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重金属に関連した毒性学研究の今日の課題(Comtemporary Issues in Heavy-Metal Related Toxicology)

国際シンポジウム開催報告

青木 康展

 去る4月4,5日の両日にわたり,国外から4名,国内から5名の講演者を招き標記の国際シンポジウムを開催した。水俣病,イタイイタイ病をはじめとした,重金属汚染がもたらした重大な健康被害は,わが国における公害研究の原点のひとつである。その実体を明らかにし解決策を探る研究が大いに進められ,結果として我が国の重金属毒性学のレベルは国際的にみても高いものとなった。これまでの研究を通覧し,これからの重金属毒性学の研究の方向を探ることが本シンポジウムの目的であった。

 講演の内容を紹介すると,ウメオ大学(スウェーデン)の G.ノールドバーグ氏は,労働現場および環境からのカドミウムの暴露についてレビューし,人における暴露許容量の議論をした。ブレシア大学(イタリア)の L.アレッシオ氏は,重金属の複合暴露についてレビューをした。環境からの化学物質はほとんどの場合,複合暴露であり,これからの健康影響研究の方向を考える上で示唆を与えるものであった。ニューヨーク大(米国)の M.コスタ氏はクロム暴露のバイオマーカー及びニッケルの発がん機構についての研究を紹介した。講演の中でバイオマーカーを 1)暴露 2)影響 3)感受性の3種類に整理していたが,バイオマーカーの研究をすすめる上で有効な分類と思われた。また,カロリンスカ研究所(スウェーデン)の M.ノールドバーグ氏は半導体や超伝導体に用いられる金属の毒性研究をレビューした。これらの金属は将来使用量が増えることが予想され,今後の研究課題として注目された。

 国内からは,井村伸正氏(北里大)がメチル水銀の毒性発現機構の分子メカニズムについて,鈴木和夫氏(千葉大)が銅異常代謝時の毒性発現におけるメタロチオネインの役割について,青島恵子氏(富山医薬大)がカドミウム汚染地域住民の健康状態について,瀬子義幸氏(山梨県環境研)がセレンの毒性発現機構について,赤木洋勝氏(水俣病研究センター)がアマゾン川流域の水銀汚染についての最近の研究成果を紹介した。招待講演者ばかりでなく,本研究所の研究員もそれぞれ自らの研究を紹介した。

 前述のようにシンポジウムの内容はバラエティーに富み,その研究の対象は分子レベルの生体影響からはじまり,臓器,個体のレベルと多岐にわたった。さらに,話題は,環境中の金属化合物の動態の研究にまで及び,毒性学が取り組むべき課題の広範さと,研究者として持つべき知識の多様性を改めて痛感した。年度始めの忙しい時期にもかかわらず,両日とも50名以上の出席者を得て,極めて活発な討論が行われたシンポジウムであった。本シンポジウムの内容は Environmental Science 誌に掲載される予定である。

(あおき やすのぶ, 環境健康部病態機構研究室長)
(連絡先)〒305 茨城県つくば市小野川16の2
国立環境研究所 環境健康部
Tel:0298−50−2390
e−mail:ybaoki@nies.go.jp