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国立環境研究所年報 平成11年度 A- - 25- 2000(平成12年8月発行)

 本書は,国立環境研究所の平成11年度の活動状況を総括的に紹介することを目的に,研究部門における調査研究,環境情報センター,地球環境研究センター及び環境研修センターにおける業務,研究施設・設備の状況,成果発表一覧,さらに各種資料等を網羅的に記載したものである。研究活動については,経常研究116課題,環境研究総合推進費による研究として地球環境研究13課題と未来環境創造型基礎研究2課題の計15課題,特別研究7課題,開発途上国環境技術共同研究2課題,重点共同研究2課題,革新的環境監視計測技術先導研究1課題,環境修復技術開発研究1課題,内分泌撹乱化学物質総合対策研究4課題,地球環境モニタリングに関する研究2課題,国立機関公害防止等試験研究2課題,環境基本計画推進調整費による研究1課題,国立機関原子力試験研究費による研究5課題,科学技術振興調整費による研究として総合研究6課題,生活・社会基盤研究5課題,流動促進研究制度1課題,知的基盤推進制度1課題,国際研究交流促進1課題,国際共同研究7課題,重点基礎研究8課題,重点研究支援協力員制度2課題の計31課題,海洋開発および地球科学技術調査研究促進費による研究2課題,文部省・科学研究費補助金による研究58課題,地方公共団体公害研究機関との共同研究30課題,特殊法人などによる研究公募型研究16課題の合計295課題の研究成果が記載されている。

(編集委員会委員長 笹野泰弘)

国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR- 30- 2000
「輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究」 (平成8~10年度)(平成12年3月発行)

 「環境への負荷の低減」は環境政策の根幹であり,製品や技術システムについて,原料採取から生産,使用,廃棄に至る過程における環境への影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の実践のためにも,環境への負荷を体系的に把握・定量化し,その影響を総合的に評価する手法の確立が急務である。このため本研究では,LCA 手法のうち研究の進展が待たれていたインパクトアセスメント(環境影響評価)手法に取り組み,評価プロセスへの多様な主体の参加を交えた環境影響の総合評価手法や,暴露評価の考え方を取り入れた大気環境負荷の影響評価モデルなどを提案した。また,今日の社会を特徴づける「人やモノの流れ」を支える輸送システムおよび循環システムを対象としたLCA の事例研究に取り組み,自動車や路面電車を対象とした大気環境への負荷のインベントリ分析,自動車バンパのリサイクル効果のインベントリ分析,飲料容器のリサイクルによる効果の総合評価などの結果を報告している。

(社会環境システム部 森口祐一)

国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR- 31- 2000
「微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究」(平成8~10年度)(平成12年3月発行)

 全国各地の土壌・地下水中から揮発性有機塩素化合物並びに重金属等が検出され大きな問題となっている。新しい技術である微生物機能を活用した汚染環境を修復するバイオレメディエーション技術の効果と安全性に関し検討を加えた。まず,全国各地の土壌より,浄化微生物の探索・分離を試み,高濃度のトリクロロエチレン及びトリクロロエタン分解菌を分離するとともに,高濃度の水銀化合物を還元し水中より水銀を除去できる微生物を創生した。次いでこれら微生物の浄化能を評価するとともに環境中での迅速・高感度検出法を開発した。さらに自然環境を模擬したフラスコ・カラム土壌系や土壌シミュレーター等を用いて微生物の持つ浄化機能の定量化試験方法及びリスク評価方法を開発した。バイオレメディエーション技術は,室内実験では大変有効であるが,この機能をいかに汚染現場で適用するがが今後の課題であることが示された。

(地域環境研究グループ 矢木修身)

国立環境研究所特別研究報告(特別研究)SR- 32- 2000
「海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究」(平成8~10年度)(平成12年3月発行)

 干潟や藻場を含む浅海域は,水産資源にとって重要なばかりでなく,自然環境保全上その役割の重要性が認識されつつある。本報告書では,現場調査・室内実験等を基に,浅海域の機能について研究した成果をまとめた。浅海域の一つの例として,東京湾奥にある三番瀬を調査対象とし,水質調査や底生生物の存在量を調査するとともに,その沖合の湾央部と比較した。湾央部では,夏期に底層が貧酸素状態になり底生生物量が非常に少ないが,三番瀬では十分な溶存酸素があり,二枚貝など多くの底生生物が存在した。また,瀬戸内海家島での現場調査・実験では,植物プランクトンから始まる食物連鎖に加え,従属栄養性渦ベン毛藻類による植物プランクトンの捕食,尾虫類によるバクテリアの摂食などが重要な役割を果たすことを明らかにした。三番瀬では,底生生物として二枚貝が卓越したことから,三番瀬における二枚貝の水平分布を調査し,また,二枚貝,特にシオフキガイの海水ろ過速度等を室内実験で求めた。得られた値を用いて,三番瀬では,シオフキガイ,アサリ,バカガイ3種で一日当たり0.44m の高さの水柱をろ過すると推算され,二枚貝による水質浄化の大きいことが示された。

(地域環境研究グループ 木幡邦男)

国立環境研究所特別研究報告(開発途上国環境技術共同研究)SR- 33- 2000 「石炭燃焼に伴う大気汚染による健康影響と疾病予防に関する研究」(石炭燃焼に伴う屋内フッ素汚染による健康影響と予防医学的対応に関する研究)(平成6~10年度)(平成12年3月発行)

 中国においては石炭使用に伴う環境汚染が広がりつつあるが,フッ素濃度の高い石炭使用に起因するフッ素症が顕在化している地域がある。中国のフッ素汚染は,高い濃度のフッ素水を飲料している地域と,フッ素含量の高い石炭を使用している地域で起こっている。石炭燃焼に由来するフッ素汚染は,14の省で発生し,1817万人が歯牙フッ素症(斑状歯),146万人が骨フッ素症に罹患していると報告されている。石炭燃焼により発生するフッ素は,屋内の貯蔵庫にある食品に吸着し,住民の過剰なフッ素摂取を引き起こしている。フッ素は骨の再構築に影響し,骨硬化を伴う骨フッ素症を発症する一方,歯のエナメル質形成不全をきたし,歯牙フッ素症を発症しており,早急な対策を必要としている。本研究により石炭燃焼によるフッ素汚染の実態と健康障害が国際的にも明らかになり,現在中国においては予防対策が真剣に取り組まれている。将来フッ素汚染地区における暴露低減化対策の進展により,フッ素症抑制が実現できるものと期待される。

(地域環境研究グループ 安藤 満)

国立環境研究所特別研究報告(開発途上国環境技術共同研究)SR- 34- 2000
「自然利用強化型適正水質改善技術の共同開発に関する研究」(平成6~10年度)(平成12年3月発行)

 タイ王国において富栄養化対策は発生源対策,直接浄化対策ともに著しく遅れている現状を踏まえ,その対策技術の確立を図り,環境衛生を向上させる上で必要な研究を実施した。すなわち,1)タイ王国の水域の水質に関する研究2)予備的研究としてのミクロキスチン現存量に関する調査3)水処理プロセスにおける水質改善効果の実態調査に関する研究4)直接浄化対策としてのエコエンジニアリングを活用した水質浄化に関する研究5)熱帯地域における生物活性と処理の高度化に関する研究がタイ環境研究研修センター及びアジア工科大学と共同で行い,熱帯地域における水質改善の手法の方向性を明らかとした。

(地域環境研究グループ 稲森悠平)

国立環境研究所研究報告 R- - 156- 2000
「通勤形態も考慮にいれた居住と勤務の環境に関する意識の解析」(平成12年11月発行)

 大都市圏の多くの長距離通勤者にとって,その住宅選択は先立つものの話になる。その住まいの環境を考えるときに,まわりの保健性や快適性や利便性だけを考えていればいいのだろうか。こういう観点から,東京の丸の内のある金融機関の従業員に対してアンケート調査を行った。その結果,早くから出社している者が多く,その最大の理由が交通機関の混雑をさけることであった。また,自分の家を持つようになると通勤時間が長くなることがうかがえ,通勤時間が長い者には退社時間の遅いものが少なくなる。住み替えを入社後にした者,具体的に計画している者が住宅選択の際に考慮する最大のことは,家の値段,ついで通勤時間であった。いわゆる環境指標だけでは,住居の選択は決まらないのだ。調査では,職場・通勤途上・自宅での迷惑・不快・気になる音についても訊いたが,それは音のイメージによって決まり,年齢層によってかなり差のでる音種もあることがわかった。

(社会環境システム部 大井 紘)

国立環境研究所研究報告 R- - 157- 2000
「平成11年度ILAS プロジェクト報告」(平成12年10月発行)

 改良型大気周縁赤外分光計ILAS は,高緯度地域成層圏のオゾン層を監視・研究するために環境庁が開発した衛星搭載大気センサーである。ILAS の搭載衛星ADEOS は,1996年8月に宇宙開発事業団(NASDA )のH-II ロケットにより種子島宇宙センターから打ち上げられ,1997年6月30日に衛星の電源系統の異常により運用を停止した。しかし,この間ILAS から大量のデータが取得され,当所において処理されたオゾン濃度分布などのプロダクトが,国内外の研究者に提供されている。これに平行してデータ質の評価,各種検証データによる検証解析が進められ,それらの検討結果に基づく処理アルゴリズムの改訂とデータの再処理が継続して行われている。本報告書は,主として平成11年度に行った改訂・再処理に関連する,ILAS 観測データおよび検証実験データの解析,及び検証・比較の結果,ILAS データ気候値,プロジェクト関連成果出版リスト等について,利用者へ基礎情報を提供することを目的として取りまとめたものである。

(大気圏環境部 笹野泰弘)