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有機ハロゲン量測定 −−何を測るのか−−

研究ノート

山本 貴士

 有機ハロゲンには,トリハロメタンやPCBなどの例を挙げるまでもなく,毒性の強い物質が多い。これらの物質の多くは塩素処理や燃焼過程によって生成したり,あるいはそれら自体農薬などとして使用され,環境中に放出される。こうした有機ハロゲンの環境や生体への影響を評価するためには,何等かの方法でこれらの物質を測定し,その濃度を知る必要がある。

図
図 下水処理水を塩素処理した試料中の有機ハロゲン量
 抽出分はヘキサンで抽出されたもの。

 その方法として,個々の物質をガスクロマトグラフィー(GC)などの選択的な分析手法を用いて同定・定量するというものがあり,また,有機ハロゲンの総量を測定する吸着可能な有機ハロゲン(AOX)測定法なども,簡便であるため広く用いられている。すべての有機ハロゲンが個別に定量できるのであれば理想的なのは前者であるが,必ずしもそうならない。有機ハロゲンを個々に定量する方法には,溶媒抽出ののちGCなどで測定するというものが多いが,溶媒で抽出される成分は限られている。図に下水処理水を塩素処理した試料中の有機ハロゲンのうち,ヘキサンで抽出されるものとされないものの量を示した。この例では,抽出可能な有機ハロゲン(EOXとよばれる)量は,全体の一割強にとどまっている。また,溶媒抽出されるものでも,GCなどで分析できる成分はさらに限定される。

 一方,後者には何を測っているのかはっきりしないという弱さが常につきまとっている。例えば,AOX測定では活性炭などの吸着剤に吸着される物質すべてを燃焼し,発生するハロゲン化水素を定量するという方法を採るため,有機ハロゲンの組成に関する情報は得られない。ここでは,前者についてはこれ以上触れず,筆者が現在取り組んでいる後者をいかにして改善してゆくかということについて述べる。

 AOXなどの有機ハロゲン量測定にある程度の選択性を持たせる方法としては,分子量分画などの手法を組み合わせることが有効であると思われ,現在検討を行っているところである。試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分子量ごとに幾つかの画分に分け,それぞれの有機ハロゲン量を測定して分子量分布を得る試みはすでに行われている。有機ハロゲンもその起源によって分子量分布のパターンが異なることは十分考えられることで,その違いが一目で確認できるようにし,有機ハロゲンの排出源の特定やモニタリングなどに活かせるようにしたいと考えている。また,人間活動によらない有機ハロゲンについて,近年様々な報告がなされている。その主な論拠は,遠隔地の湖沼水などの有機ハロゲン量の測定の結果,人為的な排出量では存在量を説明できないというものである。この場合も,人為的な排出源からの有機ハロゲンの分子量分布パターンと湖沼水中の有機ハロゲンのパターンを比較することで,新たな論拠を提示できるかも知れないと思っている。

 このほかにも,液体クロマトグラフなどに有機ハロゲン量測定装置を検出器として組み合わせた,選択的な分析装置を構築できるかも知れない。その際に問題となるのは,検出感度がμgオーダーとさほど高くないことである。従って,工場排水や底泥抽出物など,有機ハロゲン量が比較的多いものであれば適用は容易であるが,環境水などでは事前に濃縮操作を行わなければならず,簡便であるとは言いがたい。機器の改良については筆者の力の及ぶところではないが,有機ハロゲン量測定装置がもう少し高感度化・小型化されれば,様々な局面で利用できるようになるものと思われる。

(やまもと たかし,化学環境部計測管理研究室)

執筆者プロフィール:

名古屋大学理学部化学科卒
〈現在の研究テーマ〉有機塩素化合物の分析
〈趣味〉特撮映画の鑑賞。ホームページづくり。