ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

化学物質環境リスク研究センターが果たす役割

化学物質環境リスク研究センター

中杉 修身

 化学物質環境リスク研究センターは,循環型社会形成推進・廃棄物研究センターとともに,環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案・実施に必要な調査・研究を行う組織として,独立行政法人化に伴い,新たに設けられた組織である。次々と顕在化する新たな化学物質汚染に対応するべく,ダイオキシン類対策法,PRTR法など,次々と新たな法制度が整備され,また化学物質の審査が環境省の新たな責務に加えられた。これらの化学物質リスクにかかる政策を支援する手法の開発や知見の整備が当センターの責務である。

 化学物質汚染が複雑化・多様化するとともに,その管理に要するコストが増大しており,その一方では十分なリスク管理から取り残される部分が生ずるおそれがある。このような状況に対応するべく,当研究センターでは,今後5年間の中期計画期間において「効率的な化学物質環境リスク管理のための高精度リスク評価手法の開発」を実施し,曝露評価,健康リスク評価,生態リスク評価と住民に十分に分かりやすく,情報を伝えるリスクコミュニケーションのそれぞれにおいて新たな手法の開発を計画している。

 曝露評価については,過去の我が国での平均的な曝露濃度の経年変化を推定するモデルを試作し,これを用いて長期累積曝露量を算定するシステムを構築する。今後予想される曝露濃度の変動を考慮した毒性評価手法と組み合わせることによって,より高精度の健康リスクの評価が可能になると期待される。一方,化学物質の性状データや環境濃度の測定データ等を統計的に解析し,これに基づいて入手可能な少ない情報から化学物質の曝露量を推定する手法を開発する。この手法を活用することによって,化学物質の審査やモニタリング対象物質の選定などの効率化を図ることができると期待される。

 健康リスク評価については,ヒトの化学物質感受性に係る要因を主要な数種類の遺伝子多型情報を基に解析し,それを踏まえた安全係数の設定方法など,より高度な健康影響評価手法の開発を進める。これによって過度なリスク管理を避けるとともに,化学物質の影響を受けやすいヒトに配慮したリスク管理が可能になると期待される。また,化学物質の有害性を作用メカニズムに基づいて評価する試験法を開発する。多くの試験法が提案されているが,それらの中から実際のリスク管理に利用可能と考えられるものを選び出し,簡便化,標準化を試みる。この試験法を活用することによって,対象化学物質の増加によって増大するモニタリングを始めとするリスク管理のコストを抑制できると期待される。

 我が国では生態リスクの観点からの化学物質管理はこれからの課題になっている。生態リスク評価については,水圏生物への毒性試験データを収集し,生物種ごとに解析することによって,個別生物への影響に基づいて生態系へのリスクを評価する現行のリスク評価方法の高度化を図る。また,この結果と水圏における化学物質動態モデルと組み合わせた水圏生態リスク評価モデルを構築し,化学物質の審査や水質モニタリングへの適用を図る。

 化学物質リスク管理の大きな課題の1つは社会的な合意が形成しにくいことであり,これを促進する手段としてリスクコミュニケーション手法の確立が待たれている。このリスクコミュニケーションについては,住民が理解できるように化学物質関連情報を加工し,インターネットで提供する方法を検討するとともに,住民参加の下でリスクコミュニケーションを行う手法を開発する。

 当センターには,これらの研究・開発だけでなく,化学物質の審査,生態試験機関の査察,化学物質リスク管理に係る国際会議のフォローなど,環境省の化学物質関連施策を直接支援することも求められている。現時点での当センターの体制は,曝露評価研究室,健康リスク評価研究室と生態リスク評価研究室の3室体制である。環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト,PM2.5・DEP研究プロジェクトなど,当センターに関連する重点特別研究プロジェクトが進められるため,当初は専任が4人という小世帯でスタートすることになる。新規採用によって人員を補充するとともに,併任をお願いするなど,他部門の研究者の助けを借りながら,当センターに課せられた任務を果たしていこうと考えている。

(なかすぎ おさみ,化学物質環境リスク研究センター長)

執筆者プロフィール

地域環境問題について,とくに化学物質,廃棄物,土壌・地下水汚染を中心として政策対応型研究を行ってきた。球を扱うスポーツを趣味としてきたが,体力の衰えとともに,最近ではもっぱら観戦で息抜きをしている。

目次