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植弘 崇嗣

 平成7年4月に,国立環境研究所に国際室が発足しました。私たちの研究所は5年前,平成2年の7月にそれまでの「国立公害研究所」から現在の「国立環境研究所」に研究所の名称を変えるとともに,その研究内容も,従来の国内のいわゆる公害問題のみならず地球規模の視野を持った環境問題を扱うようになりました。これに伴い,日本国外とのつき合い,例えば国際共同研究,外国を調査場所とするフィールド研究,あるいは技術協力等を行うため,外国に出る機会,外国人に来日してもらう機会が急速に増加しています。このような事態に対応するため,国立環境研究所に外国案件をまとめて取り扱う部署として,国際室が作られました。

 現在,国際室の構成員は専任の職員としては,国際共同研究官と国際研究協力官の2名だけの小さな所帯です。しかし,副所長が国際室長,主任研究企画官が室長代理として全面的なバックアップ体制を整える外,多くの研究職,行政職の職員及び非常勤職員の応援を得て活動を始めています。

 さて,国際室とは何を行うところでしょうか?
 
 私は国際室の発足の1カ月前,平成7年3月に新設の国際共同研究官を拝命しました。研究所の組織細則には,国際室及び国際共同研究官の職務が定められていますが,これらを基に,具体的な行動計画を作成し,実施する必要がある訳です。国際研究協力官は以前からある席なので,従前からの業務・案件が充分に(過大に)あるのですが...

 2年ほど前になりますが,「国立環境研究所で研究を推進するに当たって,どのような機能・組織が不足しているか,拡充すべきか?」とのアンケート調査を行ったことがあります。その時,研究の国際化・分野の拡大化に対応して,種々の「研究支援体制の強化」が多くの所員から要望されていました。国際室の機能としてもこの支援体制の強化は重要であると考え,従来に増した支援が行えるように,室長を始め企画・総務・会計等関係部門の協力を仰ぎつつ,期待に答えられる行動計画を作成したいと思っています。その端緒としては,英語を話せる非常勤職員を国際室に採用したことが挙げられます。まだ年若い女性なので,今後経験を加えて有力な戦力になってくれることと期待しています。

 一方,前記のアンケートでは必ずしも多くの研究者の賛同が得られなかった「研究企画部門の強化」に関する国際室の役割についても行動計画を作らねばならないと考えています。研究の方向付けには,金や人という資源を以って行うこともありますが,今後,重要になるのは情報です。それも,独占的に隠し持つのではなくて,重要で貴重な情報を研究者集団に流通させることにあると思います。

 国際的には,これまで日本は,情報特に研究情報に関しては輸入超過であると言われてきました。国立環境研究所からは,良質の情報を輸出超過にできるような体制を整えたいと思います。このために,一部研究支援的な性格も帯びますが,環境情報センター等の協力を得て外国に向けた情報発信を容易にする仕組みを造ろうとしています。その一環として,英語を母国語とする研究者に非常勤で国際室に来てもらえるようになりました。

 もう一つ重要な情報として,「周りの人間が何をしているのか?」があります。自らの研究分野を深く追求する余り,隣の研究者が何をしているのかに興味がなくなり,あるいは解らなくなり,議論をすることさえなくなるというのは,「自律分散型巨大科学」である環境科学を発展させる上で有効とは思えません。この問題は,国際的な案件ばかりではありませんが,国際室が係わる案件で問題解決の卑近なものとして,国際会議等に出席した所員に,興味深かった研究課題・人物・施設等につき簡単な報告をしてもらい,その種の情報を他の研究者が容易に入手できる仕組みを作りたいと思います。それが,私たちの研究所の特質である広い(広すぎる?)研究分野に携わる誰かの目にとまれば,新しい研究課題の種子になるかも知れません。

 国際室は,自分自身で研究を実施する組織ではありません。国立環境研究所の研究が円滑に推進されること,研究能力が増進されること,研究成果が国際的に評価されることに対して,わずかなりと貢献をすることが使命だと思います。国際共同研究官一人の思い入れかも知れませんが,国際室の仕事の本質は,所の研究者が何を研究しているのか,したいのか,さらに,何を考えているのかという情報を,強制という形をとらないで収集し,必要に応じて提供することです。

 国際室は,開かれた組織です。物理的に言っても,部屋のドアはいつも開いていて,内緒話ができないほどです。壁も筒抜けです。中にいる人間も天佑か,人と議論をすることを苦としないタイプが揃ったようです。所内の研究者のみならず,所内外からの訪問者のご来室をお待ちしています。

(うえひろ たかし,国際室国際共同研究官)