ここはアメリカ?~標高1マイルの研究学園都市ボールダー~
海外からのたより
今村 隆史
私は現在,米国研究評議会(NRC)の研究員として,コロラド州ボールダーにある米国海洋大気局(NOAA)の高層大気研究所(Aeronomy Laboratory)に滞在しています。ボールダーは世界有数の発着数を誇るデンバー新国際空港から北西へ約60km,ロッキー山脈の東の裾野に位置する面積59km2,人口10万人弱の小さな都市です。大学や研究所が街の中心部を占め,高等教育を受けた人口の比率の高いボールダーは,つくばと同様,研究学園都市としての色彩の強い町です。学園都市としてのボールダーの歴史はつくばより古く,100年を超えるものがあり,また町の活気や人々の町に対する愛着でもつくばを凌ぐものがあるように感じられます。
この研究所には以前国立環境研究所から坂東博さん(現・大阪府立大学)や林田佐智子さん(現・奈良女子大学)が滞在されたことがあります。研究所には全部で8つのグループがあり,コロラド大学との共同研究機構のシステムも存在しています。私の所属している大気化学反応グループには学生,博士研究員(いわゆるポスドク),正規職員がほぼ同じ比率でいて,総勢20名程です。当然の事ながら博士研究員の入れ替わりは早く,昨年10月以来半年間に私を含め4人が新たに加わり,4人が他へ移りました。
研究者間の交流や共同研究は,基本的には各個人がいかに望んでいるかに依りますが,同じ建物にある国立標準技術研究所(NIST)をはじめ,同じボールダー市内にあるコロラド大学や米国大気研究センター(NCAR)の研究者との共同研究やセミナー等への相互参加を通して比較的盛んに行われているように思われます。
研究所を取り巻く環境は議会等でのNOAAやNISTの所属する商務省に対する縮小・解体の主張や政府財政均衡との関連などで必ずしも良いものとは思えません。ただ,どの程度深刻なものかは残念ながらわかりません。研究所では,予算取りの書類作りに取られる時間は想像以上に少ないですが,これはこの研究所の特殊性と思われます。しかし当然の事ながら研究費自体は決して潤沢とは言えません。一方,大学では予算取りのために膨大な資料作りが行われており,特により活発に研究室を運営している教授達にとっては,その分,作成しなければならない書類の量も増えるわけです。その一方で,私の周辺の研究室のグループリーダーや教授達は,極力時間を作っては研究員や学生との議論を行い,また実験室に来ては装置に関して意見したり,手を出したりしています。
研究費の点での日米の比較はシステムの違いや研究機関による差も大きく容易ではありませんが、研究者層の点では明らかに日本を凌ぐものがあるように思われます。これは,基本的にはいわゆるポスドク制度をはじめとした競争原理に基づく多くの淘汰のもとに成り立っているためであると思われます。若手研究者は状況いかんではポスドクを続けることさえ不可能であり,ノーベル賞受賞者と言えども研究費をほとんど取ることができないような状況も現実にあります。しかしながら,皆日本のように妙にあくせくせずおおらかにやっているのが印象的です。