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2011年10月31日

環境と経済の両立する都市の実現をめざして

【シリーズ先導研究プログラムの紹介: 「環境都市システム研究プログラム」 から】

藤田 壮

1.新しい 「環境都市研究」 をめざして

 産業化と都市化が世界中に広がる中で、産業や暮らし、交通等のさまざまな人間活動の中心である都市の環境問題の解決が緊急の課題となります。環境都市システム研究プログラムでは、公害対策や快適環境の実現に貢献してきた国立環境研究所および関連する研究機関での成果と経験を活かして、環境と経済の両立する都市の仕組みを研究します。都市生活や産業活動の環境性能を高める技術と制度を見出す科学的手法を構築する研究を進めています。日本とアジアの具体的な都市や地区をとりあげて、環境と経済が両立する「環境都市」の将来の姿を具体的に設計し、その将来像に到達する具体的な対策とその実現の道筋を構築する研究を進めています。研究の初期の段階から川崎市や名古屋市、水俣市などの現実の都市行政や企業、市民グループ等と連携を志向することで、研究結果を都市や地区に、「実装」するアプローチで研究を進めています。実験室やシミュレーション研究から飛び出して、地域や地球の環境問題の改善と経済の活力や暮らしの豊かさをもたらす「環境都市」の実現に貢献することをめざしています。

 たとえば、環境改善と地域活性化を同時に実現する都市のシステムとして、「低炭素な都市集約」を考えています。今後の全国的な人口の減少を見すえて、社会サービスを効率的に提供できるような都市や地区の構造を考えて、新世代の公共交通の再整備や、産業と住宅・商業施設の一体的な開発、エネルギーの需要供給制御システム、環境技術を中核とする都市システムを計画する方法論を開発します。技術の体系的情報構築(定量的インベントリ)と、都市と地域の特性を反映して技術の効果を高める社会システム、およびその組み合わせで得られる将来の「環境都市」の未来像に到達する対策シナリオについて、その環境効果と経済効果を定量的に評価する方法論を開発しています。都市の一体的な環境技術群として、それを都市に実装する社会施策システムに描くことのできる将来の環境都市の姿、そこへ到達する実効的な「都市・地区のロードマップ」の計画と評価体系の研究開発を進めています。

 これらの一連のプロセス開発を、国内およびアジアで環境モデル都市、地区において産官学連携による実証研究を進めることによって、技術の社会実装プロセスの開発、地区マネジメントシステムとしての機能高度化の研究、およびモデル地区を中核とする「環境都市」と地域の計画への適用を含むマルチ・ステージの社会展開のガイドラインを構築します。図に示すように、第1ステージとして、国土や地域スケールのマクロ分析から、対象都市の条件に応じた適切な環境技術と社会システムの候補群を選定します。第2ステージでは、地理情報システム(GIS)などを活用した都市スケールの空間分析で具体的な適地を選定して、そのための環境都市計画を構築します。そのうえで、第3ステージで具体的な地区のデザインと実装、地域条件に応じた詳細な環境技術開発を進めるという階層的なフレームを示しています。

図(クリックで拡大表示)
図 環境都市システム研究のプロセス

2.環境都市システム研究プログラムの内容

 研究プログラムでは社会環境システム研究センターのメンバーが地域環境研究センターおよび資源循環・廃棄物研究センターなどと連携して以下の研究を進めています。

a.環境と経済を両立するコベネフィット型の環境都市づくりの方策設計とその社会実装

 低炭素都市や資源循環拠点都市など環境都市にかかわる様々な政策を組み合わせて、地球環境への負担を減らして、地域の環境を改善する技術・政策システムを計画して、その効果を定量的に算定するシミュレーション・システムを開発しています。シミュレーションを可能にするために、地域の経済や活力を高める都市や地域の建設物の再配置や、エネルギーや資源循環の環境インフラの整備と更新のシナリオを描く「環境都市計画モデル」と、都市のもたらす経済効果と環境効果を定量的に算定できる「環境都市評価モデル」から構成します。このシステムを実装することによって、都市活動が地球環境へ与える負担の減少、地域環境の改善、地域の経済や活力を高めることが期待されます。国内での川崎市やつくば市、中国遼寧省瀋陽市等との連携体制の下でこれらのシミュレーション・システムの開発を進めて、環境都市で有効な技術や施策の提案とその実現の支援を進めていきます。

 たとえば、瀋陽市では、個別の資源循環や低炭素技術システムを地域条件に合わせて再構築する「リエンジニアリング」プロセスや、技術の運用効率を高める資源循環のための回収・分別を含む社会制度パッケージの定量的設計プロセスを開発しています。中国科学院及び瀋陽大学、瀋陽市政府関連部局との連携で都市環境情報データベースと技術・制度のシミュレーションプロセスを構築することによって、都市の特性に応じたガイドラインとしてアジア都市へ汎用化し、その成果の国内還元を図ります。

b.都市や地域の特性に応じた環境技術の選定と評価モデルと環境技術開発システム

 アジア都市の環境特性や経済特性に応じた定量的な環境・社会評価に基づいて適切な環境技術を選定するモデルを構築して、都市にとっての重点的かつ緊急性の高い環境技術を開発します。市場経済では推進が難しいものの、環境価値、社会価値を考慮することによって重要性の高まる技術を選定して、そのための技術開発を進める「環境イノベーション」プロセスの都市での実証が研究の主眼となります。

 たとえば、アジア地域の多くの都市の中心地域では、大規模な下水道整備が進みつつありますが、郊外地域では都市化の進行に伴い各種産業や日常生活から排出される排水の処理が追いついていません。また、省エネルギーで建設及び運転管理コストの安い処理技術が求められています。このような「適地処理技術」について、タイでパイロット実証試験を現地の行政機関(バンコク都)および大学(キングモンクット工科大)と共同して行っています。現地においては、この技術の将来的な普及を目指して関連するデータベース等の構築も開始します。また、環境省の日中水環境パートナーシップ事業の一環として、急激に都市化が進む中国農村地域への小規模生活排水処理技術の普及に関する協力事業において、このような日本の環境対策の歴史を伝えると共に、蓄積してきた技術により現地で処理施設をモデル的に設置して、その適用性を調査しています。

3.具体的な環境都市の社会実証研究の紹介 -産業と共生するコベネフィット都市の実現への研究-

 これまで国内とアジアの都市で進めてきた社会実証研究の一部を紹介します。産業施設からの環境汚染を制御する公害研究の知見を踏まえて、都市と近接に立地する生産施設やエネルギー施設と都市の活動を積極的につなぎ合わせる「産業共生(Industrial Symbiosis)都市」の実現に向けて資源やエネルギーの循環特性をその空間情報を用いて解析するシミュレーション・システムを開発しています。温暖化対策や資源循環という地球・広域への環境貢献を地域の環境改善につなげるコベネフィット型の都市の姿を動的に描くモデルと手法の開発を進めて、資源循環や交通システム、地域エネルギーシステムなどの個別の都市システムの最適な構造の同定とともにそこに向けて現在の都市を誘導するための道筋とシナリオ設計研究を個別の都市との連携で進めています。都市の人口変動やコンパクト化などの長期の社会的傾向の下での、低炭素や資源循環と地域の活性化を実現する空間構造を見定めてそこへ導く技術と政策手段を明らかにしています。都市のデータベースとともに、施策のインベントリおよび技術の定量的情報を産官学連携で構築する研究スタイルを、名古屋大学、国際連合大学、また、環境省や川崎市や水俣市等との連携の機会の中で実現しています。研究からの発見は環境省のガイドラインとしての出力や、内閣府の進める環境モデル都市、環境未来都市、総合特区の実現に向けての研究情報として提供されています。

 また、東日本大震災の復興研究として、都市や地域の緊急の復旧活動と連動しつつ、超高齢化や地域産業の転換等の重要課題について、復興を通じて地域の中長期的活性化を実現する計画を支援する仕組みの開発にも取り組んでいます。

(ふじた つよし、社会環境システム研究センター
環境都市システム研究室長)

執筆者プロフィール:

筆者の藤田壮の写真

国立環境研究所 環境都市システム研究プログラム総括 兼 室長。都市計画修士、博士(工学)。建設会社勤務、大阪大助教授・東洋大教授等を経て、2005年より国立環境研究所室長。2011年より現職。専門;環境システム学、都市環境計画、エコタウン、都市産業共生システムなど。

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