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独立行政法人国立環境研究所発足にあたって

理事長 合志陽一

 国立環境研究所はその前身を国立公害研究所として,1974年に発足した。四半世紀以上の歴史を持っている。1990年には組織を大きく変え公害研究から広く地球環境へ研究対象を拡大し,国立環境研究所と改称され現在に至っている。そして本年4月環境省から離れ,独立行政法人国立環境研究所として新しくスタートすることとなった。組織も運営も大きく変わることとなる。創立以来最も大きな変化である。この記念すべき重要な時点にあたり,我々の持つ課題について述べたい。

 我々は,社会的要請に応える環境研究を立案,計画,実施することを環境省より付託されることとなった。その実施の方法は,国の機関としての制約を離れ,法律を遵守する限り自由である。基本的には極めて大きな自由度を持ったことになる。このような変化は我が国においては稀なことである。研究者にとって,また研究機関にとって,研究成果を上げ社会への貢献を果たすまたとないチャンスである。一方,このような自由は国公立の研究機関では今まで経験していないものである。海図なき航海に乗り出すに等しいと言えよう。研究にあたって,方向の探索,計画の立案,実現,実施のすべてを自らの責任において実行することになる。大きなチャレンジである。過去の歴史,行政改革(具体的には度重なる定員削減)の影響は今後も大きな制約となることは否めないが,それを克服して課題に取り組みたい。

 第一の課題に先行先導的研究がある。現在一般には意識されていないが将来環境問題として浮上すると見られるものである。先行先導的研究は単なる基礎研究とは全く異なる。将来の環境問題として明確なターゲットを置き,現在の科学的知見に基づき試行錯誤を重ねながら修正を繰り返してターゲット達成への筋道を作るもので,最も洞察力が要求される分野である。今までは研究者個人に委ねられていたこのような探索機能を組織的に充実しなければならない。

 第二は顕在化した問題への対応研究である。多くの場合即応性が要求され,また環境問題の本質上,学際的な性格のものが多い。専門とする研究の長年の蓄積を動員し,また組織的プロジェクトにより対応することとなる。研究領域とプロジェクトチーム,研究センターを中心とする新組織はこれを特に留意して構成したものである。

 第三の課題は戦略的モニタリング(長期的視点に基づく組織的モニタリング)に代表される基盤研究である。戦略的モニタリングはあらゆる環境研究の基盤であるが,研究者個人の知的関心をドライビングフォースとする大学には馴染みにくい。公的研究機関である本研究所こそ,その中心的な役割を担うべきである。全国的なネットワークの中心として機能する必要がある。

 第四に,これらの研究活動を技術的・事務的に支え,また成果を発信することで社会へ還元していく支援機能の充実が大きな課題である。これらの課題は規模の大小は別としていずれも相互に不可欠なものである。

 以上の課題に取り組むにあたって最も大きな障害は人員不足である。しばしば比較されることであるが,米国の環境保護庁の研究者(3000人以上)に比べ,より広く環境全体をカバーしなければならないにも拘わらず,本研究所の研究者数は1/10以下である。この問題の解決は容易ではないが,最も急を要する。全国・全世界の研究者のネットワーク形成,共同研究の組織化は解決の一助と考えられる。これらに努力したい。次に重要なことは研究者の支援である。今までは活発な研究者ほど時間的にも経済的にも個人の負担が増大していた。合理的な解決を図らなければ,研究所は魅力を持ち得なくなる。弾力的で多様な勤務体制までも含めて創意工夫が必要である。そして最後に,公正な評価とケアで全員が充実感を持って勤務に就ける研究所を実現したい。

(ごうし よういち)

執筆者プロフィール:

 東京大学工学部名誉教授,元東芝総合研究所主任研究員。専門は分析化学。若い頃はサイクリング,トレッキングを若干やったが今は趣味はなく家内より定年後は困るだろうと言われている。その時は家事手伝いなどするつもり。つくばでの自炊できたえておりますので。

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