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2013年8月31日

熱処理プラントを用いた災害廃棄物燃焼試験の取り組み

【東日本大震災復旧・復興への取り組み】

滝上 英孝

 環境省の試算(平成23年7月8日現在)によれば、岩手、宮城、福島の三県で合計2,200万トンの災害廃棄物が生じています。これは日本の家庭から出される一般廃棄物の年間総排出量4,600万トン(平成21年度)の実に半分に及ぶ膨大な量に相当します。被災地では混合状態の廃棄物から懸命に分別が進められていますが、全体の中では木くずが7割程度を占めるとされています。木くずと一口にいっても海岸林や市街地の流出樹木、倒壊家屋の柱や合板などの建材、漁業で用いていた筏(いかだ)などいろいろな種類の木材があります。木くずのリサイクル先としては、製紙原料、家畜敷料・肥料、チップ合板、サーマルリサイクル(セメント原料、バイオマス発電、焼却熱回収)等、品質に応じていろいろな選択肢があります。その一方で今回の震災廃棄物は津波(海水)を被っているという点が、リサイクルや処理を慎重に進めなければならない大きな要因のひとつとなっています。津波を被った木材中の塩分(塩素濃度)を測定すると、多くの木材は0.1%前後の含有量となっていましたが、流木の枝や合板で3%を示すものがあります。(ちなみに海水中の塩素濃度は約1.9%です)。製紙原料や敷料・肥料に被災地の廃木材を使用するということは塩分の制約やその他の廃棄物との分離、分別が条件となるため、なかなか困難なことだと考えられますが、他の利用選択肢も視野に入れて多様な活用を考えることが重要に思います。

 そのような中で、焼却処理は木くずなどの災害廃棄物を減量化するために有効な方法です。災害廃棄物には腐敗物や汚泥も入っており、衛生上の観点(病原菌や感染性生物の無害化や有機物の分解)からも重要な処理方法です。また、省エネルギーの観点から、ボイラーによる熱回収利用やごみ発電も全国の廃棄物焼却炉で広く実施されています。災害廃棄物に対しても、リサイクル可能なものをできるだけ除いた後に、残った可燃分は焼却処理を行うことになります。災害廃棄物の広域処理として全国の自治体(既設の廃棄物焼却炉)が受け入れる検討を行っています。また、被災地においても災害廃棄物を専焼する仮設焼却炉の設置が検討されています。例えば、仙台市では3基を設置して、1日で合計約500トン程度の処理が進められるよう計画されています。

 災害廃棄物の焼却処理を実施するに当たっての課題として、有害物質の環境排出がないか、また、プラントの運転操業に影響を及ぼすような不具合を生じないかということがあります。この点で、塩分を含んだ廃棄物を焼却する際に特に考慮すべき有害物質としてはダイオキシン類と塩化水素が挙げられます。ダイオキシン類は、ご承知のように残留性有機汚染物質(POPs)を代表する物質であり、廃棄物焼却がその発生源のひとつとなっています。これに対し、ダイオキシン類対策特別措置法(ダイオキシン特措法)に基づいて高温燃焼や排ガス処理の高度化といった技術対策がとられてきています。塩化水素は、塩化ビニルや塩化ナトリウム、塩化カルシウムの燃焼反応によって生成し、硫黄酸化物(SOx)とともに焼却炉の内部素材(鉄など)の腐食の原因となります。技術的対策としてはアルカリによる中和が効果的でアルカリの粉末をガスに吹き付ける方法(乾式法)やアルカリ溶液でガスを洗浄する方法(湿式法)が確立されています。

 実は、日常出しているごみの中にも一定量の塩分は含まれています。塩分を含む厨芥(生ごみ)や塩素を含むプラスチックなど、塩素は%のオーダーで都市ごみに含まれる可能性があります。つまり、災害廃棄物を焼却する際の検討のポイントは、日常ごみと比較して、「非日常」の素性の不明な災害廃棄物中の塩分がどのような挙動をするか解析することにあります。

 私たちは被災地において災害廃棄物(生木、柱や梁、合板といった木くず、写真1参照)を、許可を得て採取し、所内の熱処理プラントを用いてそれらを焼却し、ダイオキシン類や塩化水素といった有害物質の挙動について調べる試験を5月から実施しています。熱処理プラントの構成を図1に示しますが、実際の産業廃棄物の焼却炉を模して設計されたもので、試験焼却量は1時間あたり2~3kgですが、燃焼炉(一次・二次燃焼炉)における燃焼温度や二次燃焼炉におけるガス滞留時間はダイオキシン類対策特別措置法に従って設定しています。後段におけるガス冷却塔はダイオキシン類の再合成を防ぐ装置で、バグフィルタは塩化水素を中和したアルカリ粉末やダイオキシン類を含む飛灰を捕捉する装置です。さらに念を入れて、活性炭吸着塔と湿式スクラバー(排ガスの洗浄装置)を経て排ガスを処理する流れとなっています。試料採取は色々な箇所で行えるので、有害物質の低減や物質収支について解析が可能です。

写真1
写真1 被災地で採取した廃木材試料
生木、家屋の柱や梁、合板を採取しました。
図1
図1 熱処理プラントの概略図
排ガスや灰試料の採取ポイントを明示しています。

 災害廃棄物の焼却試験は全4回の予定で実施しています。木くずのみの試験(1回目)、木くずに塩分を多く添加した場合の試験(2回目)、木くずに津波堆積物を添加した試験(3回目)、木くずにプラスチック、堆積物、畳等を添加した試験(4回目)です。木くずは、いったん破砕し、添加するものを混合した後、ペレット状に成形して燃焼試験に用いています(写真2に燃焼試験の様子を示します)。試験項目は、塩化水素やダイオキシン類のほか、ガスや灰の一般性状項目、重金属類に至るまで広くみています。

写真2
写真2 燃焼試験の様子
試料投入ピットと一次燃焼炉(ロータリーキルン)を撮影したものです。

 現在、2回目までの試験結果が出ており、ダイオキシン類の濃度は排ガス試料(バグフィルタ出口)においては、0.04ng-TEQ/m3N以下(TEQはダイオキシン類の毒性当量単位。大型の廃棄物焼却炉の排ガス規制値が0.1ng-TEQ/m3N)、焼却灰試料では、80pg-TEQ/g以下(廃棄物焼却炉焼却灰の処理基準が3ng-TEQ/g)、塩化水素は不検出( < 1mg/m3N)となっており、問題のない結果となっています。一方、化学分析のみならず、プラントで試験時に生じた現象を観察することも大切で、2回目の試験では、一次燃焼炉内部や後段の排ガス処理プロセスにおいて塩分とみられる粒子が付着する傾向が観察されており、また、3回目の試験では、バグフィルタへの堆積物粒子の付着がみられることがわかりました。得られた知見については災害廃棄物の処理を進める自治体が焼却処理を実施する際に、先行する技術情報として活用することが期待されますので、結果を迅速かつ的確に伝えていきたいと考えています。

 なお、本試験研究を実施するに当たっては、仙台市、岩手県といった自治体の多大なご協力をいただいています。ここに記して感謝いたします。

(たきがみ ひでたか、資源循環・廃棄物研究センター
ライフサイクル物質管理研究室長)

執筆者プロフィール:

滝上 英孝

震災以降、所内の復旧対応に始まり、4月からの被災地の支援・調査、5月以降の検討会業務関与と3つのフェーズがありました。長いスパートとなり、自身の地力が問われています。

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