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総合研究と基盤研究の重点化

中杉 修身

 プロジェクト研究を担当する総合研究グループから約6年ぶりに基礎的研究を行う基盤研究に戻ってきて2カ月あまりが過ぎたところである。もっとも,国立環境研究所への改組から,初めて総合研究グループを離れるわけで,基盤研究部は初めてというべきかも知れない。5年あまりの総合研究グループでは,プロジェクト研究部門ということもあり,研究の重点化が常に大きな課題となっていた。特に,リスク研究グループに移ってからは,重点化したプロジェクト研究をいかにして企画していくかが,私が果たすべき役割であると考えてきた。

 重点化研究を実施していくためには,個々の分担課題を実施する縦糸とそれらの課題を総合化してまとめる横糸をうまく織り込んでいくことが必要であると考える。しかし,現在のプロジェクト研究の中には,縦糸が集まっているだけで,横糸は縦糸を担っている研究者の一人が役目上織っているだけで,十分に織り込まれていないように見えるものもある。

 この横糸を担当する研究者がいないことが研究の重点化を難しくする原因の一つと考える。研究所には広い意味で生物を用いた試験法の研究を行っている研究者の数は多く,研究を重点化していく上で最も大きな要因となる人的資源については,相対的には最も恵まれていると考えられる。しかし,バイオ・アッセイに関するプロジェクト研究も提案されたが,重点化という形で提案されていないのは,横糸を担おうとする研究者がいなかったためと考える。私自身が,横糸を担うべきではなかったとの批判を甘んじて受けるが,いずれのテーマにせよ,横糸を主たる任務とする研究者がいることが,重点化の必要条件と考える。

 一方,研究を実施するのは,一人一人の研究者であり,研究者の研究意欲がわかないテーマを与えても,十分な成果を期待することができないのは自明の理であり,無理に重点化を行うと,研究意欲を削ぎ,成果があがらなくなるということになりかねない。この点を解消することが,研究の重点化が成功するかどうかの分かれ目になると考えた。

 これらの点が容易に解消されていれば,既に重点化されているはずとも考えたが,トライすることにした。フリーなディスカッションを通じて,横糸を担う研究者が提案した研究テーマについて,この指に止まれ式に,縦糸を担当する研究者が集まることによって,実効性のあるプロジェクト研究が企画できると考え,リスク研究グループだけでなく,基盤研究部のメンバーにも参加してもらい,環境リスクに関するフリーディスカッションの場を設けた。この場では,地球環境問題を含めて,どのような環境リスクが人類の生存にとって最も大きな障害となるかから始め,リスク研究グループが現在対象としている化学物質汚染は人類の生存にとってどの程度の障害となるか,またそれを解明するには,どのような研究を実施すべきかについて議論した。このディスカッションが十分な成果をあげられないまま,総合研究グループを離れることになった。今年度から始まった特別研究「輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究」は,多分野の研究者が参加し,多様な環境問題について密に議論しながら進められており,この特別研究の副次的効果として,この指に止まれ式のプロジェクト研究の芽がいくつも生まれることを期待している。

 総合研究グループでやり残したことばかり書いてきたが,人的資源の不足から基盤研究部でも重点化の必要が言われている。しかし,総合研究グループと違い,基盤研究部では研究のシーズを育てていくことが重要な役割の一つであり,狭いテーマに絞って部全体を重点化していくことは適切でなく,シーズからプロジェクト研究までをつなぐ多様なレベルで必要に応じて重点化することになると考える。シーズを産み出すには,個々の研究者の発想が重要と考えられ,重点化には,よりフリーなディスカッションの場を確保する必要があると考えており,その場を設えていくのが私の役割と認識している。また,基盤研究部の段階では,明確に横糸を織り込む必要はないと考えるが,必要に応じて横糸を織るのも私の役割と考えている。


(なかすぎ おさみ,化学環境部長)