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循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

シリーズ重点特別研究プロジェクト:「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究」から

森口 祐一

 「政策対応型調査研究」は,環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案及び実施に必要な調査・研究であり,重点特別研究プロジェクトとともに,予算が重点的に配分される大型プロジェクトです。平成13年4月に発足した循環型社会形成推進・廃棄物研究センターが中心となって担う政策対応型調査研究は,「循環支援評価手法」「循環処理処分技術」「総合リスク制御手法」「液状廃棄物」の4つのサブテーマから構成されています(参照:国立環境研究所ニュースVol.20 No.1)が,今回は,その第一の柱「循環支援評価手法」の研究概要について紹介します。

 大量生産・大量消費・大量廃棄型といわれる昨今の経済・社会から,循環型の経済・社会へ向けて舵が切られはじめたものの,どの方角を目指し,どこにたどりつくべきかを示す地図や羅針盤はまだできあがっていません。リサイクルは本当に環境によいのか,といった疑問が寄せられる中,この研究課題は廃棄物・リサイクル問題に関するさまざまな情報を集めて分析することによって,循環型社会への針路を見定めていくことを目指すものです。本課題はさらに4つの内容から構成されています。

 第1は,大量かつ多種多様なモノの生産・消費・廃棄の実態を正しく理解するための研究です。ここでは,モノの流れを体系的に把握する「マテリアルフロー分析」と呼ばれる手法を主に適用します。「質量保存の法則(物質不滅の法則)」にのっとって,モノはなくなることはなく,生産プロセス,工場,都市,国など,どのような分析境界をとっても,モノの「入り」と「出」と「蓄積」との間には量的な釣り合いが存在します。こうした物量のバランスと,経済部門間の取り引きの金銭面での「出入り」のバランスを表現する投入産出表(産業連関表)とを組み合わせることで,経済活動を巡るモノの流れの現状と問題点を俯瞰的に把握することができます。とくに,どれだけの家庭ごみや産業廃棄物がどのように処理・処分されているか,リサイクル可能な資源がどれだけ発生し,どのように形をかえて利用されるかなど,これまで情報が不十分だった経済活動の「静脈」部分に焦点をあてて情報基盤を整備し,技術進歩や生産・消費構造の変化がモノの流れにどのように影響するかといった応用分析への利用を目指しています。

 第2は,政府,企業,市民など社会を構成する主体が,各々の立場からどのような行動に取り組めば,循環型社会の形成にどれだけ貢献できるのかを明らかにするための研究です。リユース(再使用),マテリアルリサイクル(再生利用),サーマルリサイクル(熱回収)など,さまざまな「循環」の技術や仕組みの得失を比較するため,資源の採取から製品の生産,流通,使用,その廃棄に至るまでの一生をとらえて環境への影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の手法の開発と実証分析への適用を行っています。また,環境面での効果の評価だけでなく,消費者をはじめとする関係主体の意識や行動にも踏み込んで,真に効果的な「循環」の技術や仕組みを明らかにすることを目指します。

 第3は,地域ごとの特徴を生かした効果的な「循環」の仕組みづくりについての研究です。資源の循環的利用を進めるには,地域の産業構造や,循環資源の発生・流通に関連する施設の立地状況,リサイクル材の製造技術,リサイクル材の需要といった地域特性の正確な理解が不可欠です。本研究では,こうした情報を統合して,循環資源の発生,流通,利用の状況が地域特性に適合しているかどうかを診断し,望ましい循環システムの実現を支援するための情報システムを,地方自治体などの関係者と協力しながら構築します。

 第4は,リサイクルされた製品の安全性を確保するための研究です。リサイクル原料に含まれていた物質が,生産された製品を使用する段階において,環境や人の健康へ悪影響を及ぼすことがないよう,安全性の確認が必要です。本研究では,家庭用品や建設資材として利用した場合の室内環境汚染や地下水汚染を例に,試験法の開発・標準化に関する実験研究と,リサイクル過程における環境安全管理制度の設計に資する政策科学的研究に取り組んでいます。

研究概念図
図 循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究〈研究概念図〉

 これらの研究のうち,第1,第2のテーマについては循環型社会形成システム研究室が主に担当し,第3,第4のテーマについては循環技術システム研究開発室や最終処分技術研究開発室など,センター内の複数の研究室が協力して実施しています。これら4つの研究内容は,下記の研究概念図に示すように,互いに連携しあうとともに,マクロな対象(国全体)とミクロな対象(地域・製品レベル)とのバランス,分析手法開発のための基礎的研究と政策への応用のための実証研究とのバランスを考慮して計画されています。

 一方,これらに加え,リモートセンシング,地理情報システムなどの情報技術を活用した研究についても,センター内の複数の研究室が協力しながら取り組んでいます。「情報」は現代社会における欠かせない基盤であり,的確な情報の収集と分析能力の向上を通じて,循環型社会の形成に取り組んでいくことが重要な課題と考えています。

(もりぐち ゆういち,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター,循環型社会形成システム研究室長)

執筆者プロフィール

現在,3つのユニットの室長職を兼任しており,以前にも増して,専門は何?という質問への答に窮することが多い。先日オランダで開かれたある学際的な国際学会のパネリストとして,「専門はpowerpoint」というジョークを飛ばしたら,かなりうけた。専門外の人にもわかりやすくプレゼンテーションすることが重要,という本音も理解してもらえただろうか。