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笹野 泰弘

 環境・エネルギー分野担当の参事官として併任出向していた総合科学技術会議事務局から研究所に戻って,半年余りになる。2年間の出向中は研究とはほとんど無縁の世界であったために,再び研究所に通勤するようになってしばらくの間は,久しぶりに観測データのプロットを眺めたり最新の論文に目を通したりすると,脳が少し活性化したような新鮮な気分になったものだ。

 ところで,総合科学技術会議は,1)内閣総理大臣の諮問に応じて科学技術の基本的な政策について調査審議すること,2)内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じて資源配分その他の重要事項について調査審議すること,また,3)大規模な研究開発について評価を行うことがその任務として課せられている。さらに第4の任務として,必要な場合には,前二者に関して諮問を待たずに内閣総理大臣等に対して意見を述べることができると,内閣府設置法には定められている。「諮問を待たずに」意見を述べることができるということは非常に重要なことである。ここでは,内閣府在勤中の仕事で思い出に残る我が国の地球観測戦略に関する意見具申について少し紹介したい。

 平成15年の6月下旬頃,文部科学省が第1回の地球観測サミット(平成15年7月,ワシントンD.C.)を前に,オールジャパン体制で地球観測国際戦略策定検討会を設置し我が国の国際戦略対応を検討するという話が聞こえてきた。しかし,「ちょっと待てよ,国際戦略作りはいいが国内戦略はどうなっているんだ」というと,まったく無いに等しいという。そのような状態で世界に打って出るとは,あまりにも足元が危ういではないか。審議官,政策統括官に相談をし,まずは我が国の地球観測の基本戦略を固めることが必要だ,それをやれるのは総合科学技術会議しかないということで,環境担当の薬師寺議員のご指示を仰いで,9月から本格的な調査検討と基本戦略作りに着手することとなった。まさに,諮問がなくとも必要に応じて自ら意見を述べることができるという機能を発揮しようということだ。短期間の審議での取りまとめではあったが,調査検討ワーキンググループ主査をお願いした市川惇信先生の明晰な分析,的確なご判断を得つつ,担当の参事官補佐らの頑張りで,ワーキンググループや分野別部会での審議,事務局内の調整,各省調整を経て翌年3月に中間とりまとめの段階まで到達した。これは平成16年の3月に本会議で決定,総理大臣始め関係各大臣に意見具申された「今後の地球観測に関する取り組みの基本について 中間取りまとめ」 (http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken040324_1.pdf )をもって日の目をみることになる。ポイントは,(1)利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築,(2)国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮,(3)アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の強化,の3つである。

 我が国の地球観測の基本戦略作りという非常に重要な仕事に対し,私の国立環境研究所における20数年の研究者としての経験と知識を全開させ,全力投球で取り組んだ。役人としての経験・知識はまったくないが,研究者として実際に地球観測に携わってきたものが,裏方の陣頭指揮を執ることができたということは非常に有意義なことであったと思う。また,ワーキンググループや分野別部会での検討作業には,我が国の地球観測関係の100人以上にも上る研究者の協力が得られ,総合科学技術会議と現場研究者の橋渡しの役目を果たすこともできた。本当は自分の手で最後までやり遂げたかったという思いの残る,具体的な重点化の方針や分野別の推進戦略を含めた最終とりまとめ作業は,後任者に引き継いだ。この原稿が印刷される頃には,「地球観測の推進戦略」として意見具申されていることだろう。

 参事官の仕事はこればかりではないが,この一連の仕事は役人稼業のおもしろさの一端を味わうに十分であった。あとは,こうして策定された我が国の「地球観測の推進戦略」が今後の地球観測の具体的な施策の中で有効に活かされていくことを望むばかりである。

(ささの やすひろ,大気圏環境研究領域長)

執筆者プロフィール:

大気圏環境研究領域長。東京に住まいを移しての2年間の内閣府勤務は,役所・役人の生態観察として非常に興味深いものがあった。一方で休眠状態を余儀なくされていた趣味の写真撮影を,つくばに戻って再開したところである。