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「VOC発生源と自動車の寄与,トンネル調査の結果から」の概要

Summary

 VOCは主要な大気汚染物質の一つですが,発生量,濃度分布と変動,汚染メカニズムなどに関する体系的な研究は遅れていました。そこで固定発生源や移動発生源からのVOCの排出量の推定に関する調査・研究を行いました。さらに自動車については多面的な条件による実験からVOC排出量の推定・成分調査を行い,トンネルにおけるフィールド調査も実施しました。

1.VOC発生源について

(1)VOC排出量の概算値

 従来の推定値の再検討を行い,全国のVOCの発生総量の発生源種類別内訳を推定しました(図3)。

 最大の人為的発生源は,塗装や溶剤の蒸発による排出です。大気中への排出量は,年間約82.5万tと推定され,用途別では建物,自動車(製造・修理),電気・金属が上位を占めています。工場など固定蒸発発生源のうち,もっとも大きな発生源である塗料・溶剤関連からのVOC発生量,移動発生源のうち自動車排出ガス,さらに自動車燃料起源からの蒸発発生について,VOC発生量の推定を行いました。

図3

(2)自動車排出ガス中および燃料供給系からのVOC各種成分の排出量推定

 自動車排出ガス関連の排出推定は,シャシーダイナモから得られた車種別排出係数に基づいて,通常走行時の排気管から出るVOC排出量推計を行いました。

 車種別,燃料種別,道路種別の発生量を求めた結果,VOCにはベンゼン等,主にガソリン車から排出される物質と,ホルムアルデヒド等の主にディーゼル車から排出される物質があり,後者の車種別寄与率はNOxやPMの車種別排出寄与率と類似のパターンを示しました。一方,ガソリン車では排ガス規制の緩い軽貨物車からの排出が多いことが特徴でした。

 この推計手法は従来からのものですが,VOCの排出実態に即したものとはいえません。この結果から推計された自動車排出ガス関連の排出量はVOC発生総量の15%程度と,寄与はそれほど大きくはないと考えられていました。

 そこで,今回の推計ではコールドスタートやアイドリング時などの条件における排出もカウントし,さらに自動車燃料供給系からのVOC蒸発排出量推計も行いました。後者は,駐車中の気温の変化に伴う燃料タンクの呼吸による排出(呼吸ロス),自動車へのガソリン給油時における燃料タンクからの排出(給油時ロス),ガソリンスタンドにおけるガソリン受入時の地下タンクからの排出(受入時ロス),などです。札幌,東京,北九州で夏と冬に採取し,成分分析を行った40種のガソリン組成を元にして精油所別系列別組成を考慮の上,都道府県別ガソリン組成を推定しています。

 その結果,VOC発生総量における自動車関連のVOC排出量の占める割合は27%にまで上昇することがわかりました。自動車製造や補修に伴う発生を加えるとさらに大きな割合となります。また,固定発生源は面的に広く分布しているのに対し,自動車からの発生は沿道付近に集中しており,局地的な高濃度大気汚染の発生は,自動車からの寄与がさらに大きいことがうかがえます。

2.トンネル調査による自動車からのVOC排出係数の実態把握

 トンネル調査のメリットは,実際に道路を走行している車種,年式,整備状況の異なる車両からの平均的な排出状況を知ることができること,さらに通常の屋外に比べ密閉状態に近く,排ガスなどが拡散することなく比較的そのままの状態に近い形のデータを得られることです。このため,排気管からの排出ガス以外の燃料の蒸発による排出も含めた実際の交通からの排出を把握することができます。

 市街地における比較的短いトンネルA(350m)と高速道路のトンネルB(約1,200m)について,トンネル内外の実測濃度差をもとにシャシーダイナモ試験などによる従来の報告書との比較を行いました。

 測定した個別VOCのうちでは,両トンネルともにトルエンが一番高い値を示しました(図4)。またトンネルBでは,これまで国内ではほとんど情報のなかった化合物についての排出係数が得られました。

 シャシーダイナモ試験との比較では,両トンネルともに化合物の排出比率の大小傾向は類似していました。また,シャシーダイナモ試験のガソリンエンジン車およびディーゼルエンジン車の排出係数とおおむね一致するレベルの排出係数が得られました。

トンネル調査の概念図
図4