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循環型社会形成推進・廃棄物研究センターの今後

循環型社会形成推進・廃棄物研究センター

酒井 伸一

1.循環・廃棄物研究センターの生まれる背景

 「二兎を追うものは一兎をも得ず」という諺がある。これは欲をたしなめる意味にも解されるが,文明社会がおかれている状況,突き進んできた状況は,より高い目標をもたねばその影響からの緩和は得られない状況にあるようにみえる。私はごみ問題に対して,「二兎を追うときのみ救われる」と言っているが,その意味は「循環型社会形成」と「化学物質コントロール」の二兎を追わない限り,地球系と生命系の持続性は担保できないとの意味である。「資源・エネルギーの枯渇問題」「廃棄物の投棄問題」「温暖化ガスによる気候変動」「水銀による人体被害」「ダイオキシン問題」「内分泌撹乱化学物質問題」など,20世紀後半に次々と明らかになってきた問題の多くは,地球系と生命系の持続性に対する懸念を予感させるものばかりである。こうした懸念への解,少なくとも緩和をもたらすシナリオが,「循環型社会形成」と「化学物質コントロール」の同時達成であり,この二兎を追うときのみ地球系と生命系は救われるといっているのである。前者の「循環型社会形成」に対しては,発生回避,再使用,リサイクル,適正処理,最終処分という階層対策概念が与えられ,一方,後者の「化学物質コントロール」に対しては類似の概念として,クリーン・サイクル・コントロール概念が与えられる。有害性のある化学物質の使用は回避(クリーン)し,適切な代替物質がなく,使用の効用に期待しなければならないときは循環(サイクル)を使用の原則とし,環境との接点における排出を極力抑制するため,過去の使用に伴う廃棄物は極力分解,安定化するという制御概念(コントロール)で対処するとの考え方である。これら二つの階層概念でもって,低環境負荷を前提とした物質循環型社会形成に立ち向かわねばならない。

2.循環・廃棄物研究センターのめざす方向とその研究スタンス

 循環・廃棄物研究センター(正式には「循環型社会形成推進・廃棄物研究センター」で,その略称)のめざす当面の方向と重点課題は,国立環境研究所の中期計画に明示されている。まず,重点研究分野として,廃棄物の総合管理と環境低負荷型・循環型社会構築にかかわる分野が特定されている(図参照)。「循環型社会構築」の枕詞として「環境低負荷型」を授けていることが,今後の研究推進に向けた一つの意志と考えている。また,独立行政法人化後に研究推進する方向性の一つの特徴に,政策対応型調査・研究の推進(具体的課題は図のとおり)があり,その役割の相当部分を循環・廃棄物研究センターが担うこととなる。

図
図 循環廃棄物研究センターの中期計画の概要と到達目標.

 さて,こうした物質循環や廃棄物研究を進めるに あたっての当面の目標,基本スタンスは,第1に政 策対応型調査・研究としての要請に応えること,第 2に学際研究として廃棄物研究分野で一級の評価を 受けること,第3に次代の物質循環・廃棄物研究基 盤を支える人材を視野におくこと,としたい。何を 政策対応型研究とするかについては,本ニュースに 掲載された森田恒幸社会環境システム研究領域長の 整理(第19巻第2号)がある。現在の我々の実力に 鑑みれば,「行政調査」としての政策研究をこなし つつ,「学」としての政策研究をめざすこととなろ う。これに関連して,第2の学際研究としての評価 は,一定の社会を形成しつつある廃棄物研究分野で, まず十分な成果を見せるという意味である。そのう えで現象解明や問題発見としての秀でた研究貢献を 個々の既存学問分野でなすことがあれば,これに勝 る喜びはない。そして,第3の研究基盤を支える人 材を視野におくとは,まずは研究優先,そのうえで 研修などの社会要請を果たしていくとのスタンスを 意味する。もちろんのこと,物質循環や廃棄物問題 ほど日々のくらしに密着している問題はなく,社会 的な議論や啓蒙の重要性は強く認識している。優先 性としての認識である。

 効率性の視点から民の発想を取り入れた独立行政 法人としての運営に乗り出すこととなった国立環境 研究所。そのなかでの循環・廃棄物研究センターは, 物質循環が産業政策と密接不可分で,経済効率的発 想が要求されるという意味で,より独立行政法人的 研究を行うにふさわしいとの見方がある。その一方, 国の防衛と福祉,そして環境は国家の仕事,とよく 言われる。物質循環・廃棄物管理が環境保全と密接 不可分であるがゆえ,より科学的研究を志向しなけ ればならないという見方ももたねばならない。結局 のところ,こうした意味からも少なくとも二兎は追 わねばならないと肝に銘じているところである。

 最後に,これまでの廃棄物研究を支えていただい た京都大学をはじめとする大学人の方々,環境行政 の第一線を経験させていただき,数多くの研究ヒン トを与えていただいた環境省の方々に深く感謝申し 上げたい。そして,今回,循環・廃棄物研究センタ ーでの研究の機会を与えていただいた国立環境研究 所関係者の方々の期待に応えねばならないとの決意 をここに記し,今後ともご指導の程,よろしくお願 い申し上げる次第である。

(さかい しんいち, 循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長)

執筆者プロフィール:

神戸,京都をこよなく愛する根っからの関西人。その思い は阪神大震災後,ことのほか強くなっている。さて,つく ばを第3の都とすることができるか,努力するものでもな いが,奮闘中。

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