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2019年11月28日

国立環境研究所のロゴマーク
ニホンミツバチは外来ダニをうまく払い落とせない
-日本固有種への被害はなぜ起こったか-

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

令和元年11月28日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
 研究員 坂本 佳子
 

   国立環境研究所生物・生態系環境研究センター 坂本佳子研究員等の研究グループは、近年ニホンミツバチの気管で増殖し、甚大な被害をもたらしているアカリンダニが、なぜニホンミツバチだけで重症化し、セイヨウミツバチでは問題とならないのかについて、行動学的な視点からの要因究明を試みました。その結果、セイヨウミツバチと比較して、ニホンミツバチではアカリンダニをうまく払い落とすことができないことが明らかになりました。
   本成果は、令和元年11月22日付で刊行された学術誌「Insectes Sociaux」に掲載されました。

ミツバチのダニに対する行動の観察—成功のポイント—

1.背景・目的

   数年前から、飛べなくなったミツバチが巣の周りを徘徊するという現象が日本各地で報告されるようになりました。この異常な行動を引き起こしている原因の一つが「アカリンダニ」による寄生だと言われています。アカリンダニは体長0.1mmのとても小さなダニで、ミツバチの胸部気管内で繁殖します(写真1)。気管の中がアカリンダニでいっぱいになったミツバチは酸素不足になり、飛翔や温度調節ができなくなります。また、気管の中で成熟したダニが別のミツバチの気管に侵入し繁殖するという寄生が繰り返されるため、巣内のミツバチ全体にダニが蔓延し、やがてコロニーが死滅してしまいます。
   日本には、古来より生息するニホンミツバチ(トウヨウミツバチの一亜種)と、養蜂のために海外から輸入しているセイヨウミツバチがいます(写真2)。ところが、アカリンダニが猛威を振るっている対象はニホンミツバチだけで、セイヨウミツバチではほとんど被害が報告されていません。なぜニホンミツバチだけで、アカリンダニが流行しているのでしょうか?これまでに、我々の研究グループはアカリンダニがセイヨウミツバチと比べてニホンミツバチの気管に侵入しやすいことを実験室内での観察により突き止めています(Sakamoto et al. 2016)。そこで、アカリンダニが気管に侵入する前にミツバチがダニに気付いて払い落とすことが出来るかどうかが、ダニの寄生率を左右する要因ではないかと考え、本研究ではミツバチの「グルーミング」に着目して調査しました。

アカリンダニに寄生されたミツバチ胸部気管および気管内のダニ成虫・幼虫・卵 の写真(前田太郎(2015)日本ダニ学会誌より転載)
写真1 アカリンダニに寄生されたミツバチ胸部気管および気管内のダニ成虫
・幼虫・卵(前田太郎(2015)日本ダニ学会誌より転載)
ニホンミツバチ(左)およびセイヨウミツバチの写真(右;小松貴氏撮影)
写真2 ニホンミツバチ(左)およびセイヨウミツバチ(右;小松貴氏撮影)

2.方法

   ニホンミツバチおよびセイヨウミツバチのそれぞれの胸部背面(=背中)にアカリンダニを付着させた後、ミツバチがダニを払い落とそうとする行動(=グルーミング)を一定時間観察し、ダニを付着させなかった場合(コントロール)の行動と比較しました(図1; https://youtu.be/ne1BfkUJoR4)。また、観察終了後にダニが胸部背面から除去されたかどうかも記録しました。実験成功のポイントは、①0.1mmの微小なダニを操作するために、楊枝の先にヒトのまつげを付けた特殊な「まつげブラシ」を用いたこと、②動き回るミツバチにダニを付着させるのは困難なため、脚元を温めることによってミツバチを落ち着かせる「Floor-heating method(床暖房法)」を考案したことにあります。

※ 本手法は、ミツバチが温かい場所に集まる習性を利用したものです。

実験方法を表した図
図1 実験方法

3.結果・考察

   ダニを付着させなかった場合(コントロール)では、両種ともグルーミングをした個体の比率が約20%でした。一方、ダニを付着させた場合では、両種ともグルーミングが誘発されましたが、セイヨウミツバチ(69%)よりもニホンミツバチ(45%)の方がその比率が低い結果となりました(図2)。また、両種においてグルーミングがダニの除去に効果的であることが示されましたが、グルーミングを行った場合でも、ニホンミツバチの方がダニを除去する能力が低いことがわかりました(図3A)。全体でみると、ニホンミツバチは、セイヨウミツバチの約半数のダニしか除去できないことが明らかになりました(図3B)。

ダニを付着させた場合および付着させなかった場合のグルーミング(GR)を行ったミツバチ個体の比率を表した図
図2 ダニを付着させた場合および付着させなかった場合のグルーミング(GR)を行ったミツバチ個体の比率
グルーミング(GR)した個体としなかった個体におけるアカリンダニの除去率(A)、 および両者を合計した場合のダニの除去率(B)の図
図3 グルーミング(GR)した個体としなかった個体におけるアカリンダニの除去率(A)、
および両者を合計した場合のダニの除去率(B)

   アカリンダニは、これまでにヨーロッパや北米・南米のセイヨウミツバチで分布が確認されています。一方、日本では、ごく最近の2010年に見つかっていることから、このダニは人間によって意図せず持ち込まれた「外来生物」ではないかと考えられており、我々の研究グループの遺伝子解析からも、それを支持する結果が得られています。本来、宿主と寄生者は、生態系の中で互いに対立しながらも安定した関係を築いています。ところが人間活動によって生き物を移動させることで、寄生者もまったく新しい地域に持ち込まれ、対抗策を持たない新しい宿主にとりつき、病気の大流行を引き起こします。今回の事例でも、セイヨウミツバチはアカリンダニを効果的に除去する行動を獲得しているのに対し、ニホンミツバチはこの外来ダニへの有効な対抗手段を持ち合わせていないため、ダニの寄生が進行して深刻な被害がもたらされていると考えられました。ニホンミツバチは、我が国において多様な植物の受粉を担う重要な送粉者であり、ニホンミツバチが減少すれば、これらの植物の多様性にも影響がでる恐れがあります。

4.今後の研究展開

   本研究より、ニホンミツバチはセイヨウミツバチよりもアカリンダニを払い落とす能力が低いことが明らかになりました。今後は、なぜそのような能力の差が生じるのかについて、生理学的・形態学的なアプローチも取り込んで詳細に分析し、その結果に基づき、将来的にニホンミツバチがアカリンダニに対して抵抗性を獲得する可能性を予測します。また、このような新しい病気の流行を未然に防ぐために、ミツバチを含むハナバチ全体に潜在する病原生物の網羅的探索も予定しています。

5.研究助成

   本研究は、科学研究費補助金基盤研究(B)(代表:坂本佳子、課題番号:26290074)により実施されました。

6.発表論文

【タイトル】Differential autogrooming response to the tracheal mite Acarapis woodi by the honey bees Apis cerana and Apis mellifera
【著者】Sakamoto Y, Maeda T, Yoshiyama M, Konno F, Pettis JS
【雑誌】Insectes Sociaux
【DOI】10.1007/s00040-019-00732-w
【URL】https://doi.org/10.1007/s00040-019-00732-w【外部サイトに接続します】
※ 下線で示した著者が国立環境研究所所属です。

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
生態リスク評価・対策研究室 研究員 坂本 佳子
   E-mail:sakamoto.yoshiko(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   TEL:029-850-2480

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室
   E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   TEL:029-850-2308

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