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2016年11月11日

野心及び支援の強化に関する促進的対話の第1部が開催されました

 2011年から、この気候変動COP現地レポートを書いていますが、読んで下さっている方から、「久保田さん、現地での食事の写真、楽しみにしてます!」とよく言われます。リクエストに応えて、モロッコ料理をいくつか紹介しますね。そして、会議のレポートもしっかり読んで下さると嬉しいです!

 今日は、こちらに来てからよく食べているタジンを紹介します。北アフリカ地域の煮込み料理です。日本でも、何年か前に流行しましたね。タジンとは、とんがり帽子のような形のふたが特徴の陶製の鍋(タジン鍋)を使って、肉(羊肉、鶏肉、牛肉、ウサギ肉、魚、牛挽肉のミートボールなど)と数種類の野菜に、香辛料をかけて煮込んだものです。

写真1:タジン鍋

 独特の形をしたふたがないと、タジンだとわからないのですが、ふたをしたままだとどんな料理なのかがわかりません。ふたをとると、こんな感じです。

写真2:子牛の肉のタジン。左奥にあるつけあわせはクスクスです。クスクスも北アフリカ地域で広く食べられています。デュラム小麦を粉にし、水分を含ませ、そして粒状にしてから蒸して乾燥させたものをクスクス粒(またはスムール(フランス語))と呼びます。このクスクス粒を蒸し、肉や魚、野菜などを煮込んだものを上からかけたものがクスクスです。

 さて、本題の会議の話。今日の午後、野心及び支援の強化に関する促進的対話(Facilitative Dialogue on Enhancing Ambition and Support)の第1部が開かれました(第2部は、来週16日(水)に開催されます)。

写真3:野心及び支援の強化に関する促進的対話(第1部)の様子

 この対話は、2020年までのすべての国による温室効果ガス排出削減策の大幅なレベルアップを目指すために、排出削減策をどれくらい実施できたかを評価し、今後、途上国に対する資金支援、技術の移転、キャパシティ・ビルディング(途上国の国内組織・制度整備や気候変動問題への理解と関心の向上をはかること)に関する支援の強化をはかっていく方策を見出すことを目指して開催されました。なお、タイトルにある「野心」とは、世界全体または各国の温暖化対策の水準を意味します。気候変動交渉独特の用語です。この対話をCOP22期間中に開催することは、昨年のCOP21で決まりました。

 なぜこのような対話が必要なのでしょうか?それは、パリ協定に描かれた未来、つまり、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2℃/1.5℃に抑えるということを実現するためには、2020年までの、そして、2020年以降の、世界全体の温暖化対策のレベルを大幅に引き上げていかなければならないからです。これは、今、パリ協定が乗り越えていかなければならない大きな課題です。現在、各国がカンクン合意の下で提出している2020年の排出削減目標、そして、パリ協定に基づき提出を予定している2025年/2030年の温暖化対策の目標がすべて達成されたとしても、2℃目標の達成にはほど遠いことがわかっています(図)。

図:パリ協定の2℃目標/1.5℃目標達成のために2020年までにさらなる温室効果ガスの排出削減がどれくらい必要かを示したグラフ
(出典:野心及び支援の強化に関する促進的対話(第1部)における、気候変動枠組条約事務局Katia Simeonov氏のプレゼンテーション資料を改変(筆者が日本語訳を追記))

 気候変動枠組条約事務局Katia Simeonov氏のプレゼンテーションでは、先進国が提出した報告によれば、先進国の温室効果ガスの排出は減少傾向にあることが示されました。

 この対話の中で、先進国の温室効果ガス排出削減目標について議論する部分があり、EU、スイス、米国、オーストラリアからパネリストが選ばれ、それぞれの目標達成に向けた進捗状況について報告しました。パネリスト全員が、再生可能エネルギーと省エネルギーが重要だと発言していました。

 質疑応答の時間になり、参加者からは、京都議定書のドーハ改正の批准状況はどうなっているかという質問がありました。

 次に、ベネズエラの交渉官が、誰もが関心のある、あの質問を米国の交渉官にぶつけました。そう、トランプ次期大統領就任後、パリ協定等の気候変動対策の国際枠組みへの米国の参加にどのような影響があるのか、です。

写真4:大統領選の結果がパリ協定の今後に及ぼす影響について尋ねるベネズエラの交渉官(写真出典:ENB)

 米国の交渉官は、トランプ次期政権の気候変動政策については発言しませんでしたが、「パリ協定は既に発効しており、京都議定書の時とは状況が違う」と述べていました。

写真5:ベネズエラの交渉官からの質問に答える米国の交渉官(写真出典:ENB)

参考資料:

文・写真(写真4及び5を除く):
久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)


※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載