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2012年2月13日

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大気中酸素濃度分布の定期貨物船上での長期継続観測に成功 −オーストラリア/ニュージーランド沖で観測される高濃度CO2の起源推定が可能に−(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付 )

平成24年2月13日(月)
独立行政法人国立環境研究所
環境計測研究センター 動態化学研究室
 研 究 員 :山岸 洋明(029-850-2739)
地球環境研究センター
 副センター長 :向井 人史(029-850-2536)
 主席研究員 :遠嶋 康徳(029-850-2485)

 国立環境研究所は、船上において酸素濃度の精密測定を行う計測システムを開発し、グローバルスケールで大気中酸素濃度の空間分布や時間変化を長期間(複数年)観測することに世界で初めて成功しました。この観測により、オーストラリア/ニュージーランド沖で観測される二酸化炭素(CO2)濃度の高い大気塊 (注1)のうち2/3以上は化石燃料起源ではなく陸域生態系起源(呼吸、森林火災)であることが分かりました。

 この内容をまとめた論文は、平成24年2月発行予定の米国地球物理学会誌「Journal of Geophysical Research-Atmospheres」に掲載されます。

 (独)国立環境研究所では、CO2濃度観測に加えて酸素濃度の精密観測を行い、大気に放出された化石燃料起源CO2の海洋および陸域生態系への吸収量の推定を行っています。これら2成分の数時間〜数日規模の濃度変化の関係は、CO2の起源の推定に役立ちます。

 このたび国立環境研究所は、船上において酸素濃度の精密測定を行う計測システムを開発し、この計測システムを日豪航路の定期貨物船上に設置することで、グローバルスケールで大気中酸素濃度の空間分布や時間変化を長期間観測することに世界で初めて成功しました。

図1.観測協力船「TRANS FUTURE 5」 (撮影:トヨフジ海運株式会社)

 この複数年にわたる観測データを基に洋上で観測される高CO2濃度大気塊におけるCO2の起源を推定したところ、オーストラリア/ニュージーランド沖で観測される高CO2濃度大気塊のうち2/3以上の事例は化石燃料起源ではなく陸域生態系起源(呼吸、森林火災)であることが分かりました。なお、この割合は、航路上で観測される大気塊における割合であり、国全体のCO2発生量の割合とは直接関連付けられません。

 本研究は、当研究所が推進している地球温暖化研究プログラムの一環として、主に文部科学省の地球観測システム構築推進プランおよび環境省の地球環境保全試験研究費(地球一括計上)により実施されました。この内容をまとめた論文(発表論文)が、平成24年2月発行予定の米国地球物理学会誌「Journal of Geophysical Research-Atmospheres」に掲載されます。

(注1) 大気中において、ある共通した物理的および化学的性質を持つ空気の塊。


発表論文

添付資料
・ガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器を用いた大気中酸素/窒素比の船上観測の概要

問い合わせ先
独立行政法人国立環境研究所
環境計測研究センター 動態化学研究室 研究員 山岸 洋明
Tel: 029-850-2739
地球環境研究センター 主席研究員 遠嶋 康徳
Tel: 029-850-2485

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ガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器を用いた大気中酸素/窒素比の船上観測の概要(添付資料)

1. 背景

 化石燃料の燃焼、森林伐採など人為的な活動により大気中のCO2濃度は年々上昇しているが、CO2の発生源の多くは化石燃料やバイオマス、土壌有機物の酸化反応であることから、CO2の放出に伴い大気中の酸素は消費されている。1980年代後半から大気中酸素濃度の観測が行われており(1)、酸素濃度が減少し続けていることが確認されている。大気中CO2濃度および酸素濃度の長期観測から、大気中に放出された人為起源CO2が、陸域生態系(森林や土壌など)および海洋のそれぞれに吸収される量が見積もられている(2, 3)。

 化石燃料や有機物の酸化反応におけるCO2の放出量と酸素の消費量の比(酸化比=O2消費量(モル)/CO2生成量(モル))は、酸化される物質の元素組成(炭素:水素:酸素:硫黄:窒素)に依存して1〜2の間のさまざまな値を取る。陸域生態系や化石燃料の平均的な酸化比、さらに、代表的な化石燃料の酸化比をまとめると次のようになる(表1参照)。

表1.酸化反応におけるO<sub>2</sub>生成比(酸化比)

 大気中CO2濃度および酸素濃度の現場観測を行うと、数時間〜数日スケールの変動の観測が可能になり、CO2濃度の上昇に伴い酸素濃度の減少が見られる。このCO2および酸素濃度の変動比は、CO2発生源の組成比と関連付けられると考えられるため、大気中CO2および酸素濃度の観測に基づきCO2の起源の推定が試みられている。

 このように大気中酸素濃度の観測は、CO2の発生源・吸収源の解析において有用であるが、近年は、大気-海洋間の酸素循環そのものが注視されるようになってきている。海洋中の溶存酸素濃度が低下しつつあることが多くの観測から明らかになっており、この海洋脱酸素化(Ocean Deoxygenation)による溶存酸素濃度の低下が海洋生態系・漁業に及ぼす影響が危惧されている(4,5)。海洋の脱酸素化の主な要因としては、海水温の上昇に伴う酸素の溶解度の減少や、海洋表層の水温上昇により冷たく重い下層水との循環活動が低下すること(海洋表層の成層化)による大気から海洋への酸素の取り込み量の減少が挙げられている。大気酸素濃度の季節変化は、大気-海洋間のガス交換速度の評価にも用いられており、今後、洋上における大気酸素濃度の観測は、海洋脱酸素化の要因の分析および将来予測にも重要な知見を与えるものと期待できる。

 定期船上において大気酸素濃度の長期観測を実施し、大気酸素濃度の詳細な時空間分布を得ることは、これらの研究に非常に効果的であることから、今回、新たにガスクロマトグラフ法(注2)を用いた大気酸素濃度の船上観測法の開発を行った。なお、ガスクロマトグラフを用いた大気酸素濃度測定法は、国立環境研究所において開発され、フラスコサンプリング(フラスコを使用した大気採取)による観測に用いられてきたが(6,7)、近年新たに無人観測定点において常時観測が可能な現場観測法を確立し (8)、落石岬・波照間島の地上モニタリングステーションにおいても継続して観測を行っている。本研究では、船上測定法の開発、および長期観測データに基づくCO2の起源推定の解析を行った。

(注2) ガスクロマトグラフ法
一定量の気体試料をキャリアーガス(一定の流量で流れるガス)に導入し、分離カラムで成分ごとに分離し検出器に通すことで、各成分の濃度を算出する方法。測定対象によりキャリアーガス、分離カラム、検出器の組み合わせが異なる。大気中酸素濃度の測定のためには、有効数字6桁の極めて高い精度が要求されるため、特殊な工夫が施されている。

2. 方法

 大気は、船首左舷側(海抜約30m)(図1参照)から約8リットル/分の流量で船内に引き込まれ、そのうちの8ミリリットル/分の流量でサンプルループ (2ml)に導入される。サンプルループ内の試料ガスは、ガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器(GC/TCD)に導入され、酸素/窒素比が計測される(図 2参照)。大気試料と参照ガスは5分ごとに交互に測定され、1時間平均値として酸素/窒素比が算出される。一般に大気中酸素/窒素比は、参照ガスの酸素 /窒素比からの百万分率偏差(パーメグ)として表記される (濃度1 ppmは、約4.8パーメグに相当)。(大気中窒素濃度の変動はごく小さいため、ここでは説明を簡便化するため酸素/窒素比を酸素濃度に置き換えている。)

 熱伝導度検出器(TCD)からの出力は船舶の揺れの影響を受けるために、従来のガスクロマトグラフ法では船上において精密な酸素濃度計測を実施するのが難しかった。具体的には、船舶の揺れに伴いTCDの出力がわずかに増加または減少するため、クロマトグラムのベースラインが波打ち、クロマトグラム上の酸素および窒素のピーク面積の計算精度が悪化するという現象が生じていた。

 そのため、本研究では揺れの影響によるクロマトグラムのベースラインの波打ちを取り除く目的で、新たに参照用TCDを設置した。TCDの揺れへの応答には個体差があるため、それぞれのTCDの揺れへの応答を事前に調べておき、この参照用TCDの設置角度の調整を行うことで、測定用TCDの揺れによるシグナル変化を再現し取り除いた。その結果、船舶上においても揺れの影響を受けずに地上での観測と同等の測定精度(±1 ppm)で観測を行うことが可能となった。

図2.船上に設置した大気酸素/窒素比計測システム
図2.船上に設置した大気酸素/窒素比計測システム

3. 結果と考察

 今回、大気酸素/窒素比船上計測システムを新たに開発し、2007年9月から世界に先駆けて貨物船上での大気O2/N2比定常観測を開始し、日本-オセアニア間の緯度分布データを取得した。これにより大気酸素/窒素比データの時空間分解能が飛躍的に向上した(図3, 4) 。船舶による長期モニタリングは他に例がなく、先駆的な研究として世界をリードするものである。

 2007年9月から2009年7月までのデータを解析したところ、オーストラリア/ニュージーランド沿岸を航行時に5〜40ppm程度CO2濃度が一時的に上昇する現象が観測された。その各々の事例についてCO2とO2濃度の相関を調べた結果、O2減少量/CO2増加量比(−ΔO2/ΔCO2比)は、1.15以下のものが全体(23例)のうちの2/3を占め(図5)、主に陸域生態系(呼吸と森林火災)のシグナルであると推測された。

図3.2009年3〜4月における酸素およびCO<sub>2</sub>濃度の緯度分布
図3.2009年3〜4月における酸素およびCO2濃度の緯度分布
酸素濃度は任意の基準からの偏差として表記している。折れ線が船上観測、点がフラスコ観測。赤:往路(日本からオセアニア)、青:復路(オセアニアから日本)、(航路図は図4参照)。
図4.2009年3〜4月の観測時の航路図
図4.2009年3〜4月の観測時の航路図
赤・青線は、図3の観測データと対応している。緑線は、観測を行っているが図3にはプロットしていない部分。
図5.オーストラリア/ニュージーランド沿岸で観測された高CO<sub>2</sub>濃度大気塊におけるO<sub>2</sub>減少量/CO<sub>2</sub>増加量比(−ΔO<sub>2</sub>/ΔCO<sub>2</sub>比)のヒストグラム
図5.オーストラリア/ニュージーランド沿岸で観測された高CO2濃度大気塊におけるO2減少量/CO2増加量比(−ΔO2/ΔCO2比)のヒストグラム

4. 今後の課題

 本研究(発表論文)では、新たに開発した船上酸素濃度観測法の詳細解説、性能評価、および本観測により得られる高時間分解能酸素濃度データの解析例を紹介した。CO2の起源推定においては、今後船上で同時に観測を行っている一酸化炭素濃度との比較により、高CO2濃度大気塊の起源を呼吸と森林火災に分離することや、大気輸送モデルを用いた定量解析を行うことによって、濃度比による推定の検証を行うことが期待できる。また秋季および冬季には、大気中の酸素が海洋に吸収されているため、その現象がO2減少量/CO2増加量比に与える影響を評価し、CO2起源推定方法の信頼性を高めることが期待できる。

 また船上観測により得られる高空間分解能の酸素濃度緯度分布データについては、洋上の大気輸送について大気輸送モデル間の比較評価を行うことや大気-海洋間の酸素フラックス(輸送速度)の評価を行うのに役立つと期待できる。

 なお、貨物船上への観測機器の設置および運用は、トヨフジ海運株式会社および鹿児島船舶株式会社の協力により行われた。

参考文献

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