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南極レポート(第5回: 「昭和基地の廃棄物・汚水処理」)

【海外調査研究日誌】

中島 英彰

  前回の南極レポートでは,我々が行っている昭和基地におけるオゾンホールの観測概要について紹介いたしました。今回は,昭和基地における廃棄物・汚水処理の現状と,基地の発電コジェネレーションシステム,あと最近行ってきたアデリーペンギンのルッカリー(集団営巣地)の様子について紹介したいと思います。

<廃棄物処理に関して>

 南極昭和基地へは,最近では毎年1,000トン近い物資が「しらせ」から輸送されます。このうち,約500トンの燃料や50トンほどの食料など,基地で消費されるもの以外は基地に残り,やがて使えなくなったものや我々の生活で出るゴミなどは,廃棄物として蓄積されることになります。昔はこのようなゴミなどは,一部焼却処分するものを除いて,海を埋め立てて投棄したり,「デポ山」と称する集積所に放置したりしていました。おかげで,古い雪上車や車両,ドラム缶などのゴミの山が,基地のいくつかの場所にできて,景観を著しく害していたものです。

 しかし,環境問題が噴出する中,1991年マドリッドで開催された南極条約協議国会議において「環境保護に関する南極条約議定書」(通称「マドリッド・プロトコル」)が採択され,1998年に国際条約として発効しました。この議定書は,1980年代からの地球規模の環境保全に関する関心の高まりを背景に,南極地域の環境及び生態系の包括的な保護を目的としたものです。我が国でもこの議定書に対応して,1998年1月に「南極地域の環境の保護に関する法律」が施行され,南極地域の環境保護が推進されてきています。

 この議定書の附属書IIIの中で,廃棄物の量を可能なかぎり削減することを原則として,南極地域から除去する物質(放射性物質,電池,有害な重金属を含む廃棄物など),廃棄物の焼却,陸上処分,海洋での処分,保管等の方法,持ち込み禁止品(ポリ塩化ビフェニル,滅菌されていない土壌,ポリスチレン製の梱包用材料など)が規定され,廃棄物の管理計画や管理方法が定められています。日本南極地域観測隊においても,1994年の第35次隊から,廃棄物処理を専門に担当する環境保全隊員が越冬隊に参加しています。また1997年からは,環境省自然保護局の職員が,オブザーバーとして夏隊に参加しています。

 現在の昭和基地においては,まずすべてのゴミは,以下の20種に分別して廃棄物保管庫に集積されます。1.可燃物,2.生ゴミ,3.不燃物・ビニール類,4.プラスチック,5.ペットボトル,6.アルミ缶,7.スチール缶,8.大型缶,9.ダンボール,10.ビン・ガラス,11.複合物,12.金属類,13.陶器,14.電池類,15.蛍光灯・電球,16.油・食用油,17.缶詰,18.電解液,19.薬品,20.バッテリー。

 つぎに,環境保全隊員によって,以下の基本方針に従って処理されます。

・小さな可燃物は,専用の焼却炉で処理する。

・生ゴミは,生ゴミ処理機で乾燥炭化処理した後,国内に持ち帰る。

・夏作業や普段の生活で出る,木枠やダンボールなどの梱包材は,タイコン
(写真1)という袋に入れて,すべて国内に持ち帰り処理する。

・焼却不適物や不燃物は,空きドラム缶やスチールコンテナに入れて,すべて国内に持ち帰る。

廃棄物の写真
写真1 国内に持ち帰るために「タイコン」という袋に詰められた廃棄物

 昭和基地では,2005年から2008年にかけて,「基地クリーンアップ4ヵ年計画」を行っており,過去に出た廃棄物の積極的な持ち帰りを進めています。ここ数年は毎年約200トンの廃棄物を「しらせ」で国内に持ち帰っています。中には,昔使われて放置されたままの古い雪上車などもあり,見ていると昔にタイムスリップしたような気になってきます(写真2)。

雪上車の写真
写真2 持ち帰りを待つ,30年以上前に使われていた雪上車

 おかげで,昭和基地内は,私が以前17年前に来たときに比べ,ずいぶん小奇麗になったように感じました。

<汚水・排水処理に関して>

 我々35人の隊員が昭和基地で生活していると,当然トイレや洗濯機,厨房,風呂などから1日に約6立方メートルほどの生活廃水が出てきます。この汚水はどのようにして処理しているのでしょう?昔は,消毒液を混合して汚水槽にためておいた汚水を,汚水槽が一杯になりそうになると,「アッパカマシ」(「アッパ」は新潟地方の方言で「大便」のこと。大便に水を加えかき回すの意)といって水で薄めながら攪拌し,基本的にそのまま海に流していました。

 約8年前からは,「汚水処理棟」という,汚水処理専用の建物ができました(写真3)。基地で出た汚水はこの棟に集められ,その中の汚水処理槽で,好気性バクテリアによる接触ばっ気処理(生物処理)を行った後,処理水は海へ流し,分離した汚泥は生ゴミと同じように炭化処理をして国内に持ち帰ります。この生物処理によって,汚水のBOD(生物化学的酸素要求量)値は,処理前に約700mg/Lあったものが約30mg/Lに,COD(化学的酸素要求量)値も約1,000mg/Lが約80mg/L程度とずいぶん改善されます。汚水処理棟内は常に20℃前後に保たれ,バクテリアの働きを助けています。

汚水処理棟の写真
写真3 汚水処理棟の内部

<発電コジェネレーションシステムに関して>

 昭和基地の電力を賄う発電装置は,2機の300kVAのディーゼル発電機の交互運転によってその大半が賄われています。この発電機は電力の供給はもとより,エンジン冷却水熱及び排気ガス熱を回収し,造水・温水暖房の熱源として利用することにより,なんと燃料の持つエネルギーの92%を有効に回収して利用している,驚異的なコジェネレーションシステムとなっています。おかげで我々は基地の中ではふんだんにお湯を使うことができ,循環式風呂は24時間沸いており,個室内は床暖房が効いていて,真冬でも快適に過ごすことができるわけです。

 また,そのほかに容量45kWの太陽光発電装置があり,夏期間は基地の1割以上の電力を賄っています。さらに,来次隊では出力10kWの風力発電機も設置予定であり,主に冬期の電力不足を補う計画もあります。

<ペンギンルッカリー訪問>

 最後に,最近調査に行った,アデリーペンギンルッカリーの様子を紹介いたします。アデリーペンギンは冬の間は,一面に張った海氷に開水面のある流氷域で暮らしていますが,毎年10月末に北の海から繁殖のために,昭和基地付近の露岩に何箇所かあるルッカリーに集まってきます(写真4)。大きなルッカリーでは,1,000羽以上のアデリーペンギンを確認することができました。ルッカリーではペアになって小石を積み上げて巣を作り,11月中旬に卵を1~2個産んで暖めます。約1ヵ月で卵から雛が孵化します。親ペンギンが交互に,ルッカリーから開水面まで,1週間以上かけて餌のオキアミなどを採りに行き来する際は,しばしば昭和基地の付近も通りかかり,我々に愛嬌を振りまいてくれます(表紙写真参照)。その他,ウェッデルアザラシやユキドリ,トウゾクカモメといった生き物たちも姿を見せ始め,南極への遅い春の到来を感じさせてくれます。

ペンギンの写真
写真4 昭和基地付近では最大の,ルンパ島にあるアデリーペンギンルッカリー

 次回の南極レポートでは,これまで紹介できなかった他部門の研究内容や,夏作業の様子について紹介したいと思います。お楽しみに。

(なかじま ひであき,大気圏環境研究領域
主席研究員)

執筆者プロフィール

 国立環境研究所に来て丁度10年目の年に,つくばから南極に脱走計画を企て,現在南極昭和基地に雲隠れ中。ルッカリーにいるアデリーペンギンの様子を眺めていると,退屈しない。仲むつまじい夫婦,三角関係のペンギン,人の巣から小石をちょろまかすやつ,遠くまで小石を探しに行っている間に,自分の巣の石を盗まれている要領の悪いやつ。でも,全体としてまとまっていて,トウゾクカモメなどによる攻撃を防いでいる様には,生き物の知恵を感じました。