の製造に関して高効率化および実用化の研究・開発を行うとともに,それらを地域社会へ適用させるための技術シス テム設計に関する研究も行っています。これらの技術開発およびシステム設計の研究成果が国や地域の施策目標(廃棄物排出量の削減,CO2排出量の削減および代替エネルギー創出)の達成に最大限に寄与することを目指しています。

(くらもち ひでとし, 循環型社会・廃棄物研究センター)

執筆者プロフィール:

脱温暖化のため(本当は健康のため),自宅から自転車で通勤するもBDF原料(脂肪)は減る傾向になく,BDF原料をいかに利用するかも研究中。