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大気汚染の健康影響研究

研究をめぐって

 急成長する中国では、経済成長と環境問題を調和させる循環型社会の構築が模索されています。なかでもとくに環境問題の解決には、世界の工業先進国が取り組んできた多様な環境研究の成果が活かされています。

 そうした研究の知見は中国のみならず、21世紀の地球に共存する人類の生命と財産を守り、発展させる「生存のインフラストラクチャー」として注目を集めています。

世界では

 大気汚染が健康や生命に深刻な影響を与えることを示した事件に1952年12月の「ロンドンスモッグ」があります。ロンドンでは家庭の暖炉の燃料として石炭が用いられており、各住宅の煙突からのばい煙によるスモッグが激しく、そのときは特に酷いものでした。厳寒による暖房用石炭燃焼の増加に逆転層による大気の安定が重なって大気汚染はピークに達し、その数日間だけでロンドン市内の死亡者数は通常よりも4,000人増加しました。当時英国で測定していた大気汚染物質は二酸化硫黄(SO2)と総粉じんですが、死者が急増した期間の日平均濃度はSO2が0.7ppm(2.0mg/m3に相当)、総粉じんは1.6mg/m3に達していたのです。

 さらに、大気汚染による健康影響は喘息などの閉塞性肺疾患の有症率を上げることが明らかになり、工場からの硫黄酸化物や窒素酸化物の規制が強化されました。そのほか現在、工場や発電所から大気中に排出される汚染物質としては、低濃度の水銀汚染が注目され、健康影響について調査研究が進められています。

大気汚染濃度と死亡者数のグラフ

1952年のロンドンスモッグ事件当時の大気汚染濃度と死亡者数

 ロンドンの汚染濃度は、環境基準と比べると10倍以上の高濃度汚染でしたが、現在では日常的な濃度レベルの濃度に対する影響の疫学研究が進められています。有名な調査研究としては、米国ハーバード大学が中心になって進めた6都市の大規模な追跡調査があります。PM濃度とその日の死亡率との関係を解析した結果では、わずかながらPM10濃度やPM2.5濃度の上昇と死亡率、とくに呼吸器系疾患や循環器系疾患の死亡との関係があることが明らかにされました。特に自動車排気ガス由来のPM2.5濃度に限った解析結果では、10μg/m3上昇した時に死亡率を3.4%増加させる(F.Ladenら2000年)というものでした。この増加は死亡に影響する様々な要因(気温、湿度など)の影響を除いた結果で、ロンドンスモッグのようにグラフで一目瞭然というものではなくてわずかな増加にすぎませんが、大きな人口では無視できない数となります。

 大気汚染監視網の整備と人口動態統計(特に死亡原因の統計)の整備が進んだ結果、中国やアジア諸国でも同様な研究が始められ、上海などでも「PM濃度増加がその日の死亡率を上昇させる」という関係が報告されています。日本でも国立環境研究所などの研究者が国内13都市のデータを用いて実施した同様の研究の結果、これまでの海外での結果とほぼ同様の関係を確認しています。

日本では

 日本では、1960年代、四日市市の石油化学コンビナートから排出される硫黄酸化物により多数の喘息患者が発生し、死者が出るに至りました。三重大学の研究者を中心に、毎月の喘息など呼吸器系疾患受診件数を国民健康保険の受診記録を地区別に集計し、大気汚染の激しい地区は他地区に比べて、受診率が明らかに高いことが示されました。1968年大気汚染防止法が制定され、工場の排煙に脱硫装置を付けるなどの本格的な排出規制がはじまりました。

 その後日本の工場地帯の大気汚染は改善しましたが、欧米同様自動車からの排気ガスによる大気汚染が大きな問題になっていきました。

 日本では、1973年に「公害健康被害補償法」が制定され、慢性気管支炎など大気汚染と発症の関係がある疾患の罹患率の調査などを基に四日市市、横浜市などの工場地帯と、東京都などの沿道大気汚染を抱える地域が救済の対象として指定されました。

 日本の大気汚染常時監視は1960年代後半から開始され、浮遊粉じんについては1972年に「粒径10μm以下の大気中に浮遊する粒子状物質」として浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準濃度(1日平均0.1mg/m3、1時間値0.2mg/m3)が設定されました。

 大気汚染の常時監視はまず工場地帯から始まり、幹線道路の沿道にも測定局が設置されるようになりました。2003年度の全国の大気汚染常時監視測定局数(有効測定局数)は測定項目により異なりますが、二酸化窒素濃度やSPMでは、一般環境大気測定局が約1,500、自動車排出ガス測定局が約400配置されています。それらの測定局におけるリアルタイムの測定値は「環境省大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)」としてインターネットで公開されています(国立環境研究所、下記参照)。

 環境省(当時・環境庁)を中心に、1970年代から沿道汚染を対象として健康調査票(中国の調査票もこの調査票を基にしています)を使った大規模な調査が、何度も実施されています。現在ではより詳細な汚染濃度分布地図や住民の個人曝露濃度の推定を基にした調査研究が進められています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では多くの研究者が、いくつかの研究プロジェクトにより(次ページ参照)、二酸化窒素の曝露実験によって低濃度でも肺機能障害を起こすことを、明らかにしました。その後、1996年度から所内に設置したディーゼルエンジンからの排気を実験動物に曝露する装置を稼働させ、ディーゼル排気粒子(DEP)の影響を中心として、多面的に影響を研究しています。

 この研究は、2001年度から「大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト」に引き継がれ、2006年度からは、環境リスク研究プログラムの「環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価」と特別研究「都市大気環境中における微小粒子・二次生成物質の影響評価と予測」として、さらに研究を発展させています(下記参照)。

各国の環境関連機関HPで公表されている大気汚染速報

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  • (2)中国(環境保護総局)
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  • (4)英国(NETCENほか)
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