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溶存腐植物質と金属

研究ノート

今井 章雄

 腐植物質はすべての陸上及び水系環境に遍在し、生物活動に由来する、やや褐色の有機物質である。Achardが始めて土壌から腐植物質を抽出して以来、2世紀を経ている。しかし、未だにその構造の全貌は不明であり、アルカリに可溶で酸に不溶(フミン酸)、酸・アルカリともに可溶(フルボ酸)及び両者に不溶(ヒューミン)という実験的操作により定義されている。

 近年、腐植物質の研究として、水中に溶存する腐植物質が注目され始めた。その理由は以下の点にある。[1]腐植物質を含む飲料水原水を塩素処理するとトリハロメタンが生成する;[2]地下水中の腐植物質はテトラクロロエチレン等の溶解度を上昇させその移流・拡散を促進する;[3]湖水中の溶解性有機物の大部分は腐植物質からなり、微量金属及び有機汚染物質の毒性、生物による取り込み、地球化学的サイクルに大きな影響を与える;[4]古い廃棄物埋立地からの浸出水は多量の腐植物質を含むため、生物処理によって処理することが難しい。

 ここでは[3]に関連する研究、蛍光光度法による腐植物質の金属錯化定数及び容量の決定について紹介する。腐植物質は特有の蛍光を持ち、金属と錯化(結合)すると消光作用により蛍光が減少する。この蛍光減少を定量化して錯化定数と容量を求める。得られた錯化定数と容量を化学平衡プログラム(MINEQL)に組み込んで計算すれば、腐植物質の金属の存在形態に与える影響が理解できる。図は湖水中での銅の存在形態と腐植物質濃度の関係を示す。腐植物質濃度によりCu2+イオンの割合が大きく変化する。銅の毒性はCu2+イオンに因ると考えられるため、銅の毒性顕在化に腐植物質が大きく関与すると推察される。今後、腐植物質の金属の存在形態に及ぼす影響を詳しく研究してゆくつもりである。

図 腐植物質濃度

(いまい あきお、地域環境研究グループ水改善手法研究チーム)