新刊紹介
国立環境研究所研究報告 R-167-2001(平成13年9月発行)
「十和田湖の生態系管理に向けて II」
本報告書は,1999年に出版した国立環境研究所研究報告第146号「十和田湖の生態系管理に向けて」の続編である。前号では,近年の十和田湖で起きた透明度の低下とヒメマス魚の不振の原因を解明し,最適な魚の資源管理手法を示した。本報告書では,十和田湖の栄養塩収支,動植物プランクトンの生産量,水生植物相,沿岸域の底生動物の分布とそれを決定する要因,ヨコエビの繁殖生態,深底部の生物相,食物連鎖を通じて起こる沖と沿岸域の連関等の研究を報告した。第146号と合わせた一連の研究により,湖沼生態系を適正に管理するために必要な「生態系を特徴づけるような固有で重要な生態系要素ならびにそれらの関係や相互作用」が明確にされた。今後の湖沼保全の実践に是非役立ててほしい。
国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR-40-2001(平成13年9月発行)
「廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究」(平成10~12年度)
平成10年度から12年度の3年間にわたって実施した特別研究の成果を取りまとめたものである。廃棄物の埋立処分における化学物質を対象とした研究で,内容は大きく以下の3つに分かれている。
(1)埋め立てられる廃棄物中に含まれている化学物質を迅速に分析する方法の開発を行った。廃棄物の少量を密閉容器に入れ,加熱して気化してくる化学物質をガスクロマトグラフ質量分析計で測定することにより,1時間程度で分析することができるようになった。
(2)埋立地から水系に溶出してくる化学物質のうち,ホウ素,有機リン酸エステル類,フェノール類などを研究対象とした。ホウ素には5種類の化学形態があるが,酸性の水に溶けやすい化学形態のホウ素含有量が溶出濃度を決めることがわかった。有機リン酸エステル類とフェノール類はゆっくりと長時間にわたって水系に溶出してくることがわかった。
(3)埋立地から出てくる汚水の遺伝毒性と内分泌撹乱作用を調べる簡易スクリーニング法を作り上げ,実際の試料でテストする実験を行った。化学物質との相関性など未解明な部分も多く残っているが,簡便なスクリーニング法として有用なことがわかった。
国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR-41-2001(平成13年9月発行)
「環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究」(平成10~12年度)
本報告書は,平成10~12年度に実施された特別研究課題「環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究」の成果報告である。
人類の生活の向上に計り知れない貢献をしてきた化学物質は,いま広範に環境を汚染しており,様々な環境媒体を介して野生生物や我々人類に対し悪影響を及ぼす可能性が指摘され,負の面がクローズアップされている。環境を汚染する化学物質のリスクを評価するためには,化学物質による汚染の実態を正確に把握することは必須であるが,10万種類にのぼるといわれる化学物質が環境中に存在しているような状況のもと,個々の物質を化学分析することによる評価では,到底すべてをカバーすることは不可能である。
本特別研究では,化学分析に替わる方法として,生物学的な反応を利用した評価試験(バイオアッセイ)を用いて,化学物質に由来する有害性・リスクを総合的に評価する手法の開発と,それを用いて環境中に存在する化学物質を総体として総括的に評価することを試みている。本特別研究がきっかけとなって,暫定的ではあっても生物学的な有害性総合評価指標を用いた信頼性,再現性のある環境モニタリングデータの蓄積が始まれば,そう遠くない将来これらのデータが,例えば水質に関して言えばBOD,CODと並ぶような指標値として規制を含む様々な分野で利用されるようになることが期待される。
国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR-42-2001(平成13年9月発行)
「都市域におけるVOCの動態解明と大気質に及ぼす影響評価に関する研究」(平成10~12年度)
環境大気に存在するVOC(volatile organic compounds:揮発性有機化合物)は光化学オゾンや二次生成粒子状物質などの原因となるばかりではなく,それ自身が人体に有害なものもある。本報告書は平成10年度から3年間にわたって実施した特別研究「都市域におけるVOCの動態解明と大気質に及ぼす影響評価に関する研究」の研究成果をとりまとめたものである。
まず,これまで体系的な調査・研究が遅れていたVOCの発生源に関しての検討を行い,特に発生寄与の大きい塗料・溶剤関連の発生量の精査を行うとともに,自動車関連の発生量を燃料供給系からの蒸発発生も含めて把握した。またトンネル調査結果を基に実走行状態での発生状況を把握した。これとともに,広域・都市スケールにおけるVOCの環境動態をフィールド観測,数値モデル,風洞実験により解析・評価している。
本研究によりVOC発生量の推計方法や主要発生源の実態ならびに環境影響の基本的な部分を明らかにすることができたが,全体像の解明には今後更なる研究の継続が必要である。本研究課題は今後,国立環境研究所重点特別研究「大気中微小粒子状物質(PM2.5)・デイーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価」の中で継続的に実施されることになっている
国立環境研究所特別研究報告(開発途上国環境技術共同研究) SR-43-2001(平成13年9月発行)
「大気エアロゾルの計測手法とその環境影響評価手法に関する研究」(平成8~12年度)
本報告書は,中国北京における大気エアロゾルの長期モニタリング結果をまとめたものである。1990年代半ばの北京は,世界の主要都市の中でも大気エアロゾル汚染の激しい都市として有名であった。その大気エロゾルの化学組成,粒径分布などの基本的データをもとに,土壌起源系エアロゾルの寄与率を推定した。さらに,世界初の黄砂エアロゾル標準物質を作成し,それを実験材料にして土壌起源系エアロゾルのふるまいに関する検証実験を行った。その結果,土壌起源系エアロゾルは,酸性ガスとの反応だけでなく,アンモニウム塩粒子と反応することも明らかにした。また,バイオアッセイ試験法による都市大気エアロゾルの新評価手法の検討も行った。
国立環境研究所特別研究報告(重点共同研究) SR-44-2001(平成13年9月発行)
「流域環境管理に関する国際共同研究」(平成8~12年度)
長江流域の社会経済活動の急激な増加は,森林伐採,土地利用変化,都市への人口集中をもたらし,流域内で生産される汚濁負荷を著しく増大させている。このため水質汚濁,土壌劣化,土壌流失,洪水,等流域の持続的発展を妨げる要因が顕在化しつつある。また中国の社会経済的発展を支えるための新たな水資源とエネルギー開発のため三峡ダム建設,長江から黄河への大規模導水(南水北調)が進行中であり長江の流域水環境の現状把握とその将来予測は緊急的な課題となっている。このため中国科学院地理科学与資源研究所と中国水利部長江水利委員会との共同研究により長江の水質・生態系調査,河川生態系構造と物質循環の解析,衛星を用いたモニタリング手法開発を行った。さらに長江流域における水循環・土砂動態・物質循環を詳細に記述する流域環境管理モデルの開発を行い,観測データによる検証を行った。本研究の成果は今後の長江流域における持続可能な流域管理のための環境保全・管理手法の基礎となるものである。
国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」No.2(平成13年10月発行)
「環境儀」第2号では,これまで開発を進めてきた「アジア太平洋地域における温暖化統合評価モデル(AIM)」を取り上げた。AIMは,Asian-Pacific Integrated Modelの略で,アジアの途上国等と共同で開発している統合評価モデルである。温室効果ガスの排出量を予測し,それが気候をどのくらい変化させ,その結果,農業,健康などにどのような影響を及ぼすかを一連の流れとして予測する。アジア太平洋地域において地球温暖化による大きな被害が予想されているが,一方で,この地域からの温室効果ガスの排出量が急激に伸びており,その対策が緊急の課題となっている。AIMでは,アジア太平洋地域での対策の可能性,温暖化による被害,対策の経済影響などを予測している。「環境儀」は,研究担当者へのインタビュー,AIMを用いた最新の研究成果の紹介,統合評価モデルをめぐる動向,AIM研究のあゆみのほか,地球温暖化を解説するコラムなどで構成されている。