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研究組織とはどんな組織か

巻頭言

人事院人事官、前所長 市川惇信

いちかわ あつのぶ の写真

 「大学はゲマインシャフトかゲゼルシャフトか?」大学紛争における学生の問いかけの一つであった。共同体(ゲマインシャフト)と機能体(ゲゼルシャフト)は組織の二つの極限形として,組織論でよく用いられている概念である。共同体とは,組織それ自体またはその構成員の生き残りと安寧を目的とする組織であり,地域社会,同窓会,修道院などに典型がみられる。機能体とは,組織目標をもち,それを達成するよう機能が作り込まれた組織であり,軍隊,行政組織などはその典型とされる。もちろん,本来機能体であるべき組織が共同体と化すこと,また,その逆もあることは,周知のとおりである。現実の組織はこの2つの極限形の中間として記述できる,とされている。研究組織はどちらであろうか。一部の例外をのぞいて,研究組織は目標を設定している。したがって機能体に近い存在である,とみられるが,果たしてそうであろうか?

 組織属性として構成員の可視性を考える。共同体は組織それ自体と構成員のための組織であるから,誰がどこにいるかは組織の内部では重要であっても外から見えなくてよい。機能体では機能分担が行われており,誰がその機能を受け持っても組織全体としての目的が達成できるよう設計されているから,構成員は外から見えなくてもよい。見えないもの二つの中間をとっても見えるようにはならない。研究組織の場合には,見えるというよりも,構成員を通じて組織が認知されているといってよい。

 他の多くの組織属性についてもこのことがいえる。すなわち,研究組織を記述するためには第3の極限形が必要である。ここでは進化的に成果が生みだされてくることから,この極限形を進化体と名付けよう。進化体の典型例として,研究組織のほかに,設計事務所,芸術・芸能プロダクションなどがある。本研究所が共同体−機能体−進化体から作られる三角形のどこに位置しており,どこにもっていくかは,研究所の将来を考える上での一つの有用な尺度になるのではなかろうか。