“Small”であることに由来する 生体影響への挑戦
環境ナノ粒子の生体影響
ディーゼルエンジンに由来する環境ナノ粒子の研究は、吸入曝露装置の開発に関する研究から始まり、実際にこの装置を用いて環境ナノ粒子の毒性・生体影響評価に関する研究が行われました。1カ月から数カ月間曝露する短期間の試験に加えて、18カ月間の長期吸入実験も実施しました。環境ナノ粒子が、鼻腔内の嗅神経を介して脳内に直接輸送される可能性があること、循環器機能を変化させること、感受性が高いマウスにおいて肺の腫瘍発生率をわずかながら上昇させることが、明らかになりました。
環境ナノ粒子の呼吸器内沈着と体内動態に関する研究
金ナノ粒子や蛍光標識したポリスチレン粒子を小動物の呼吸器内に曝露した実験結果から、20nmのナノ粒子は、エンドサイトーシスと呼ばれる細胞膜が陥入することにより細胞外の物質を取り込む機構を介して肺胞上皮細胞に取り込まれた後、一部は肺胞壁を通過して毛細血管に移行することを明らかにしています。海外の研究機関で行われた実験でも、30nm程度かそれよりも小さく表面が正電荷を帯びていないナノ粒子は、組織を通過しやすいことが、知られています。
粒子を捕捉する細胞膜上の受容体
肺胞域に沈着した粒子状物質は、白血球の一種である肺胞マクロファージにより貪食と呼ばれる細胞内への異物取り込み過程によって、肺胞表面から除去されます。なぜ、マクロファージが効率よく粒子を細胞内に取り込むことができるのかについては、いまだ正確には解明されていません。しかし、マクロファージには三重らせん構造をもつ特有の受容体が細胞膜表面に存在しており、その受容体によって粒子を効率よく細胞内に取り込むことができるのではないかと考えられています。そこで、遺伝子工学的手法を用いて、この粒子を取り込む受容体を緑色の蛍光を発するタンパク質で標識して細胞内で人工的に発現させ、粒子の取り込みを調べました。カーボンナノチューブをはじめとした粒子も、この受容体を介して効率よく細胞内に取り込まれることがわかりました(図6)。
■図6 カーボンナノチューブの取り込み
肺胞マクロファージは、肺胞領域に沈着した粒子状物質を貪食することにより、 肺胞表面をきれいに保つ役割を果たしています。いわば、肺の掃除屋さんです。 なぜ、マクロファージにこのような粒子除去機能が備わっているのでしょうか。そ れは、マクロファージの細胞表面にはMARCOと呼ばれる受容体が発現してい て、その受容体が粒子状物質をいち早く認識するからです。
(a)はMARCO受容体をGFPと呼ばれる緑の蛍光を発するタンパク質と一緒 にして細胞膜上に発現させたイメージ図です。GFPと一緒に発現させることで、 MARCOが細胞のどの位置に存在しているのかが分かります。(b)はMARCO だけを、(c)はカーボンナノチューブを中心に共焦点レーザー顕微鏡で撮影したも のです。(d)は、(b)と(c)を重ね合わせたものですが、緑色の場所、すなわち MARCOが発現している位置にカーボンナノチューブが接着していていることが 分かります。すなわち、肺に沈着したカーボンナノチューブも、他の粒子状物質と 同様に、MARCO受容体を用いてマクロファージが掃除してくれるということがわかりました。(TAAP, 259 : 96-103)
カーボンナノチューブの細胞毒性試験
カーボンナノチューブの細胞に対する影響として、マクロファージや気管支上皮細胞を用いた細胞障害性試験を進めました。よく分散させたカーボンナノチューブは、非常に強く細胞を傷害し、アスベストの一種であるクロシドライトよりも細胞障害性が高いことがわかりました。さらに、電子顕微鏡を用いた組織学的研究により、カーボンナノチューブの細胞障害性が、主として細胞膜や細胞小器官の1つであるライソゾームが傷つけられることで、起こることが明らかになりました。
カーボンナノチューブの細胞毒性
カーボンナノチューブの細胞に対する影響として、マクロファージや気管支上皮細胞を用いた細胞障害性試験も進めました。よく分散させたカーボンナノチューブは、非常に強く細胞を傷害し、アスベストの一種であるクロシドライトよりも細胞障害性が高いことがわかりました。さらに、電子顕微鏡を用いた組織学的研究により、カーボンナノチューブの細胞障害性が、主として細胞膜や細胞小器官の1つであるライソゾームが傷つけられることによって起こることが明らかになりました。
カーボンナノチューブの呼吸器毒性
まず、動物を用いた毒性学的実験として、吸入曝露チャンバーを作製してカーボンナノチューブの毒性を評価するシステムを構築し(図7)、またマウスへの胸腔内投与実験も行いました。カーボンナノチューブを短期吸入曝露したマウスでは、マクロファージにカーボンナノチューブが取り込まれていること、肺に強い炎症は見られなかったものの、酸化ストレスの指標である遺伝子の発現が上昇することが見いだされました。また、助剤を用いてよく分散した少量のカーボンナノチューブをマウスの胸腔内に投与した実験では、肺組織側の中皮が肥厚することなどの病理的変化が起きることが明らかになりました。
■図7 吸入曝露による生体影響を調べる
化学物質や製品素材などの生体影響評価を行う場合、まず、どのような経路で対象となる物質にわれわれが曝露される可能性があるかを見極めることが重要です。空気を経由して曝露することが想定される場合は、試験物質を実験動物に吸入させて影響を調べる必要があります。写真に示したように、鼻や頭部だけ短期間吸入曝露させるための装置のほか、飼育ケージごと動物を装置内に入れて長期間の試験ができるようにしたものもあります。細菌などが混入しない環境で、かつ作業者が試験物質に曝露することがないように様々な工夫がされています。
