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廃棄物の再生資源化をガス化で実現 −中核研究プロジェクト3「廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発」から−

【シリーズ重点研究プログラム : 「循環型社会研究プログラム」から】

川本 克也

 循環型社会研究プログラムにおいて,中核研究プロジェクト3(以下,中核P3と記す。)が目標とするのは,廃棄物の排出抑制,適正処理と資源循環を高度に達成することと同時に,地球温暖化防止や資源の持続的な確保などにも寄与できる,Win-Win型の技術開発です。このため,バイオマス系廃棄物からエネルギー利用と素材(マテリアル)利用を可能とする物質回収技術を開発し,高度化を図り,一方で産業と連携することによって開発技術の活用システムを構築することをねらいとしています。サブテーマとして,1)炭素サイクル型エネルギー循環利用技術システムの開発と評価,2)潜在資源活用 型マテリアル回収利用技術システムの開発と評価,3)動脈(産業)-静脈(廃棄物処理・資源循環)プロセス間連携/一体化資源循環システムの開発と実証評価について研究を進めています。図1に本プロジェクトの概念を示します。本稿では,個別テーマとして筆者が担当するガス化-改質プロセスによるエネルギー回収技術を詳しく紹介したいと思います。

研究プロジェクトの全体概念の図(クリックで拡大表示)
図1 中核P3の全体概念

 中核P3で対象とするバイオマス系廃棄物は,我が国の産業廃棄物および一般廃棄物を合わせた総廃棄物発生量が年間約4億5,000万トンであるのに対し,その存在量は最大で約3億2,700万トン(湿潤重量)と見積もられ,大きな割合を占めています。ただし,排出される場所が散在しているために収集が容易でない,一般廃棄物のように性状が雑多で不均一な混合状態にある,含水率が高く水分の取り扱いが課題となるなど,実際の利用にあたっては考慮すべき点も多々あります。特に,水分の度合いが,バイオマス系廃棄物の再生資源化に適した技術を考え,取り組む際に重要となります。廃木材や,生ご みがバイオガス化などによって利用された後の残さは水分が比較的少ないので,加熱を原理とする処理および再生資源化に適していると思われます。中でも,熱分解ガス化は単純に焼却する方法と異なり,高濃度で利用価値のあるガスを生みだすため,再生資源化に適う技術と言えます。

 しかし,ガス化だけでは取り出されたものの利用価値は低く,石油精製と同じように,生成したガスを改質して,有用なガスに精製・変換する必要があります。そこで,技術開発では,いかに効率よく有用な物質を高濃度で生成させ,逆に不要または支障となる物質の生成を抑えるかがポイントになります。この目標は単純ではありますが,完璧な実行は容易ではありません。いま,つくり出したい有用な物質を,水素(H2),一酸化炭素(CO),およびメタンガス(CH4)をはじめとする炭化水素類など,エネルギー源として利用できるガスとします。この場合,ガス化-改質の温度はあまり高温としない方が望ましいです。すでに実用化されているガス化-改質プロセスでは,タールなどの副生成物を十分に取り除くため1,000℃以上の高温で改質が行われますが,これによると炭化水素類はほとんど分解し,ガス体積当たりの発熱量は低下します。また,冷ガス効率(投入燃料の総発熱量に対する生成ガスの総発熱量:%)も低下します。

 私たちが低温でのガス化-改質プロセスの開発にねらいを定めてきたのは,このような認識からです。そのために,触媒を用いることを技術開発のポイントとしました。改質までを低温で行うことの最大かつ現実的な課題は,生成ガスを利用する燃料電池や発電機に対するタールや触媒活性点を不活性化する触媒被毒物質の生成をいかに低減するかです。また,有用なガスとしてH2を主なターゲットとしますが,その生成効率を最大の目的とするのではなく,生成ガスがエネルギー利用に適する熱量を持つこと,また化学合成原料としての応用を考慮して,炭素と水素の比率を重視しています。

 実験に用いている装置は,図2のようです。廃木材,一般廃棄物を由来とするごみ固形燃料(RDF:Refused Derived Fuel),産業廃棄物の紙くずと廃プラスチック類から製造されるRPF(Refuse Paper &Plastic Fuel)を原料にし,処理能力は0.1~0.2kg/hと小規模です。触媒には,基材のアルミナ上にニッケル(Ni)を有効成分(十数湿重%)として含む水蒸気改質用触媒を数種類用いました。一部の触媒は,生石灰(CaO)などのアルカリ金属酸化物も含んでいます。ガス化のための加熱は650~850℃の温度で行い,水蒸気と若干の窒素(N2)・酸素(O2)を注入しました。

実験装置の図
図2 ガス化-改質実験装置
(反応管内径50mm,長さ約1,400mm)

 これまでに得られた成果から第一に言えることは,ガス化およびタールなどの生成に対して,最も影響の大きい因子は温度だということです。H2生成には触媒を用いないと高温条件の方が有利です。しかし,触媒を適用すると,低温でも高温に匹敵するH2濃度が得られることがわかりました。図3は,触媒を用いて得られる各ガス組成の変化ですが,無触媒条件(850℃)でのH2濃度平均値と比較してわかるように,温度がそれよりも100℃低い750℃であっても高濃度のH2が得られています。H2と二酸化炭素(CO2)は時間経過とともに濃度が低下し,COと炭化水素類(メタンとエチレン)濃度は徐々に増加しています。なお,原料中の炭素がガス中のそれに転換した炭素転化率は70~80%程度で概ね一定で,また生成したガスの高位発熱量は8 MJ/m3( 約1,900kcal/m3)という値であり,ガスエンジンによる発電が十分可能な水準(1,000kcal/m3以上)が得られました。さらに,完全燃焼に必要な理論酸素量に対する注入酸素量比であるER(Equivalent Ratio)を変更すると,実験開始初期に得られるH2濃度は45容積%に近くなって,触媒の効果が発揮されることがよくわかりました。

ガス組成のグラフ
図3 触媒を用いた廃木材のガス化-改質プロセスで得られたガス組成
(750℃,水蒸気と原料中炭素の量比S/C=1.53,ER=0.076;破線は無触媒,850℃,S/C=3.0,ER=0.18での実験時間内平均値)

 このとき用いた効果の高い触媒は,有効成分であるNiのほかにCaOも含んでいました。そこで,改質反応管内の触媒層の前にCaOを追加的に充填すればさらに効果があるのではないかと考えて検討した結果,CaOはH2の生成効率向上のほかに,タールや燃料電池に支障を及ぼす硫化水素(H2S)などの低減にも役立つことがわかってきました。このように,CaOを併用すると効果のある理由は,CaOがCO2を吸収することで化学的平衡が移動する結果,H2生成がより促進される効果として現われると推定しています。

 では,触媒とCaOをどのような比率で組み合わせると有効性が高まるのか,小規模の実験設備を用いて廃木材を原料に試験しました。図4に結果を示すように,CaOの比率が高くなるとともにH2濃度が増加しています。以上のように,CaO層を触媒の前段に設けることによって改質が促進されること,また,タールやH2Sなども低減できることが明らかになりました。

ガス発熱量の関係のグラフ
図4 CaO/触媒比と生成H2濃度およびガス発熱量の関係
(原料は木質ペレット,750℃,濃度は初期40分間の平均値)

 しかし,課題も残されています。それは,まず,触媒の効果を長時間にわたって維持することです。また,触媒の再生を図ることが実用化の要だと考えます。さらに,タール分の十分な低減については,廃木材以外の原料では達成できていません。加えて,生成ガス中のベンゼンやエチレンなどの炭化水素類についても,炭素質の析出を起こして燃料電池の電極などに悪影響を及ぼすのを防ぐため,低減が必要です。これらの課題を乗り越える鍵は,触媒を再生する方法と温度にあると考えています。

 以上,これまでの取り組みを紹介しましたが,今後とも,ガス化-改質技術を,バイオマス系廃棄物を量・質の両面で十分に取り込むことのできる熱的な処理技術とし,現実的なエネルギー再生技術とするため,足もとの実験はもちろん,企業など実社会とのつながりを持ちながらますます強力に進めていきたいと考えています。

(かわもと かつや,循環型社会・廃棄物研究センター
資源化・処理処分技術研究室長)

執筆者プロフィール

 大学院修士課程を修了して最初に就職したのは下水道公社,その後地方自治体の公害研究所に転じ,その後再びの学生生活(博士後期課程)を経て4年間の環境プラントメーカー勤務で幅を広げ(たと思い),さらに私立大学工学部教員を9年間勤めた後,縁あって国立環境研究所にきて6年目です。転職続きのわが職業人生ですが,「環境」に向かいあうことでは筋を通してきました。今後はどこへ向かうのか,自分でも楽しみ(?)です。